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#109 カルボニルひもで基礎研究に“遊び”を~有機化学のモノづくり~

2019年09月13日

 

世界で最先端の有機化学の研究では、日々「分子のカタチづくり」が進められています。今回は「カルボニルひも」と呼ばれる新たな物質の開発者である、猪熊泰英さん(工学研究院 准教授/化学反応創成研究拠点 主任研究員)に、分子を「ひも」のカタチにした理由や、目に見えないサイズの分子をどの様に操るのかについて、お話しをうかがいました。

【堀内浩水 CoSTEP本科生/社会人】

 

ーーカルボニルひもという新しい物質を作ったのは、どういう戦略があったのですか?


今の化学の流れとしてはどんどん複雑なものを作るのが主流になっています。私はあまのじゃくなので、その流れとは逆に進もうと思っていました。複雑な形を作るために、まずはより簡単な構造である一次元の構造、つまり「ひも」のような構造だと思い、ひも状の分子を作ろうと思いました。
実はさらにもう一つ理由があって、それは私がどうしても作りたい分子に関係しています。私が博士課程の学生だった頃から作ってみたい分子があったんですが、その作り方は、今も世界中で誰にも発見されていません。その作り方の一つの候補として「ひも」状の分子を出発点にする方法が予想されていました。なので、カルボニルひもを使って、その夢の分子を作りたいと思ったこともきっかけになっています。
ひもからカタチを作るというアイディアが確かなものだと感じさせてくれたのは、粘土を使った形づくりでした。子供のころ粘土をひも状にして、いろんな形を作って遊んでいたことと今の研究がつながったときに、このテーマで行けると思いました。実際に、カルボニルひもの最初の論文の初めの一行は、粘土で形を作る方法を書いた文献なんですよ。

 

 

ーーカルボニルひもを作るうえで苦労されたことはありますか?

 

4年前に北海道大学に赴任して初めての年はとても大変でした。ひも状の分子づくりは世界中で初めての試みだったのですが、実験するのは新任の助教の先生とまだ実験を始めたばかりの当時の4年生だけでした。その当時の学生とは、色々と言い合いながらもなんとかひも状の分子を作ることに成功し、その当時から残ってくれている学生は今では私の研究室のエース的な存在になっています。

 

 

ーー今後の研究の展開や野望をおしえてください。

 

実は、今は何もかもが初めてでとてもいい時期になっています。例えば、学会で学生さんが賞をとれば、それはラボとして初めてなので、うれしいことが待っている感じですね。ですが、最近の成果として表れているものは私のアイディアから始まっているものがほとんどです。なので、これからはこれまでの研究を基に新たな発想でアイディアを生み出してくれる人が現れて、研究をもっと展開させてくれることを楽しみにしています。

 

 

ーー猪熊先生のどうしても作りたい分子は実現されそうですか?

 

そう遠くない将来に実現すると思います。ずいぶんと近いところまではわかってきています。これまで何十年も化学者の間で議論されていたにもかかわらず、できてこなかった分子ができるというところに立ち会えると思うと、とてもワクワクしています。その時に自分は何を思うのか自分でも予想ができないので、そこも楽しみにしています。

 

 

ーー化学反応創成研究拠点(ICReDD)が先に夢の分子を作ってしまうことはないでしょうか?


正直な話、この分子に関しては私の方が早く実現してしまうと思います。(笑)ですが、ICReDDが今後発展することで、計算科学による化学反応の予測は人間を追い越してしまうと思っています。ちょうど将棋のプロ棋士がAIに負けてしまったように、化学の世界でも起こりうることだと思っています。ただ、私も負けじと頑張っていくつもりではあります。

 

 

ICReDDでの意気込みを教えてください

 

違う分野の研究者同士が本当の意味で理解しあうのは、そうすぐに進むものではないと思っています。なので、違う分野の融合というのは少しずつ進んでいくのだと思います。ですが、最近、私の研究室の研究員と話すうちに計算科学のことで気づかされることがあったんです。実験と計算のどちらの文化もわかる人が通訳のようにそれぞれの分野をつないでくれるのではないでしょうか。少しずつですが、新しい人が集まってきて、融合ができる素地ができてきたように感じました。
私自身は、情報学の分野に興味がありますが、まだまだ分かりません。きっと、「これは便利だな」と感じた時に一気に進めていけると思っています。

 

ひも状の分子でより複雑な構造をつくるという発想の裏には、夢の分子を作る情熱と独創的な研究を行うための緻密な戦略があるように思いました。「カルボニルひも」という世界で猪熊さんしか取り組んでいない新しい研究はこれからいろんなものを創り出してくれるのではないでしょうか。さらに、ICReDDの目指す未来の化学もそう遠くない将来訪れるのかもしれません。
目に見えない分子やそれを操る化学によって、私たちの未来が明るくなるのを想像してみませんか。

 

2019年9月15日に開催される第109回サイエンスカフェ札幌では、猪熊泰英さんをお迎えして、ご自身の研究のキーワードであるカルボニルひものことや、化学のものの見方や普段の遊びとの意外な接点についてお話しいただきます。サイエンスカフェでは、ご自身の所属されるICReDDについてもご紹介いただきます。

 

 

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第109回サイエンス・カフェ札幌
カルボニルひもでつむぐ未来の化学〜見えない分子をソウゾウしよう〜
日時:2019年9月15日(日) 14:00開場 14:30開演 16:00終了
会場:紀伊国屋書店札幌本店1Fインナーガーデン
ゲスト:猪熊泰英さん(北海道大学 大学院工学研究院 准教授)
聞き手: CoSTEP 対話の場の創造実習 受講生
主催:北海道大学CoSTEP
共催:北海道大学 化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)
参加費無料
申し込み不要
定員:80名程度
(後援:札幌市教育委員会)

WEB:http://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/costep/contents/article/2020/


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