2011年09月15日

授業レポート

「科学ジャーナリズムの現状と課題」9月7日/隈本邦彦先生の講義レポート

 9月7日にはモジュール5「多様な立場の理解1」の講義が始まりました。第一回目は、江戸川大学メディアコミュニケーション学部 教授の隈本邦彦さんに、「科学ジャーナリズムの現状と課題」と題してお話しいただきました。

レポート:三ツ村崇志(本科・北大理学院物性物理学専攻修士課程1年)

 

想定外ではなかった東日本大震災
 まず隈本さんは、東日本大震災の時のメデイアを例に挙げてお話ししてくださいました。

 震災後には、大地震、大津波、原発問題のすべてが「想定外」であったかのように報道されていましたが、その中には「実際に想定外であること」と「想定内だったもの」があったそうです。歴史を見れば、過去にマグニチュード9レベルの大地震や、大津波が起こっていたことは明らかですし、また原発問題に対しても、阪神大震災後に石橋克彦さんが「原発震災」という言葉を使って危険性を指摘していました。これらの事実から、今回の出来事がすべて想定外だったとは言えないことが分かります。

 今回、すべて「想定外」であったかのような報道がなされてしまった理由として、隈本さんは記者の勉強不足があるのではないかと指摘しました。小規模な災害の時には、災害について勉強している災害担当の記者が取材に行くのですが、今回の震災のような大規模災害の時には多くの記者が必要になるため、普段、災害を担当していない記者も、全国各地から取材に行きます。普段災害を担当していない記者たちが書いた、過去の事例や科学的根拠の検証が不十分な記事が災害報道として取り扱われた結果、すべて「想定外」であったかのような報道の一因なのではないか、というのです。

 

科学ジャーナリズムの現状と課題
 東日本大震災の時の報道にみられたような記者の勉強不足は、日本の科学ジャーナリズムにおける問題を反映しているとのことです。

 科学に関わるニュースは昔に比べて非常に多くなってきています。その上、その内容は日々高度化、多様化しています。しかし、より難しい内容を伝える必要があるにもかかわらず、それを伝える記者への教育は変化がないと隈本さんは指摘していました。科学記者を育てる環境は「on the job training」つまり、慣れるしかないという状況だそうです。自分で良く勉強し、良い取材先に育ててもらえると、良い記者に育つ。このような現在のシステムを、隈本さんは「良い記者自然発生説」という言葉で表します。科学記事の重要性が増し、その内容が高度化していく中では、科学を批判的に見る力や影響力と正確さのバランスを考慮する力が科学記者に求められているのです。しかし、良い記者の自然発生を待つ現在のシステムでは、それらの要求に応えることは容易ではありません。

 このような問題に対し、隈本さんは、「科学記者を専門に育てるようなシステム作りが重要」と指摘なさいました。

 

科学技術コミュニケーターと科学技術ジャーナリズム
 最後に隈本さんは、これらの科学技術ジャーナリズムの問題点をうけて、科学技術コミュニケーターに求めることを、ご指摘くださいました。科学技術ジャーナリズムの状況を劇的に改善することはできなくても、基礎的な科学知識とジャーナリスティックなセンスを身に付けた科学技術コミュニケーターを世に送り込むことで、現状を少しでも改善することができるのでは、と。


科学ジャーナリストが抱えている問題点は、私たちコミュニケーターが抱えている問題点と重なる部分もあると思いました。日々高度化していく科学技術の中でより質の高いコミュニケーターになるためにも、「科学を分かりやすく正確に伝える」という使命と正面から向き合っていかなければならないと強く感じる授業でした。

 隈本先生ありがとうございました。