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#116 「景観」から「風景」へ ~地域の人の思いに寄り添う、参加型のまちづくり~(1)

2020年03月05日

 

近年、観光による地域活性の取り組みが盛んに行われています。しかし、その盛り上がりと並行して、地域の自然環境や、そこに住む人々の暮らしが置き去りにされる問題も表面化してきています。上田裕文さん(観光学高等研究センター 准教授)は、実際にさまざまな地域に赴き、自然やまちなみなどの「景観」と、そこに暮らす人々の思いが反映された「風景」に関する研究・実践に取り組まれています。地域の現場における研究者の役割を、具体的な地域の事例も交え、話をしていただきました。

 

 

人と自然の相互作用による「文化的景観」

 

「景観」という言葉について、多くの人は「都市景観」のような、街並みのイメージを思い浮かべられるかと思います。研究者の中で「景観」とは、基本的には環境の視覚的な眺め、現れというのを指します。景観が社会的に注目されはじめたのは、高度経済成長期における都市化の中、私たちの身の回りの環境が大きく変わってき時代です。いろいろなインフラを整備したときに、新たな景観がそれまでの環境を乱さないようにするためにはどうしたら良いか。例えば橋を造るとすれば、どの範囲だったらもともとの風景に馴染むのだろうか、というところから景観の研究は始まりました。

 

中でも、人と自然の共同作業、相互作用によって、長い時代や歴史を経て現れてきたものを「文化的景観」と呼びます。これは、守るべき価値ある景観、これから創造していく景観だけではなくて、いま、身の回りにある当たり前になっている景観というものが、実は価値があるのではないかという潮流の中から生まれました。その文化的景観がどういう仕組みで成り立ってきたのか。今後、どうやって維持できるのかというのが、基本的な景観計画の考え方になっています。


人間の主観的な思い、意味づけが含まれる「風景」

 

いろいろな情報化や価値観の多様化が進み、まちづくりへの社会的な関心が高まってくる中で、景観のアプローチも、どのように今ある日常の生活の景観を維持していくか、将来どういう町にしていくべきかというのを、住民参加で考えていくような時代になってきました。同じような景観に対しても、人の立場や思いなどによって、いろいろな価値づけが行われていて、人によって感じ方が違う場合があるからです。そのように人それぞれの文脈が含まれるものを、「風景」と呼んでいます。

 

「景観」というのは、土地、環境の視覚的な現れをさす言葉で、客観的です。対して「風景」は、人間の環境に対する思いや意味づけなども含めた言葉で、主観的です。実は風景の方が言葉としては古いのですが、そういった風景にもう一度立ち戻って、人々にとって多様な環境の位置づけや意味づけというものを一緒くたに考えた上で、景観を話し合っていこう。それがまさに、景観をまちづくりの中で、風景として考えていくということを意味しているのです。

 

同じ場所に対して、それぞれ立場の違うものの見方があるので、そこを調整して合意形成し、そこで合意されたビジョンに基づいて、みんなが参加してそれを守っていく。客観的に「これが良い」という景観を、誰か第三者が作るのではなくて、実際にそこで生活するいろいろな立場の人たちが、どういう意味づけ、価値づけをするかというのを、きちんと議論をして、共有したうえで自分たちがそこに参加して、その景観の維持に関わることを目指しています。


地域の人々の営みが景観を生み出す美瑛町

 

北海道は自然豊かで、農業がとても盛んなので、特に農業景観といわれるものの事例が多くあります。中でも代表的で先進的な事例が、観光地としてもとても有名な美瑛町です。美瑛町は、波状丘陵という波打ったような土地に農地が広がっていて、それが非常に美しく、多くの観光客が訪れています。この波状丘陵は、十勝岳の火山によってつくられた大きな地形であり、そこを農地として耕す、人々の農業という営みによって農業景観となりました。それが写真家によって価値づけされ、テレビCMになって全国的に知られるようになったことで、急に観光のまなざしにさらされ、一気に観光地として発展したという場所です。

 

農家の方にとってみれば、そこは普段の生産の場です。しかし観光客にとっては、「あぁ、美しい景観だわ」と、まるでそこが観光のために用意された場所かのように錯覚して中に入ってしまい、農地が荒らされるなどの問題が起きるようになりました。農業が持続的に営まれていれば、その景観はずっと維持されるのですが、ここに全然違う文脈で価値を感じて、観光として人が訪れることによって、農業と観光の間様々な調整が必要となってきます。これは「景観計画」というよりは完全に「風景計画」、「観光計画」という領域になってきます。

(美瑛町での、地域の人たちによるワークショップの様子 )<写真提供:上田さん>


景観を伝え、広い視点に導く、専門家の役割

 

私たち研究者は、まず地域の人たちに「そもそも景観というのは、こういうものなのですよ」というのをみんなに説明して、「景観というのは、単に美しいものをつくるのではなくて、皆さんの生活そのものが見える形で現れた、文化的景観に価値があるのですよ」ということをみんなに理解してもらいます。その理解がないと、たくさん来る観光客向けに、本来の観光資源であった美瑛の美しい景観を壊して、人工的な観光施設を建ててしまう場合があるのです。ここでみんなが求めている「美しい」とされているのは、実は普段のこの生活とか、生産をしているこの農業景観であり、そこに価値があるということを、住んでいる人たちに気づいてもらうということが、専門家としての役割の一つです。

 

一方で、観光と農業のコンフリクトや問題が起きているときに、観光というものが農家さんにとって敵ではなく、それがめぐりめぐって、どういうふうに自分たちの生活にとってプラスになっていくのか。そういったメリットのところをきちんと理解してもらうことも大切です。もう少し広い視点で、観光が地域にとって役に立つということを見える化し、きちんと理解できるように説明をして、そういった課題を解決に導くのも専門家の重要な役割です。

 

後編につづく≫

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今回お話いただいた上田さんの研究も映像で紹介される、地域と研究とのつながりがテーマのサイエンス・カフェが札幌文化芸術交流センター(SCARTS)で開催される予定です。

※今回、新型コロナウイルスの拡大の影響で延期が決定しました。再開催の日程決まり次第、下記のサイトよりお知らせします。

 

第111回サイエンス・カフェ札幌
「みんなで考える持続可能なパートナーシップ 〜北海道から3650日後の対話をデザインする」

【日 時】 2月27日(木)18:30-20:30(開場 18:00)
【場 所】 札幌文化芸術交流センター SCARTS Studio1,2
【主 催】 北海道大学CoSTEP
【定 員】 60人 
【WEB】https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/costep/contents/article/2077/


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