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#163 北大と塩野義製薬 ~新型コロナ研究の最先端を行く~

2020年09月16日

北海道大学の人獣共通感染症リサーチセンターでは、塩野義製薬株式会社との協働で最先端の創薬研究を行っています。薬の開発とはどのように行われるのでしょうか?また、現在パンデミックを起こしている新型コロナウイルスに効く薬はできるのでしょうか?私たちは、塩野義製薬主席研究員であり人獣共通感染症リサーチセンターの客員教授も兼任されている佐藤彰彦さんに、創薬の方法や内情、そして北大と塩野義製薬の連携の経緯やその成果についてお訊きしました!

【大塚蔵人/神谷啓吾/吉田和生・総合理系1年】

 


この方に訊きました!

 

 (佐藤彰彦さん。塩野義製薬株式会社 主席研究員/
北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター 客員教授)

 

佐藤さんは、1980年、塩野義製薬株式会社に入社。AIDS治療薬「Tivicay」の開発をはじめとする大きなプロジェクトに多数携わった。職制定年を迎えた2013年以降は、北大の人獣共通感染症リサーチセンターに客員教授として在籍し、日夜、感染症治療薬の開発を行っている。

 


――佐藤さんは今までどんな研究をされてきたのですか?

 

日本でAIDS患者が増え始めた1988年ごろ、治療薬の必要性が高まったため塩野義製薬でもAIDS治療薬の開発研究をしていました。当時は人手が足りなくて、AIDSに効きそうな膨大な種類の化合物の候補から、実際に薬効を持つものを探す「スクリーニング」という作業を、たった2人でやっていました。しかも手作業!他社では100人規模で取り組む内容だったので、「たった2人で何ができるの」って結構言われましたね。でも、後に「Tivicay」の開発に成功したので一生懸命やってよかった。今では塩野義製薬でも化合物のスクリーニングの作業は数十人体制で行っています。

 

 

――塩野義製薬のTivicayは現在、効果の高いAIDS治療薬として広く使用されていますが、開発の裏には佐藤さんたちの地道な努力があったのですね!

 


(人獣共通感染症リサーチセンター。北大の北の端にある)

 

 

――ところで、なぜ塩野義製薬は北大を連携のパートナーに選んだのですか?

 

北大の人獣共通感染症リサーチセンター(以下、「人獣センター」)が、BSL(バイオセーフティーレベル)の高い研究室を擁していることが大きな理由です。BSLとは、簡単に言えばどれだけ危険な病原体を扱えるかという水準のこと。現在、日本国内で稼働している実験施設はBSL-3が最高レベルなのですが、その中でも北大の施設は最も広くて機材も研究者も充実しています。国際機関も集中していますしね。こういう理由で、塩野義製薬は北大と連携しているんです。

 

 

――なるほど!北大の充実した施設や人材といった研究力が高く評価されたのですね。北大と連携することで、どんなメリットがあるのですか?

 

やっぱり産学連携だなぁ。塩野義製薬研究所から若手研究員を連れてきて、北大で研究させたりもしています。企業と違って大学だと自由に研究できるのが良いところかな。さらに、先ほど言ったとおり北大の実験施設はBSL-3だから、塩野義製薬本社では扱えない病原体も扱えるんですよ。これも塩野義製薬側のメリットのひとつですね。

 

 

――企業だけでは出来ないことを、大学と連携することで可能にしていたとは!

 


(ZOOMで取材に応じてくださる佐藤さん)

 

 

――ここから、新型コロナウイルスに関連する研究について伺います。
 まず、今回のパンデミックはどのようにして発生したのでしょうか?

 

約20年前にSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome: 重症急性呼吸器症候群)が流行しました。これはSARSコロナウイルス(SARS-CoV)によって引き起こされる呼吸器疾患ですが、現在流行している新型コロナウイルスもこれと同じ系統のウイルスなので、「SARS-CoV-2」という名前がつけられました。一説には、キクガシラコウモリが元々持っているウイルスが、センザンコウやハクビシンなどの他の野生動物を介して人間に宿主をうつしたのではないかと言われています。あくまでも「そうなんじゃないか」という説で、まだ科学的に実証されたとは言えない段階ですけど。

 

 

――いずれにしても、野生動物由来のウイルスが、いろいろな動物を介して人間に感染する可能性がある、ということですね?


(新型コロナウイルスの感染経路として考えられている説のひとつ)

 


――新型コロナウイルスの治療薬研究は今どこまで進んでいるのですか?

 

新薬の開発も大事なんですが、「リパーパシング」といって、別の病気の治療薬として開発してすでに使われている薬のなかに、新型コロナウイルスにも効くものがないかを調べるという研究にも力を入れています。リパーパシングのメリットは、すでに厚生労働省の認可の下りている薬だから、もし良いものが見つかった場合、すぐにでも新型コロナウイルスの治療薬として使い始められること。レムデシビルやアビガンも本来は別の病気の薬ですが、新型コロナウイルスへの適用の可能性を一生懸命調べられていましたよね。


一方で、新薬を創る大変さは、お金をかけて開発したとしても、既存の別の薬よりも優れたものでないと実用化できないところだね。

 

 

――薬を創ること自体の難しさだけじゃなく、実用化にこぎつけるまでにたくさんのハードルがあるんですね。

(人獣共通感染症リサーチセンターで実験する佐藤さん)


 

――塩野義製薬では薬の開発研究にAIを利用しているとききました。詳しく教えてください。

 

新型コロナウイルスの場合、20年前に流行したSARSのデータがあるので、ウイルスの形がある程度は分かっているんです。そこで、AIを使った膨大なパターンのシミュレーションをすることで、既存の化合物から新型コロナウイルスに効果のある、いわゆる「当たり」を探しています。この時、ただやみくもシミュレーションをするのではなく、ある程度、見当をつけてから丁寧に探す方が、良いものが速く見つかります。

 

 

――量より質なんですね…大事なことだ!
 新薬の開発にはどのくらいの費用がかかるのですか?

 

一概には言えないけど、大体1000億円くらいです。

 

 

――い、1000億円?!

 

びっくりでしょ?(笑) これを10年単位で継続しないといけないから、製薬会社は大企業でないと立ち行かないんです。AIDS治療薬では他の製薬会社と共同開発という形をとっています。開発費を半分ずつ出し合うことで、リスクも半分にできるからね。

 

 

――創薬研究の大変さがよくわかりました。
 最後に、大学ではなく民間企業の研究者として感染症の治療薬開発に携わってきたなかで、大変だなと思うことは何でしょうか?

 

結論から言えば、抗ウイルス薬や抗菌薬の市場価格が安くなって儲からないこと、ですね。例えば、慢性的な病気の薬は長期間にわたって飲み続ける必要があるから、つまり売れ続けますよね?でも感染症は治ってしまえばもう薬を飲む必要がなくなるので、服用期間が短い。つまり、短期間で治る病気の薬は非常に高い値段で売らない限り利益が出ないので、企業ではなかなか研究できないんだよね。これが実情なんです。


その意味でも改めて、売れる/売れない、だけを絶対の基準にすることなく研究ができる大学という場所は、素敵な研究機関だと思います。

 

 


(佐藤先生、ご協力ありがとうございました!)

 

 

さいごに

 

今回のインタビューで、私たちがふだんお世話になっている「薬」がどうやって創られているのかを知ることができました。そして、新型コロナウイルスを含むウイルス研究の最前線を担う研究所が、北大の中にあることを初めて知りました。大学は、大学だけでできているわけではないんですね。

 

進路に迷っている高校生、中学生の皆さん。この記事が皆さんの進路選択の参考になればと思います。

 

 

※ ※ ※ ※ ※
この記事は、大塚蔵人さん、神谷啓吾さん、吉田和生さん(総合理系1年)が、全学教育科目「北海道大学の『今』を知る」の履修を通して制作した成果物です。


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