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#119 気候変動メカニズムの解明を目指して(2)~空、その先へ~

2020年03月23日

 

「北極が暖まると偏西風の蛇行はより大きくなる」。2018年Natureで発表されたこの報告1)に、気候変動のメカニズムを研究する佐藤友徳さん(地球環境科学研究院 准教授)は関心をもちました。「暑くなるヨーロッパとモンゴルの間に、暑くならない西シベリアが挟まっている」「ヨーロッパとモンゴルの熱波は同期的に発生する」という現象に疑問をもっていた佐藤さんは、その原因のひとつはこの偏西風にあるのではないかと考えたのです。前回に引き続き、佐藤さんの研究を紹介します。

【菊池優・CoSTEP本科生 社会人/鈴木隆介・CoSTEP本科生 保健科学院修士2年】

 

(佐藤友徳さん)<撮影:中島宏章さん>

 

蛇行する偏西風、蛇行する気温分布?

 

私たちが暮らす日本を含む中緯度地域の上空約1万メートルには、西からの強い風、偏西風が常に吹いています。この偏西風は日本、北米、ヨーロッパからモンゴル、そして日本と地球を一周しています。しかし、まっすぐ吹いているわけではありません。ヨーロッパでは北寄りに、西シベリアでは南寄りに、そしてモンゴルでは北寄りに、と蛇行する形が近年では頻繁に観測されます。さらにこの蛇行は気候の条件で変化するといわれています。

(偏西風は南の温かい空気と北の冷たい空気の間を通る。例えば冷たい空気が北から張り出してくると、偏西風は南寄りに大きく蛇行する)

 

融雪で湿った西シベリアの大地は、夏も涼しくなる

 

佐藤さんは6,000通りのシミュレーションで、ユーラシア大陸の気温の変動に与える要素を、地球温暖化とそれ以外に分離しました(前編参照)。そして地球温暖化要因を取り除いた場合に、何がユーラシア大陸上の気温変動を引き起こすのか、その要因を探りました2)。

 

その結果、モンゴルとヨーロッパの夏が暑くて西シベリアの夏が涼しい場合、それに先立つ4月の西シベリアの積雪が多く、その融雪によって5月の西シベリアの土壌水分が増加する傾向があることがわかりました。そして、この土壌水分の増加が、西シベリアに夏季の低温をもたらすというわけです。

(左側は積雪量、右側は土壌水分量。青は増加、赤は減少を表す)<図提供:佐藤友徳さん>

 

佐藤さんは、このシベリア上空に生み出された冷たい空気の塊が、上述の偏西風の蛇行を大きくするのではないかと考えています。つまり、西シベリアの大地の雪は、偏西風を南寄りに大きく蛇行させる一方、ヨーロッパとモンゴル付近では北寄りに大きく蛇行させるため、南の暖かい空気がこの地域に入りやすくなるのです。遠く離れたヨーロッパとモンゴルを同時に暑くするのは、まさに大地と空の相互作用だったのです。

(西シベリアにおける冬の積雪増加が春の土壌水分増加を経由して、夏の気温低下へと繋がる。夏の気温低下は偏西風の蛇行を促し、周辺地域で高温になりやすい大気場を形成する)

 

佐藤さんは、この研究成果を踏まえ、「西シベリアの雪や土壌水分の状況を調べていくと、今年の夏はこういう天気の日が多いですよ、というような言い方ができるようになるかもしれない。つまり、季節予報につながるのではないかと考えています」と展望を語りました。

<撮影:中島宏章さん>

 

さらに疑問は広がる。なぜ西シベリアに雪が増えるのか?

 

佐藤さんは、西シベリアの積雪が増加する要因についても探ろうとしています。そのヒントは、北海道の気候にありました。日本の場合、シベリアからの冷たく乾いた空気が、暖かい日本海上空で水蒸気を補給し雪雲をつくることにより、日本海側に雪が降ります。「このとき北海道の日本海側に、小さな台風のような渦巻きが発生することがあります。天気図にも載らない小さい渦です。だけどこの渦巻きができることで日本海側にたくさん雪が降ります」。この小さな渦巻きは、一般に「ポーラーロウ(Polar Low)」と呼ばれる台風よりもずっと小さい低気圧の一種です。ポーラーロウは、冬季の海洋上で急速に発達し、強風や大雪を伴います。

(2016年1月14日に撮影された衛星写真。留萌沖にポーラーロウの「目」が見える)<転載:NASA Worldview>

 

佐藤さんは、「壮大な仮説なのですが、西シベリアの場合、北極海の辺りで同じような現象が起こっているのではないかと考えています。北極海の中でも、とくにバレンツ海の辺りは海氷がわりと開けています。そこに北極の冷たい空気が入ってくると、ポーラーロウができて西シベリアにたくさん雪が降る、というわけです」と考察しています。

 

(2020年2月に発生したポーラーロウ。ポーラーロウによって雪雲が発達し、日本海からの北西の風に乗って留萌沖に近づいていくのがわかる。雲(白)、降水(カラー)、上空の風(矢印)、降雪量(陸地のカラー)、海からの蒸発量(海上のカラー))

<提供:佐藤友徳さん>

 

北海道の気候変動の研究を通して、雪まつりを後押し

 

佐藤さんは、実際に北海道の気候についても研究を進めています。2018年からは、札幌市近郊における将来的な積雪量を予測し「さっぽろ雪まつり」への影響を分析する国のプロジェクトに、アドバイザーとして携わっています3)。道内最大級のイベントである雪まつりは、近年では毎年国内外から250万人以上が参加し、その直接的な経済効果は約500億円とも言われています。2020年、雪まつりの準備期間中に北海道は記録的な雪不足に見舞われました。その結果、札幌市近郊の採雪地に加え、倶知安など遠方からも雪が運び込まれるなど、雪の輸送に影響が出ました。大通会場は優先的に雪が運び込まれ例年通り開催されましたが、つどーむ会場では雪の滑り台の規模が縮小されました。

(2020年のさっぽろ雪まつり 大通会場の様子)

 

これまで、定山渓や滝野霊園、モエレ沼公園、当別町、新篠津村が採雪地として利用されてきました。しかし、現在のペースで温暖化が進行すると、21世紀末の雪まつりの採雪期間中(1月5日~1月27日)の積雪量は30cm未満になることが予測され、これらの採雪地のみでは雪まつりに必要な雪の確保が困難になることがわかりました。佐藤さんは調査結果を踏まえ、運搬コストなども加味した新しい採雪地の提案もしています。

(佐藤さんは、北海道の気候に関する基礎研究や温暖化予測に関する研究などをしている。写真は、トマムにて学生と気象観測機器のメンテナンスをしている様子。左が佐藤さん)

 

陸が大気へ、大気が生態系へ

 

西シベリア、モンゴル、そして北海道をはじめとする日本など、佐藤さんは様々な地域の気候に関する研究をしてきました。「陸面が変わることで大気がどう変わるのかというのは、どの研究にも共通して掲げている私のテーマです。陸面が大気に及ぼす影響がわかってくると、陸面付近の下層の大気が、動植物の生態系にどのような役割を果たしているのかも気になってきます」と、佐藤さんは今後について話しました。陸が大気へ、大気が生態系へと連鎖するように、研究の進展とともに佐藤さんの知的好奇心も広がっていきます。

<撮影:中島宏章さん>

 

 

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今回紹介した研究成果は、以下の論文にまとめられています。

 

1) The influence of Arctic amplification on mid-latitude summer circulation

Dim Coumou, Giorgia Di Capua, Stephen Vavrus, Lei Wang & S.-Y. Simon Wang

Nature Communications, 9, 2959, 2018

 

2)Tomonori Sato & Tetsu Nakamura

Intensification of hot Eurasian summers by climate change and land–atmosphere

Interactions

Scientific Reports, 9, 10866, 2019

 

3) 気候の変化や極端な気象による観光業への影響調査

環境省・農林水産省・国土交通省「地域適応コンソーシアム事業」平成29-31年度

 


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