2020年08月17日

活動報告

第111回サイエンス・カフェ札幌|オンライン「ステイホームいかがお過ごしですか? 〜「親」「子」の意見から考える子どもの世界〜」を開催しました

 

2020年7月5日(日)、愛甲哲也さん(北海道大学 大学院農学研究院 准教授)、加藤弘通さん(北海道大学大学院 教育学研究院 准教授)をゲストにお招きし、サイエンス・カフェ札幌|オンライン「ステイホームいかがお過ごしですか? 〜「親」「子」の意見から考える子どもの世界〜」を開催しました(当日の様子はこちらより動画でご覧いただけます)。 サイエンス・カフェ札幌で初のオンライン開催となりましたが、全国各地より約100人にご参加いただきました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を社会のあり方を考え直すきっかけとして捉え、ゲストの最新の調査結果に基づく話題提供から、これからの子どもたちの過ごし方にとって大切なことを考えた75分間のイベントでした。

(北海道大学内の教室からオンラインで配信しました。換気の良い室内で、人と人の間にアクリル板を設置するなど、感染症拡大防止に配慮した形式でした。)

 

イベントは、聞き手を努めた梶井宏樹(CoSTEP 博士研究員)からの以下の問いから始まりました。

 

子どもたちが、どのように過ごすことのできる世界を願いますか?

そのために私たちには何ができるでしょうか?

 

本記事では、ゲストからどのような話題提供があったのか、参加者からどのようなコメントがあったのかを簡単にご紹介し、イベント実施後のゲストからのコメントをお届けします。

 

 

愛甲さんからの話題提供

 

愛甲さんは、都市公園や自然公園の計画と管理、市民参加による管理運営、子どもの遊び場など幅広くご研究されています。例えば、1990年からおよそ10年に1度、札幌市内の小学2年生と5年生を対象に実施している「子どもたちがどういう場所でどれくらいの時間遊んでいるのか」に関する調査からは、子どもの遊ぶ時間が減少していること、遊び場が公園に集中していることなどが明らかになっているそうです。

 

(愛甲哲也(あいこう・てつや)さん。専門は造園学。2018年8月7日に開催したサイエンス・カフェ札幌にもご登壇いただきました。今回、子どもの遊び場に関する話題提供をいただきましたが、実は子どものころは公園で遊んだことがなかったそうです。)

 

COVID-19流行による休園・休校、外祝自粛中、子どもたちがどのように過ごしているのか、保護者はどのような悩みを抱えているかなどに思いを巡らせた愛甲さんは、休園・休校になっている幼児〜中学生の生活実態調査を実施しました。「子どもの過ごし方、各家庭などの工夫を調査すれば、子どもの居場所、遊び空間の改善につながるかもしれない」という想いがありました。

 

3月19日から実施したWEBアンケート調査には、札幌市を中心とする1300人以上もの保護者からの回答が集まりました。この「親」視点のデータからは、やはり外遊びの機会が大きく減っていた実態や、「ステイホーム中でも、子どもに外で遊ばせることができれば」という親の想いが明らかとなりました。

 

(愛甲さんの今回の調査結果の1例。子どもたちの外での遊びや友だちとの対面での遊びの機会が大きく減っていたことなどが一目でわかります。)

 

話題提供の最後に、愛甲さんから参加者に次のような問いかけがありました。

 

子どもたちに多様な遊び環境と適切な情報提供を提供するためには、どうしたら良いと思いますか?

 

実は、この問いかけは、COVID-19の流行で顕在化した課題のみに関わるものではありません。そもそも子どもの身体性や社会性などの発達には遊びが大切であることや、少子化や管理の効率化の問題から公園の遊び場が減少していることなども大きく影響しているそうです。みなさんなら、愛甲さんからのこの問いにどう答えますか?

 

 

続いて、加藤さんからの話題提供

 

加藤さんは、思春期の発達と問題(非行や学校の荒れ、いじめ、不登校、自尊感情の低下など)を「思春期になると、なぜ起こせるようになるのか?」という視点からご研究されています。例えば、自尊感情の低下の要因として、加藤さんは「思考の発達(論理的に考えられるようになること)」を重視しています。思考が発達することで、「考えている自分の考え方を考えられるようになる(自分が考えていることを考えられるようになる)」と言います。悩んでいる自分に悩み、「こんなことに悩んでいる自分ってだめなんじゃないか・・・」と悩みがさらに深まり、自身に対する価値観が下がってしまうのです。実際に調査してみると、思考が発達している子どもほど自尊感情が下がりやすいという結果が得られたそうです。

(加藤弘通(かとう・ひろみち)さん。専門は発達心理学。いざ自身で思春期の研究を進めると、「自分は思春期時代に荒れるタイプではではなかったが、集団が荒れるのを支えていたタイプだったのかもしれない……」と振り返るようになったそうです。)

 

加藤さんは、COVID-19流行による休校に関して、「今回のような休校は初めてで、不明な点が多く、不安をあおられる言説も多い」と感じました。また、「普段は学校がストレス源のように言われているのに、学校がないこともストレスになるのは不思議」という素朴な疑問も浮かんだそうです。そこで、加藤さんは、より丁寧な議論を行うべく、きちんとデータを取ることを決めました。

 

具体的には、以前から調査をしていた東海地方と北海道の中学校で、休校直後に生徒を対象にしたアンケート調査を行いました。いわば、今回の休校に対する「子」の意見です。その結果、休校は生徒のストレスを高めた可能性があるものの、ストレスの値自体はそれほど高くなかったことや、反応には地域差があること、生徒によって多様な反応が見られたことが明らかになりました。

(加藤さんの今回の調査結果の1例。調査した東海地方の中学校では、学校に良く適応できている生徒(図の「高群(青色)」)のストレスは休校によって高まった一方で、学校にうまく適応できていない生徒(図の「低群(赤色)」)には良い影響があったのかもしれないと考えられるデータが得られました。)

 

最後に、大人だけで物事を進めないことや、どんな課題があるのかを知るといった現状の分析の大切さを強調した上で、加藤さんからは次の問いかけがありました。

 

休校問題は、まず第一に子どもたちの問題です。

この問題への子どものどんな参加の仕方があるのか、みなさんはどう考えますか?

 

愛甲さんからの最後の問いと同様に、これにもCOVID-19以前からあった問題意識が含まれています。例えば、そもそも子どもを対象としたアンケート調査の結果が子どもにきちんと返っていないケースがあるそうです。加藤先生は、自尊感情に関する調査結果を子どもたちに返すと、「自分のことに自信がなかったのが自分だけではなかった。少し安心した。」といったコメントをもらうことが多いそうです。「データをとって大人だけで決めるのではなく、子どもも巻き込んで学校やクラスのあり方を考える必要があるのではないか」という加藤さんの想いがあります。

 

みなさんは、加藤さんからの問いかけについてどう思いますか?

 

 

ゲストの対談と質疑応答、イベントから得られたヒント

 

ゲストからの話題提供後、5分間の休憩を挟んで、対談・質疑応答に移りました。参加者からは、「公園では砂場などに局所的に密集しやすいリスクがあるのでは?」「休校期間中は親も孤立しているので、子どもに目が行き届きすぎてしまいストレスをかけることが多いのでは?」といったさまざまな質問が寄せられました。

 

これらの質問には、ゲストからも「面白い指摘ですね」「ああ、なるほど。違う見方もしなくちゃだめですね。」といった発言が生まれました。参加者がゲストの話題提供から疑問や新たな気づきを持つように、参加者からの質問もゲストにとって刺激になったようです。

 

では、こういった話題提供や対談、質疑応答を通して、参加者はどのようなヒントを手に入れることができたのでしょうか。実施後のアンケート結果を見てみると、一例ですが、以下のような気づきを新たに持たれた(あるいは再認識した)方々がいたようです。

 

・調査結果を解答者にフィードバックすることの大切さ

・子どもと一緒に考えることの大切さ

・答えのない問題であること

・同じことを経験しても、多様な捉え方があること

・そういった人たちが一同に集まる場づくりが課題になるであろうこと

・遊び場や学び場としての公園の存在意義

 

改めて、今回のイベント全体の問いを示します。

 

子どもたちが、どのように過ごすことのできる世界を願いますか?

そのために私たちには何ができるでしょうか?

 

ゲストからの話題提供、参加者からの意見で得られたヒントを参考に、考えてみてはいかがでしょうか。そして、ぜひ身近な人と結果をシェアしていただければと思います。

 

 

おわりに

 

COVID-19流行の影響で私たちの生活は一変し、今も変化は続いています。そんな今だからこそ気がつきやすい問題が多くあります。それらの中には今回新たに生まれたものもあれば、気がついていなかっただけでそもそもあった問題もあるでしょう。さまざまな立場の人たちが語り合い、新たな気づきを得ることのできる場の大切さを企画者として改めて感じました。

 

最後となりましたが、ご参加いただいた方々と、研究で大変お忙しい中にもかかわらず快くご協力くださった愛甲さん、加藤さんにこの場を借りて厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

(最低限の人数でイベントを実施したので、これまでのサイエンス・カフェ札幌の終了後集合写真と比べると寂しい集合写真となりました。この写真を見ながら「こんなこともあったよね」と語り合える日が来ることを願って――)

 

 

* * *

以下は、後日にゲストからいただいたコメントと、当日の参加者からの一部コメントへのご回答です。

 

イベント後に頂戴したゲストからのコメント

 

愛甲さん

カメラとスタッフを前に話して、聞いていただいている方々に伝わったか不安でしたが、コメントや質問を多くいただきありがとうございました。結果をシェアするなど、加藤さんのお話やコメントからも新たな気づきを得ました。これからの分析や子どもの遊び場づくりの研究に生かしていきたいと思います。

 

加藤さん

広くいろいろな立場の方にお話を聞いていただける貴重な機会をいただき、ありがとうございました。また、愛甲先生とご一緒させていただけたことは、いつも学校という場からしか子どもを見てこなかった自分にとって、公園や遊び方という今までと異なる視点からも、子どもを考える必要性を認識でき、大変刺激になりました。同時に、私たちはすぐに研究成果を一般化してとらえようとしますが、もっと北海道という地がもつ特性に根ざし、研究結果を捉える必要性があることを改めて認識させていただきました。

 

参加者からの一部コメントへの回答

 

――加藤先生のご説明に、調査結果の扱いについて、子どもたちへの介入となるため、 被調査者に示さない、といったご発言があったかと思います。それは、教育学として一般的なものでしょうか?最近は、被調査者への結果の開示や説明が求められているように思います。

 

加藤さん

現在は最終的な成果を調査協力者にお返しするというのは、当然になっています。ただし、その場合も、心理学の調査の場合、報告は先生方までで、子どもには伝わってないという場合が多いように思います。また私が子どもたちに影響を与えてしまうためと述べたのは、追跡調査途中で結果をフィードバックしてしまうと、そのフィードバック自体が次の調査に影響してしまうため、すべてが終わってからはお返ししますが、途中ではあまりやらないという意味でした。私たちの調査は、3〜6年間追跡をしているのですが、その途中でも授業を使って報告をさせてもらっており、中学生がむしろ自分たちのことを、データを通して知ることの意味も込みで分析しています。

 

――北海道の中学生は、本州の中学生に比べ自粛期間を楽しんでいた一方、登校再開への不安が大きいということは、 それだけ、学校に対し、肯定的な考えを持っている生徒が少ないとも言えるということでしょうか。

 

加藤さん

これをどう解釈するかは難しいです。もちろん、北海道の子どもたちが学校への肯定感が低い可能性も考えられます。しかしそれ以外にも、北海道は第二波が来ていると一部で報道されていたことで不安感が高まったこと、また休校期間が本州に比べて長かったことから、生活を元に戻す事に対してよりネガティブになっていた可能性も考えられます。