ジョインアス


科学の討論は劇化する~ゲノム編集技術の是非を問う~

2018年01月25日

 

“ヒト受精卵へのゲノム編集技術の利用を定めた「遺伝性疾患予防法」が施行された25年後の未来。同法に規定されている「ゲノム編集技術の利用を見直すための市民法廷」が実施されることになった。利用を肯定する側と否定する側の証人が、市民陪審である観客へと語りかける。さて、市民法廷はどのような判断をくだすことになるのだろうか。”


これは、今週末1月28日(日)に札幌市資料館にて行われる討論劇「二重らせんは未来をつむげるか」のあらすじです。演じるのは主に、サイエンス・カフェ札幌などを開催してきたCoSTEP受講生対話実習班の5人。役者としてだけでなく、テーマ設定から脚本まで、一から自分たちで劇を作り上げてきました。科学技術の討論を軸とした演劇は珍しいですが、一体どのように取り組んでいるのでしょうか。製作の裏側を知るべく1月13日(土)に行われたリハーサルを取材させて頂きました。

【鈴木夢乃・CoSTEP本科生/理学部3年】

 

静かに始まる法廷。肯定側の証人の役が壇に立つ

 

札幌市資料館は大正15年(1926)に建築され、昭和48年(1973)まで、現在の高等裁判所にあたる控訴院として使われていました。その一階にある、当時の法廷を復元した「刑事法廷展示室」が、今回の劇の会場です。高い天井や赤いカーテンなど、大正時代の建築らしい、格式高さや美しさのある空間。演技の裁判でも、自然と厳粛な空気になったように感じられました。昨年10月の終わりごろから2か月近く間をかけて練り上げた脚本を手に、各々が担当するキャラクターを演じていました。

 

2時間以上に及んだリハーサル

 

2時間を超えるリハーサルの後、演技を終えた5名(小川さん、中角さん、長倉さん、山本さん、谷口さん)にいくつか質問させていただき、今に至るまでどのように内容を作り上げてきたのか教えていただきました。

 

素朴な質問から、次から次へと話が広がりました。劇づくりにかけた時間や情報量に唖然

 

「ゲノム編集」という本劇の題材は、テーマを生命倫理にしようと決めた後、いくつかの候補の中から選ばれたものでした。具体的な内容を決めるまでにはかなり迷走したと、脚本を担当した長倉さんと中角さんは語ってくれました。

 

「題材は、出生前診断などセンシティブなものだと危険だし、フィクションの要素が強く脚色が多くなってしまっても問題です。遺伝子治療や、遺伝子操作によって親が望む外見・能力等を持たせた子ども「デザイナー・ベビー」を議題にしようかという話もありましたが、もっと身近で考える意義のある話にしたくて、ゲノム編集の話になりました。(長倉)」

「科学技術を、治療目的を超えて心身の能力増強に用いるエンハンスメントを題材にする案も出ました。また遺伝子改変されて1秒で100m走れる子どもが誕生するも、不正と見なされて大会出場停止を食らってしまうという話も考えたりしました。脚本担当が二人ともガンダム好きなので、ついつい改造する話にいきがちになりました。ですが、肉体改造はSFチックすぎますよね。さらに遠い未来の話になってしまいます。(中角)」

 

舞台の設定は、身近に感じられる比較的近い未来にする。それは、観客に当事者になる可能性があると感じてもらいたいが故です。演者の一人である谷口さんは、「私たち製作者自身が当事者の気持ちになって考えられるような設定でなければ、お客さんにも身近なものとして考えてもらえないと思ったんです。」と真剣におっしゃっていました。


脚本担当の中角さん(左)と長倉さん(右)

 

脚本は、浮ついた内容にならないよう、入念な下調べを行い作成していきました。実際にゲノム編集による生殖医療の専門家である北海道大学安全衛生本部の石井哲也教授をはじめ、北海道大学大学院法学研究科の先生、北大病院の認定遺伝子カウンセラーの方など多方面の専門家の意見を受けて、何度も編集を重ねました。

 

また、遺伝子疾患を持つ当事者の方にもお話をお聞きしました。今まで病気を持つ人に対して持っていた先入観が解け、「演じていいんだ」という安心感も得られたそうです。

 

12月に見せていただいた脚本ノート。何枚にもわたって書いたり消したり…

 

この劇は未来の物語ですが、もとにした情報は現在起こっている問題からくみ取ってきたものです。ゲノム編集から発生する問題自体は、いままさに現実で起こっているのです。実際、ゲノム編集の技術は研究が進められ、いまやiPS細胞にみるように自分のDNAから拒否反応のない細胞をつくることも不可能ではなくなっています。


文系専攻のため、あまりゲノム編集とは接点のなかった山本さん。それでも劇を作っていくうちに「考えなければいけない問題だ」と思ったといいます。また、谷口さんはこう語ってくれました。「私は、Aという答えとBという答えがあったら、二つを合わせたCの答えを選びたい人なんです。でも、法律として決めなきゃいけないときはあるし、実際に決断しなくちゃいけない。だからこそ、問題に関わって考えなきゃいけないと思うんです。」

 

 

もしも、生まれてくる命のかたちを科学によって変えられるとしたら、人はどれだけ年月があれば、後悔の無い選択ができるのでしょうか。

 

未来の裁判室を覗いて、今に立ち返って考えてみる。近い未来、当事者になったときに自分なりの答えが出るように。もしかしたら、もっと早くにその時代はやってくるかもしれません。

 

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二重らせんは未来をつむげるか?〜討論劇で問うヒト受精卵へのゲノム編集の是非〜 

 

【日 時】:2018年1月28日(日) 14:00〜16:00

【場 所】:札幌市資料館(札幌市中央区大通西13丁目、011-251-0731)
 刑事法廷展示室(http://www.s-shiryokan.jp/floor/01-3sapporo.htm
【主 催】:CoSTEP 対話の場創造実習「劇団 DoSTEP 2017」
【共 催】:札幌市資料館
【連 携】:TERRACE
【参加費】:無料
ワークショップ参加者は20名、事前申込制。申込は締め切りました。ありがとうございました。
討論劇の観劇は自由。


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