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#70 太陽系の起源を「顕微鏡」で調べる

2016年09月02日

 

空を見上げれば、月があり、火星、土星、木星……そしてもっと遠くにまで宇宙にはいろいろな天体が広がっています。宇宙観測といえば「望遠鏡」ですが、圦本尚義さん(理学研究院 教授)たちは、なんと「顕微鏡」で宇宙の秘密、特に私たち地球を含む「太陽系の起源」という大問題を探っています。

【内村直之・科学ジャーナリスト/CoSTEP客員教授】

 

 

10トンの同位体顕微鏡

 

まずその「顕微鏡」を見せてもらいましょう。「おおよそ10トンもあるから、1階の部屋に置いてあるのです。じゃ、そちらへ……」と圦本さん。北大北キャンパスの創成科学研究棟の1階、ホコリが入らないようにガラスの向こう側の部屋にででん、とその顕微鏡は置いてありました。これはでかい……。こういうものは世界にここだけにしかありません。なぜなら、圦本さんたち自身が苦労して開発したからです。

(自ら開発した「同位体顕微鏡」の前で説明する圦本尚義さん)

 

正式には「同位体顕微鏡」といいます。同位体というのは、ある元素で、化学反応を起こすといった性質は同じですが、重さが異なるものを指します。たとえば、圦本さんが注目している元素である酸素は、普通にある質量数16の酸素の他に、少し重い質量数17と18の2種類があります。つまり、酸素には三つの同位体があるのです。これを見分けよう、というのがこの圦本さんオリジナルの「同位体顕微鏡」です。


調べたい試料は薄い切片にして機械にセットします。その試料の特定の場所を狙って細く絞ったイオンビームを当てると、その場所の原子ははじき飛ばされてイオンとなります。そのイオンが「顕微鏡」の中を飛んで行く様子を調べて、それがどういう元素からなるイオンかを知ることができます。先ほどの「同位体」の違いもわかるので、その名がついた顕微鏡、というわけです。同位体顕微鏡では、このような結果の二次元分布が一気に得られ、試料のどのあたりにどういう元素(同位体)があったかがわかります。

(調べる試料をマップし、つぎつぎとイオンビームを当てていく)

 

 

太陽系最古の物質のなぞ

 

圦本さんたちはこれで何を調べているのでしょうか?

「隕石です。地球の年齢よりも古く、太陽系ができたそのときに作られた岩石なんです」。

地球に落ちてくる隕石の大部分はコンドライトといい、誕生直後の原始太陽のまわりで宇宙のチリが集まってできた岩石といわれます。そういう岩石の年代を測ってみると、一番古いものは45億6700万年前のものとわかっています。地球上の最古の岩石は約44億年前ですから、それより2億年近くも前のものです。

 

「たとえば、これです」と圦本さんが見せたのは、1969年にメキシコ・アエンデに流星群となって落ちてきたアエンデ隕石のかけらです。この中に白い丸い塊があります。これはカルシウムとアルミニウムが多いので「CAI(Calcium-aluminium-rich inclusion)」と名前がついている鉱物の集まりです。「こんなに大きいのは、世界で10粒くらいしかないんですよ。たまたま鉱物ショップで見つけたんです」と圦本さん。実物を見せるときはなんとも嬉しそうです。

(アエンデ隕石のかけら)

 

 

太陽系の最初は、宇宙の塵からできた雲(分子雲)が重力の作用でだんだん集まってきたとされています。では、太陽系ができる前には、その材料としてどんな物質がどうできていたのでしょうか。宇宙の年齢は137億年と言われますから、その前にもまだまだ様々な物質があったはずです。

 

太陽系の「材料」は、それ以前にあった恒星が寿命を終え、超新星爆発を起こして放出された、いわゆる「スターダスト」(星の塵)です。太陽や惑星になるときに、そういう材料は融かされて均一になってしまいますから、地球上には、原始太陽系の物質は残っていません。では、宇宙ではどうでしょうか?

(イメージ図:325年前に爆発したカシオペヤ座Aの超新星残骸(爆発を起こした後の状態)。このような爆発によって太陽や惑星の材料が生まれる)

©NASA/ JPL-Caltech

 

 

隕石の中から、こういった太陽系の材料を探しだす手がかりになるのが「同位体」です。1973年、米国シカゴ大学のロバート・クレイトン教授は、隕石の同位体組成を調べているうちに、酸素の三つ同位体の割合が、地球上の岩石と全く異なっていることを発見しました。

 

これは、超新星における元素の作り方の研究と関係があるらしい。超新星が作ったスターダストは、そのように太陽系の部品として使われているのかどうか、という基本的な疑問を、関係する研究者は誰もがもちました。圦本さんらが、同位体顕微鏡を開発し、隕石を調べているのはこのような太陽系の始まりの証拠を手にしたかったからなのでした。

 

 

興味の最初は「月の石」、そして「イトカワ」へ

 

圦本さんと宇宙の石の関係は、1970年に大阪万国博覧会で展示された「月の石」(米国のアポロ計画で持ち帰られたもの)だったそうです。中学校で天文観測などに目覚め、高校でもNASAの宇宙探査機が撮影した月や惑星の写真に感激し続けました。進学した筑波大学では地質学を専攻、大学院時代は海底の岩石の分析に懸命に取り組みました。

 

このとき、針の先ほどの場所の組成を詳しく調べる二次イオン質量分析法(SIMS)に出会いました。筑波大学の助手になって、宇宙の研究に再度目覚めたとき、それまでの経験を生かして、SIMSを発展させた同位体顕微鏡という装置を開発、「顕微鏡」で宇宙を調べるという独創的な方法を考えつきました。そのおかげで、小惑星探査機「はやぶさ」も計画段階から関わることができたそうです。

(はやぶさ2の模型を前に語る圦本さん)

 

 

圦本さんは、2011年、はやぶさが持って帰ってきた小惑星「イトカワ」からの微粒子を調べました。この微粒子を作っている酸素同位体の比率を調べたところ、隕石コンドライトの一種と同じであることが明らかになりました。地球に落ちてくるこの隕石の源は、実はイトカワのような小惑星であることがわかったのです。「隕石のふるさとがわかったのはとてもよかった」と圦本さんも喜んでいました。

 

 

太陽系の起源にせまる

 

今、最も力を入れているのは、太陽系はどのようにできたのか、という謎の解明です。太陽系で最も古い物質CAIの酸素同位体の比率は、地球の岩石とも、超新星由来の物質とも異なっていることが明らかになってきました。どうも、太陽系のでき方がこれまでの説では説明できないのです。

(イメージ図:原始太陽系。超新星爆発による塵によって太陽が生まれる。太陽付近では鉄などの物質が生まれて拡散していき、外部からは氷が飛来する。この二つの「惑星のもと」が出会い、惑星がうまれる)

©NASA/JPL-Caltech

 

 

2004年、圦本さんは倉本圭さん(理学研究院 教授)と、太陽系の惑星の形成には氷が必須で、惑星の材料は原始太陽系円盤の中で氷と岩石とガスの反応で作られる、という新しい説を提唱しました。この説で予想されるような証拠も同位体顕微鏡で見つけつつあり、ますます圦本さんたちの研究は注目されています。

(隕石の断面の写真の前で笑う圦本尚義さん=北海道大学創成科学研究棟で)


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