#108 むかわ竜の学名、カムイサウルス・ジャポニクスに決定(2)地域と復興のシンボルとして
2019年09月08日9月5日に発表された論文によって、むかわ竜にカムイサウルス・ジャポニクスという学名が付き、正式に学術的な地位がひとまず定まりました。しかし、むかわ竜は単なる学術上の存在ではありません。これまでも、そしてこれからも地域にとって大きな存在です。
前編ではカムイサウルスの新属新種としての特徴を中心にお伝えしました。後編では北海道胆振東部地震から1年を迎えたむかわ町との関わりを軸にお伝えします。
(復興とむかわ竜について語る小林快次さん(右)と竹中喜之町長(左))
町のあちこちにいるむかわ竜
化石のまちとして地域を盛り上げているむかわ町では、そこかしこでむかわ竜の看板や模型、イラストを見かけることができます。その形態はさまざまです。研究者さえもまだその確かな姿が分からなかった中で、どのようにむかわ竜を描くか。そこからは進行中の科学とまちおこしの関係を垣間見ることができます。
今回の論文で初めて明らかにされたカムイサウルスの外見的な特徴はトサカです。このトサカに注目していくつかの例を見てみましょう。
(むかわ町が制作したむかわ竜のキャラクター。バンダナを巻くことでトサカの有無をぼかしている。後ろにはリアルタッチの看板。トサカは無い。むかわ温泉四季の館にて)
(角のようなトサカをもつ「むかわ竜」の案内看板。左にいるのは鵡川と穂別が合併した時に制定されたキャラクターむかろん。道道74号線沿いにて)
(大きなトサカをもつ「ハドロサウルス」の案内看板。2014年1月から2019年4月までの5本のプレスリリースでは大きなトサカを持つオロロティタンの図を参考として用いており、それを参考にしたと思われる。道道74号線沿いにて)
(首長竜やモササウルスと共に描かれたむかわ竜。後頭部にコブ状のトサカを持つ。穂別商店街通りにて)
(シルエットで描かれたむかわ竜。今回公開された復元モデルに最も近い? 穂別商店街の商店の壁にて)
(トサカがない姿で再現されているほぼ実物大のむかわ竜の模型。穂別商店街にて)
(むかわ竜のパネル。シルクハットの中にトサカはあるのか無いのか…むかわ町穂別町民センターにて)
トサカのある新しい復元モデル
今回の論文で、小林さんらの研究チームはカムイサウルスにトサカがあった可能性が非常に高いと発表しました。カムイサウルスを含むハドロサウルス科の恐竜には、頭にトサカをもつ種が多く知られています。これまでの発表ではカムイサウルスのトサカの有無について特に明言はしてきませんでした。トサカは鼻骨という骨から主に構成されていますが、残念ながらカムイサウルスでは鼻骨は発掘されていなかいからです。
しかし、鼻骨と接続する前頭骨は発掘されています。この前頭骨の形状とトサカの有無には関連があります。トサカがないハドロサウルス類は前頭骨が小さく、巨大なトサカを持つ種類はもっと後方にのびています。カムイサウルスの前頭骨は小さくなく、板状のトサカをもつブラキロフォサウルスのものと類似していました。
(頭部の骨格図(下段と中段)。白は発掘された部分。灰色は得られていない部分。頭部の前面から頭頂部に伸びる大きな部分が鼻骨。鼻骨と接続する前頭骨(上段)の形状から鼻骨の形状を推定することができる)<プレスリリースの図から作成。原図©Genya Masukawa>
(鼻骨が接続する部分の前頭骨を指差す小林さん)
これらのことから小林さんらの研究チームは、カムイサウルスにも板状のトサカがあったのではないかと推定しています。とはいえ、トサカがあったかどうかについては「100%ではない」と小林さんは断っていました。実際、両方の姿をいれて描かれた復元図も公開しています。その意味でも、これまでにつくられたトサカの無いカムイサウルスが無駄になってしまうわけではないでしょう。
(古い復元骨格(左)と新しい復元骨格(右)。鼻骨が頭頂部まで伸びている)
(新しい復元図)<プレスリリースより転載。©Masato Hattori>
(会見後、箱詰めにされる新しい復元鼻骨。翌日、東京の国立科学博物館で展示されている全身復元骨格に取り付けられた)
北海道胆振東部地震からの復興に向けて
会見でむかわ町の竹中喜之町長は「震災からちょうど1年を迎えるこの時期に、過去から復活し、そして復元され学名がつくむかわ竜。復活を目指しているこの街と何か運命的なものを感じます」と語りました。むかわ町は震災で死亡1、重症3、軽症250、体調不良4、全壊151件、建物の被害は大規模半壊12件、半壊158件、一部損壊2287件、そして土砂崩れ7カ所という大きな被害を受けました1)。復興はいまだ道半ばです。
(むかわ町穂別町民センターに掲げられたふたつの横断幕)
「既に次の研究を行っています。どのような生活をしていたのか、どのような動きをしていたのか、どのような環境に住んでいたのか、今後調べていきたいと考えています。今、ようやく名前としてカムイサウルスはよみがえりましたが、さらに動物として復活させたい。このむかわ町が震災から復活するように、カムイサウルスを町と共に復活させていくことが今後の研究のテーマになります」と小林さんは会見を結びました。
----むかわ町とむかわ竜を紹介しているこちらの記事もご覧ください----
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注:
1) むかわ町 被害状況