2020年03月04日

授業レポート

「一度失ったものを普通のものとするために -野生復帰最前線における地域の取り組み-」(2/1)大石麻美先生の講義レポート

小川夏佳(2019年度 本科/学生)

 

今回は外部講師最後の講義、「佐渡生きもの語り研究所」の大石麻美先生の講義でした。短期間で職員が異動するという特徴のある自治体を支え、研究機関がまとめた話を農家や市民に分かりやすく話すという活動をされている大石先生。佐渡島の紹介、トキの野生復帰・自然再生の取り組みから、研究職でも自治体職員でも農家でも学校の先生でもない「理解してつなげる」職とは何なのかについてお話いただきました。

 

 

佐渡ってどんなところ


新潟県佐渡市は、森林の面積が大きく、漁業と農業が盛んな都市です。様々な海産物や、リンゴやみかん、柿などの果物が豊富に獲れます。新潟県のブランド米、魚沼産コシヒカリに次いで佐渡米というブランド米もあり、一次産業が盛んです。また、伝統芸能が多彩で、36の能舞台があり、歌舞伎や鬼太鼓もあり、地域の人々が盛り上げ、伝承しています。

 

佐渡島は2004年に佐渡市という一つの市になりました。かつては10の市町村から成り立っていたため、地域性が高いのが特徴です。それぞれの地域ごとに大切にしている文化や価値観が異なっています。そのため、トキの野生復帰もこの地域の人の考え方、心を動かすことが大事になってくると大石さんは語ります。

 

佐渡の取り組み

 

トキの野生復帰のために、環境省、新潟県、佐渡市がそれぞれの役割を明確に持ち、活動しています。環境省は「放鳥モニタリング」、新潟県は「増殖・訓練」、佐渡市は「自然再生」の役割を担っています。そこに大学や研究機関とも連携し、トキの野生復帰を行っているのです。

 

佐渡市の役割である「自然再生」は、トキが自然に暮らしていけるように市民と一緒になって動いていくことが大事です。その基盤を支えているものが、「朱鷺と暮らす郷」という佐渡市が2007年に認証したお米です。米作りがキーになる理由として、トキの採餌環境にあります。トキは、足が短く、お腹に水が付くのを嫌がります。そのため、浅い水辺を好んで、探りながらの採餌をします。佐渡でトキのエサ場となるような環境は、田んぼがメインであり、田んぼを豊かにしないとトキは生きていけません。放鳥後、トキはどこで採餌しているのか観察を行い、畦が大事であることが分かりました。また、トキの食性について、多数の生物を必要とすることが明らかになりました。豊富なエサを維持するためには農家の協力が欠かせません。そこで佐渡市では、農家とともに生き物調査や生きものを育む農法を実施しています。生き物調査は、様々な生き物が田んぼに生息しているということを知ってもらい、ただ米を作っているのではないという意識をもってもらうという目的もあります。生きものを育む農法では、江の設置や、ふゆみずたんぼの実施などの取り組みを行っています。これらの活動により、トキが豊富なエサを採れる場所がつくられ、野生下で生まれるトキも増えてきました。

 

また、佐渡はトキが野生復帰をすることをきっかけに、トキとの共生する島、生物多様性豊かな島、多彩な伝統芸能を持つ島として「豊かな環境と暮らしを次世代につなぐ」ことを掲げ、一般社団法人 佐渡生き物語り研究所を2011年に設立しました。この研究所は、環境と農業が循環する持続可能な社会を目指すために、佐渡市の外部委託をメイン事業として行っています。自治体の活動は数年の任期による異動で活動が滞ることがあるため、自治体の活動を支えています。

 

 

これからの課題

 

認証米の取り組み、トキとの共生を始めて10年。現在佐渡市では、農家数の減少、農業の大規模経営化、米の年間消費量の減少、放棄水田の増加が問題となっています。放棄水田が増えることは、トキの繁殖に影響し、野生復帰に不利益となります。これらの課題を解決していくことが今後必要であると大石先生は語ります。

 

研究所では、佐渡の豊かな環境と生きものたちと共に生きていく農業や暮らしを目指して、子どもを対象とした田んぼの環境学習や佐渡Kids生きもの調査隊、さど里山こびりぃ隊などの環境教育を行っています。また、世界農業遺産を親子で楽しむ体験として、佐渡めぐり塾という、伝統芸能や漁業と米作りの循環などを学ぶ事業を行っています。さらに、数多くのトキと末永く共生していくため、生きもの豊かな田んぼとその環境を維持するために、農家を対象にカメムシ講習会などを行っています。このような活動を通して、佐渡とトキ、生物多様な環境の共生を行っているのです。

 

これらの研究所が行っている活動には、独自事業もありますが、佐渡市からの委託事業がメインです。短期間で職員が異動するという特徴のある自治体だからこそ、人の変化により自治体のモチベーションを維持することが難しいと大石先生は語ります。トキの野生復帰が進みつつあることで、トキがいることに慣れるという状況にもなっているそうです。自治体が動くというよりも意力のある市民が活動するというふうに変化していると語っていました。

 

 

講義を終えて、地域で活動するということは、その地域を良く知るということから始まり、地域性を活かした取り組みを行うことが、市民も巻き込んだ活動へとつながっていくのではないかと思いました。自治体の変化を感じつつ、研究所の目的を市民を巻き込んで行い続けるというのは、これまでに地域をトキを研究内容を「理解してつなげてきた」からこそだと感じました。

大石先生、ありがとうございました。