フレッシュアイズ


#159 科学技術を用いた最新の雪道対策

2020年09月10日

〈2020年2月4日の「いいね!Hokudai」記事より転載〉

 

雪道での転倒対策という問題は、北海道という地域に特有の問題だと思われるかもしれません。しかし、雪道での転倒問題は雪国に限ったことではありません。現に首都圏で降雪があったときには札幌での1シーズンにでる救急車での搬送者数と同じくらいの搬送者数が1日で出ます。そして、この人数はなんと1000人にものぼると言われています。

 

また、この問題は単に「けがをしないため」に考えられるだけではありません。高齢者の方々は、冬場、転倒をおそれて外出を控える傾向があります。また、転倒をきっかけに、寝たきりになる方も多いと言われています。つまり、冬道の転倒対策はお年寄りの方の健康増進のための公共政策という面があります。

 

さらには、半年ものあいだ、ぶ厚い雪におおわれる札幌では、冬場、滑りやすい道の先にあるお店のお客さんの足が遠のいてしまいます。歩きやすい雪道がどこにあるのかによって、わたしたちの経済的・商業的活動にも大きな影響があるのです。

 

このように雪道での転倒対策は、意外にも、大きな問題です。雪道での転倒対策は冬からすればよいと思う方もいるかもしれません。しかしそうでもありません。雪に慣れてない人の場合、雪が降ってはじめて雪に関心を持つため、転倒する危険が高くなってしまいます。雪がない今だからこそ、この記事を読んで雪道転倒への意識を高めてもらいたいと思います。

 

そこで、雪道での転倒に対するさまざまな対策を知るべく、北海道大学公共政策大学院教授の高野伸栄さんにインタビューしてきました。高野さんは、ウインターライフ推進協議会という、雪道での歩き方などの冬場の対策についてインターネットなどを通じて情報を提供している会の会長も務めていらっしゃいます。今回は高野さんにインタビューをすることで、雪道を歩く際の日常的な対策、そして、科学技術などを使った最新の雪道転倒対策について調査しました。

【櫻井謙輔・経済学部1年/信田龍之介・総合理系1年/村上太一・総合理系1年】

 

(快く取材を受けてくださった高野伸栄さん)

 

 

1. すぐにできる! 素朴な対策

 

まずは、どのようなひとが転びやすいのかについてお話を伺いました。高野さんや、その研究室の学生の集めた統計データによると、高齢者の転倒率が高いだけでなく、若年層の転倒率も高くなっていました 1)。

 

しかし、一般に、高齢の方々に比べて若年層の人々は運動能力が高いと言えます。そう考えると、高齢者に比べて若者の方が転倒を回避することに長けているのではないでしょうか。つまり、なぜ若者と高齢者の転倒率にそれほど大きなちがいがないのかについては、運動能力の高い、低いといったものとは別の要因があるのかもしれません。

 

これについて高野さんは、アンケートに回答してくれた人には雪道で転んだ経験があるひとが多く、ひいては、雪道に関心が強い方がアンケートに多く答えてくれたのではないか、という可能性を示唆されていました。また、このように若年層において転倒率が高くなっているのは、他の年代より雪道での転倒に対する意識が若年層では低いためではないか、という仮説も提示されていました。つまり、若年層は転んでもけがをする恐れが少ないので、転倒に対する意識が相対的に低く、ひいては雪道で転びやすくなっているのではないかとのことでした。特に大学1年生には雪道に慣れてない人が多く転びやすい方が多いとのことでした。

 

続いて、転ばないための対策について高野先生にお話を伺いました。個人ができる対策としては、歩き方、服装、荷物の持ち方、筋トレなど多岐にわたりました。例えば、歩き方としては、靴の裏全体を路面につけ、小さな歩幅で歩くことによって、動作を小さくすることが効果的です。より詳しい対策については先ほど述べた高野さんが会長を務めるウインターライフ推進協議会のホームページが参考になります 2)。

 

高野さんのお話の中で特に強調されていたのは、転ばないように注意する「意識」という点でした。つまり、雪道で転ばないためにできる最も大切なことは、急がず、焦らず歩くという、誰にでもできる簡単なことなのです。「えっ、そんな単純なこと!?」と皆さん思うかもしれません。しかし、歩くときに足元を注意して見るようにするだけで、格段に転びにくくなるとのことです。歩き方それ自体よりも、この意識が何よりも大事とのことでした。

 

 

2. 科学技術の応用! 最新の雪道対策

 

次に、最新の雪道対策について伺いました。私たちがもっとも興味深く伺ったのもこの点だったので、少し詳しく紹介します。つまり、以上のようなある種「素朴」な対策がある一方で、高野さんのご研究である最新の科学技術をもちいた雪道転倒対策に私たちは注目しました。

 

①研究の目的

その研究は、スマートフォンに搭載されたセンサーをもちいたものです。このスマートフォンのセンサーを使うと、そこから得られた計測値を収集し、転倒危険箇所を安価かつ広域にわたり検出するシステムを構築できるのです。このシステムがあれば、札幌市内の実際の道路において冬季の歩行安全性を定量的に評価できるようになります。高野先生はこのシステムがどれほどうまく運用されるのかを検証しています。

 

転倒危険度の評価には他にも緊急搬送のデータを分析する、定点カメラの映像を分析する、ボランティアが目視で観測するなどがあります。しかし、これらの手法では、転ばなかったデータが得られない、潜在的に転びやすい場所が分からない、ボランティアの負担が大きいなどの欠点が存在します。それに対して、スマホのセンサーをもちいたシステムでは、冬の転倒危険度を、定量的かつリアルタイムに、しかも広い範囲で、安価に、容易に把握することができるかもしれないのです。

 

②実験の手法

ほとんどすべてのスマートフォンには加速度センサーが入っています。それを利用して、実験参加者がスマートフォンを持って歩いた際の、上下、左右、前後の加速度を計測します。歩きやすい場所では、加速度の変化が周期的なのに対して、歩きにくい場所では、周期的になりません。このデータを分析すると、歩行の際の安定度が出されます。歩行データは計測終了時にまとめて送信される方法と、リアルタイムに送信される方法があります。得られたデータは10分毎にコンピュータに転送し、100m四方ごとの路面転倒危険度が計測されます。

 

③実験の結果

実験では札幌駅南口から大通公園にわたる地区のロードヒーティングのあるところでは安定していて、大通公園南側およびすすきの駅付近などの緊急搬送が多いところでは、やはり不安定という結果が得られたそうです。このように実際に転倒の危険性が高い地区を検出できたとのことでした。また、歩行安定度が大きく低下する気象条件の時には転びやすいというデータが得られたそうです。つまり、気象の変化による転倒危険度の変化もこの実験では検出することができたそうです。

(実際の実験のデータ 赤に近いほうが転倒危険度が高い)

 

④これから

いま行なわれている実験では、地区により得られたデータの数が大きく異なっているそうです。その結果、被験者の日常生活の範囲の偏りが調査結果に反映されてしまった側面があります。例えば、北海道大学の「北13条通り」では転倒が多いというデータが得られました。しかし、それは、「北13条通り」の先に北海道大学の工学院があるからだと高野先生はおっしゃっていました。というのは、この実験には高野さんの所属する工学院の学生が多く含まれていているからです。

 

つまり、現状では、参加人数が少なく、データを広範囲にリアルタイムで観測することはできていないそうです。同時計測者数が数十名から100名程度であれば、一般的なPCを用いて、10分毎に転倒危険箇所を検出することが可能になるそうです。データの収集に参加してくれる人が増えていけば、広範囲でリアルタイムに、どのような場所が危険であるかのデータを作ることができるようになっていくでしょう。 

 

 

3. まとめ

 

雪道で転ばないようにするためにできることはたくさんあります。また、将来的に、凍結路面も天気予報みたいにリアルタイムで見ることができるようになるかもしれません。今回のこの記事を読んで皆さんがもっと雪道に対して関心を持ってくれるとうれしいです 3)。

 

注・参考文献

1) 高野伸栄、戸部啓太朗、金田安弘(2015)「札幌市における冬季歩行者転倒事故実態について」、『寒冷地技術論文・報告集 寒冷地技術シンポジウム』31号所収、北海道開発技術センター、124-127頁

2) ウインターライフ推進協議会「転ばないコツおしえます 札幌発! 冬みちを安全・快適に歩くための総合情報サイト」、 http://tsurutsuru.jp/(最終閲覧日:2020年8月31日)

3) 他には以下の文献を高野さんに提供していただき、これらを参考にしました。齊田光  、徳永ロベルト、高野伸栄(2019)「スマートフォンを用いた冬期転倒危険箇所の検出に関する研究―住民協働を想定した転倒危険箇所検出実験―」、第63回 北海道開発技術研究発表会、発表原稿;高田萌花(2019)「北海道内主要都市における冬期歩行者転倒事故に関する実証的研究」、卒業論文(北海道大学工学部環境社会工学科)。

 

※ ※ ※ ※ ※
この記事は、櫻井謙輔さん(経済学部1年)、信田龍之介さん(総合理系1年)、村上太一さん(総合理系1年)が、全学教育科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。


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