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#121 子どもの発達に必要な支援をどう見立てるか(後編)

2020年06月23日

岡田智さん(教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター 准教授)は、臨床の現場と接点を持ちながら、困りごとを抱えた子どもへの支援の課題について、多角的に研究を行っています。前編では岡田さんの臨床活動について紹介しました。後編では岡田さんの研究内容について紹介します。

【成田健太郎・CoSTEP本科生 社会人/岩野知子・CoSTEP本科生 社会人】

 

子ども発達臨床研究センターの入り口

 

岡田さんによるお話の前に、発達臨床研究や子どもの支援を進める際に重要なキーワードである、アセスメントとソーシャルスキルトレーニング(以下、SST)について確認します。アセスメントとは、その方の状況や状態、特徴を理解しようとするプロセスととらえることができます。発達障害のある子どもたちへのアセスメントでは、障害特性の把握が重要になるそうです。効果的な支援を行うためには、社会性、知的機能、言語能力、こだわりや切り替え、注意集中・衝動性のコントロール、情緒面などを環境とのかかわりも含め、バランスよく、包括的に捉えていく必要があります。さまざまなアセスメント方法があり、心理検査・発達検査だけでなく、直接本人をみる行動観察法、本人や関係者からの聞き取りによる面接法などがあります。1)

 

SSTとは、人間関係や集団行動などの社会生活を円滑に営む能力を身につけるための指導のことです。特に幼児期や学齢期に学ぶべきソーシャルスキルとしては、学習態勢、コミュニケーション、人間関係、身辺管理、情緒や自己の側面などが挙げられます。指導の基本テクニックとしては、直接そのやり方を言語的に教える「教示」、指導者が手本を見せたり、モデルをまねさせたりする「モデリング」、ロールプレイングなどの実際にやってみて練習する「リハーサル」、行動を振り返ってほめたり修正したりする「フィードバック」、訓練場面以外でもうまくできるようにする「般化」があります。発達障害のある子どもたちへのSSTは、特にアセスメントに基づき行われることがポイントになります。

 

ー アセスメントに関する研究とはどのようなものなのでしょうか

 

アセスメント実践に関しては、研究と実践の両輪が必要という「科学者―実践家モデル」2)が重要視されています。臨床領域における先達(先輩、ベテランの方々)は、エビデンスが十分に得られていないものでもうまく使って、クライエントさんの幸福とか問題解決に使っていたわけです。しかし、若手や臨床センスのないものたちが、それをマネできるわけでもありません。下手をすると、間違った使い方や解釈はクライエントさんの害になることがあります。そうした危うさも含んだ実用性と科学的な根拠との折り合いの中で、臨床の中でどのようにアセスメント行為を行うのかが決まるのかなと考え、有効性だけでなく限界や留意点についても研究したいと思っています。

 

検査の統計特性やエビデンスをどうみていくか。その限界ももちろんあります。心理検査って、体重計のように測れるわけじゃないのです。心理学的概念と言うのは目には見えず、いろんな現象とか目に見える具体的に測定できる現象を組み合わせて、ある抽象的な概念を推定するというだけに過ぎないのです。知能も同じで、知能検査で確実にその方の知能がわかるわけではない。どのぐらい確からしさがあるのか。ブレとか誤差、限界も含めて描き出すことで、臨床家が適切に、安全に、そして効果的に検査を活用できるようにしていきたいというのが、私の研究の目標のひとつです。

 

― それぞれの検査結果とアセスメントの関連は、支援につながるとても重要な要素なのですね

 

検査結果は誤用されたり、過剰解釈されることもあります。目に見えないものが形になるので、いい意味でも悪い意味でも強い影響を持つことになるのです。例えば、国際的に使われている有名な心理検査であるWISC(ウィスク)をやれば、発達障害がわかるのではないか、支援課題がわかるのではないか、と過度に期待が持たれてしまいます。検査をやれば何かすごいことがわかるだろうと。しかし、支援対象の方の話をちゃんと聞いて、これまでの経緯、思い、展望、状況、しんどさ等も含めていろいろ聞いて、子どもの場合は実際に関わってみて、そこから得ていくことが主流になればいいなと思っています。そのなかで、この子はこれが苦手なんじゃないかとか、こういうところは得意なんじゃないかとか、仮説が立った後、それを裏付けるための手段として検査が使われればいいかなと考えています。

 

― 専門としている子どもの対象年齢は

 

私の専門は学齢期から中学生ぐらいまでですが、長く勤めていた医療機関は成人まで対応していたので、私がみていた幼少期、学齢期の子どもたちが、青年や成人になる姿も目の当たりにしました。そこで感じたのは、心理学ではアタッチメント、愛着と言いますが、養育者との情緒的で相互的な関係性、応答的な関係性が大事になってくるということです。最近は、就学前の幼児の発達相談が主な臨床フィールドになっています。発達相談や発達臨床では、この調整というのが大きなテーマになります。でも、親もいろんな方がいます。親自身に困難があったり、家庭養育的に厳しい状況であったりしても、子どもは意外と、学校の先生とか友達とか、大人になって出会う上司とか恋人も含めて、関係が広がっていって、人間関係のプロトタイプみたいなものが修正されていきます。親との関係だけが重要ではなく、その後の先生や支援者、友達など身近な人間関係によっても変わっていき、修正していくんです。要はそういう出会いがないといけなくて。意外と学校や支援機関の人は子どもにそのきっかけを与えることできる。意外と学校の先生に救われていたりします。学校の先生に出会ったことで丁寧にみてもらって、問題はすぐに解決しないんだけど、長い目でみて落ち着いていく人もいます。自分が長く関わっているケースでも、しんどい経済的、身体・精神的状況が続いている方でも、保護者の方が持ちこたえて、また家族が再構成されていく人もいれば、うまくいかなくなる人もいて。難しいなと思いながら。現在の臨床フィールドでは幼児期から青年期まで長く関わるケースは少なくなっていますが、やはり継続的に関わったケースからは、さまざまなことを学ばせてもらっています。

 

ー もうひとつの研究テーマであるSSTについて教えてください

 

アセスメントは子どもを評価する手段であることに対して、SSTは教育的なアプローチです。教科学習には学習指導要領があり、教えることが具体的に決まっています。しかし、ソーシャルスキルとか、社会性とかは、学校でも家庭でも、学ぶべきことは明示されてはいません。特別支援教育では自立活動というところに、なんとなくざっくりと示されていますが、特別支援教育はオーダーメイドが基本です。アセスメントがあって子どもの教育的ニーズがあって、それで指導も組み立てていくことになります。ただ、SSTはスキルを教えるという立場を取ります。子どもの主体性、当事者性が大切で、それがなければ、SSTは単なる押しつけなっちゃいますよね。アセスメントもSSTも一つ間違えれば、相手を脅かす侵襲的な手段になってしまいます。

 

― SSTの実例集を出版されていますが、一般のイベントのアイスブレイクにも使えそうですね

 

特別支援の通級指導教室の先生たちと、一緒に実践を出し合って、事例検討も重ねて、ディスカッションして作った本です。この先生たち、授業がすごく上手なんです。それが悔しくて、負けたくないと思いながら、自分の実践も書きました。この本3)に掲載した暗黙のルールカードは、グループ活動でも年に1回やるかどうかの活動ネタですが、面白いものができました。例えば「ねえ、おばさん。大人の女性に言っちゃった(上の句カード)/年齢気にする成人期(下の句カード)」(一同爆笑)。これは我々大人を教材にして、人に言っていいこととか悪いこととか、あるいは思ってもいいけど言っちゃいけないことがあるよね、みたいな。このカード「失敗は 誰でも必ずあるものです/大切なのは謝ることと 後始末」などは、「すぐに謝っちゃうような人を作っちゃうんじゃないの?」という意見を言われることもあります。それでも、自分の中で切り替える一つの言葉になったりすることもあったり、とりあえず、問題をこじらせないように「ごめん」を言ってみることがよかったりします。そういうことも含め、子どもと話題にできるようなものを作ろうと思ったんです。

 

(暗黙のルールを身につけるためのカード教材集。対象は小学校高学年から中学生。カードをきっかけに話題が広がる仕掛け)

 

― 今後の研究で、取り組みたいと考えているテーマがあればお聞かせください

 

昨年、トルコの難民支援のフィールドに行ってきて、そこで現地の支援者や難民の子どもたちと関わりました。4)「逆境状況に置かれる子どもの発達」に関する研究を画策しています。もう1つは発達障害のセルフ・スティグマについてです。セルフ・スティグマとは自分自身のとらわれや偏見を意味します。発達障害診断のいい部分もあれば、リスクもあるので。また、発達障害のある子どもの家族支援のあり方についても取り組んでいきたいです。これらを国際的な研究として広げられるといいなぁと思っています。

 

(岡田さんの研究室で取材をするメンバー)

 

今回取材と執筆を担当した二人は、それぞれの苦手さや困難さを抱える人々に接する機会の多い仕事に携わっています。インタビューを通して、岡田さんが持つ問題意識や課題への視点は、私たちの感じている疑問や思いの奥にあるものと重なることに気づかされました。自らも発達相談の臨床に携わって子どもや親と向き合い、現場の課題解決のために研究を行う。そんな岡田さんの取り組みを心強く思うとともに、研究の成果が社会に浸透していく一助となれるよう、自分たちの現場でできることに尽力していきたいと思いました。 

 

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参考文献
1)『よくわかるソーシャルスキルトレーニング(SST)実例集』上野一彦監修、岡田智・森村美和子・中村敏秀 著、ナツメ社
2)『エビデンスに基づく応用心理学的実践と科学者-実践化モデル』松見淳子 2016
3)『暗黙のルールが身につく ソーシャルスキルトレーニング(SST)カード教材集』田中康雄監修、岡田智編著、ナツメ社
4)『トルコにおけるシリア難民の子どもの現状と発達障害支援の課題』小原圭吾・岡田智ら 2020 子ども発達臨床研究14巻


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