2011年11月22日

授業レポート

「若手研究者のキャリアパスを考える」11月16日/榎木英介先生の講義レポート

2011年11月15日の三省堂サイエンスカフェ in 札幌『博士漂流時代〜「余った博士」はどうなるか〜』に続いて、翌日はCoSTEPで榎木英介先生(近畿大学医学部講師)の講義がありました。テーマは「若手研究者のキャリアパスを考える」です。

サイエンスカフェは、双方向で意見を交換することを重視しましたが、講義では多くの資料をもとに、存分に榎木さんにお話いただきました。
今年、科学雑誌「Nature」で博士号取得者の特集があり、中国でもこの10年間で40%も博士が増え、インドや韓国などでも同じように博士の就職難がとりあげられたそうです。しかし、世界最悪と名指しされたのは日本でした。

なぜでしょうか。例えばアメリカでも博士は就職難ですが、あくまで研究職につけないという問題であって、仕事そのものにつけないというわけではありません。博士号取得者の失業率自体は、全体の失業率に比べて低いのです。しかし日本では、博士課程に行くこと自体がイコール就職できない、社会からはじき出されるという歪んだ構造があります。

日本は崩れつつあるとはいえ、未だに新卒重視の終身雇用や年功序列の慣習が社会に根を張っています。また最近の大学や研究機関で見られる、短期雇用でポスドクを使い捨てるという手法は、一般企業が派遣や非正規社員を経済状況にあわせて首を切るのと、基本的に同じ構造的問題を持っています。

ドイツでは一流企業の社長の5割は博士号取得者ですが、日本ではまだまだ博士が社会で活躍できていません。そこには個人の能力の無さや、自己責任という言葉だけで切り捨てることができない複雑な問題が横たわっています。

また教員の無理解や無責任も問題です。学生やポスドクに聞いたアンケートでは、指導教員が将来について話を聞いてくれない、親身になって相談してくれないと答えた人は8割にも達しています。若手だけに任期制、非正規雇用を押しつける、あるいは業績が乏しい正規教員がいるといった、世代間での不公平感に対する強い不満を、榎木さんは実際に複数のポスドクから聞いたそうです。また多くの研究室で博士の就職を支援しない等といった原因から、2000年以降、博士課程への進学率は下がり続けています。

日本学術会議が最近、生命科学系のポスドク問題に提言を出しました。しかし、国や企業に税制や雇用で優遇措置を求めるばかりで、自分たちはこう考える、こうするといった内容が含まれていませんでした。自分たちの責任を棚に上げて、国と企業に解決策を押しつけるだけの姿勢、当事者意識の無さに、榎木さんは失望したそうです。

夢を持った優秀な若者が背を向けるような日本の科学に未来はあるのでしょうか?
榎木さんは、プロジェクト後のポスドクの進路を予算の申請書に書かせる、Jリーグでもやっているようなキャリアサポートセンターのようなものを作るべきではないかといった、いくつかの提言を話して下さいました。

未来を担う若い科学者たちが、不安に怯えながら研究するようなことは本来あってはなりません。これらは博士だけでなく、女性への就職差別、転職の年齢制限、正規、非正規の身分差別といった、根深い社会問題とつながっています。せめてフェアな条件と明確なルールのもとで競争するといった改革を、科学の世界がまず率先してやるべきではないかと感じました。

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そして講義の最後に、震災後の科学コミュニケーターの活動への批判についても、Twitterなどネットでの発言をもとに紹介して下さいました。震災や原発事故直後の科学コミュニケーターたちが「この非常時に沈黙している」「人々の命を守り、勇気を与えるために何をしたのか?」「今この瞬間に活躍できないようなら今後も社会から必要とされないだろう」といった厳しい指摘です。

「科学の楽しさ、すばらしさを伝える」だけではない、科学コミュニケーターの役割とは一体何なのか、どうあるべきなのか、深く考えさせられる講義でした。