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小さなホヤの進化に迫る! 分類学と数理モデル、そしてクラウドファンディングで!!

2020年11月20日

 

海の岩場などにくっついて生きている固着生物ホヤ。珍味として知られているマボヤの他に、命名されているだけでも約3000種類が存在し、その形態や大きさは様々です。マボヤはこぶし大の大きさですが、中には数mmから数cmという、分裂で増える小さなホヤも数多く存在しています。

 

長谷川尚弘さん(理学院自然史科学専攻 博士課程1年)は、学部4年生から北大でホヤ研究に取り組み、日本各地の海で小さなホヤたちの姿を観察してきました。そしてある仮説に至ります。「小さいほど速く増えることができるため、徐々に小さく進化していったのではないか?」「増殖速度と個虫サイズの関係には種を超えて共通性があり、数理モデルで表すことができるのではないか?」

 

この仮説を検証するため、長谷川さんはブラジルの大学で博士課程に進む予定でした。しかし、新型コロナ流行のため渡航を断念。予定がかわって奨学金なども得られていなかったため、現在一念発起してクラウドファンディングに挑戦しています。目標額65万円のところ、すでに達成率は100%を超え、さらに150万円を目指しています。締め切りは12月8日。あと一押しをお願いしたいという長谷川さんにインタビューするため研究室におじゃましました。

【川本思心・CoSTEP/理学研究院 准教授】

 

(院生室には海の生き物がすんでいる水槽がありました)

 

 

――院生室に入ったとたんに水槽が?! ホヤも飼育しているのですか?

 

一昨年の胆振東部地震の時までは飼育していましたが、停電で水槽クーラーがとまり、水温が上がって死んでしまいました… 今はウツボやヒトデ、ルリスズメダイを飼っています。生き物全般が好きなんです。

(右側の容器に入っているのが飼育していたマボヤの「壱號」。2018年7月に厚岸沖の無人島、大黒島で採集するも9月に死亡。合掌)

 

研究では実験室で短期間飼うことも考えていますが、実験飼育は北大や他大学の臨海実験所でやることになります。ホヤのくっついたプラスチックプレートを海に沈めて、定期的に引き上げて観察する方法です。

 

 

――小さなホヤがどう増えるのかを観察するのですね。ホヤにはどんな種類がいるのでしょうか?

 

ホヤには単体ホヤとよばれる雄と雌で有性生殖をするマボヤのようなやつと、有性生殖も無性生殖も可能な群体ホヤがいます。群体ホヤは個虫とよばれる小さいホヤの集団で、個虫から小さい個虫が出芽して、岩の表面などにひろがって群体をつくります。


群体ホヤにもいろいろいますが、例えばイタヤボヤ類の個虫は1~3mmくらいの小さいやつですが、群体は1mくらいの大きさになりことがあります。アラレボヤ類の個虫は2~3cmくらいで、群体はそんなに大きくなりません。10cmくらいでしょうか。

(上段のマボヤとエボヤは単体ホヤ。下段のツツボヤとマメイタボヤが群体ホヤ。群体の個虫同士は血管や神経でつながっていて、一つのネットワークを形成している)<写真提供:長谷川尚弘さん>

 

(群体ホヤの一種、カタマリムラボヤの標本。個虫は被嚢とよばれる「カラ」の中に入っている。標本の断面に個虫が入っている穴と個虫がみえる。個虫のサイズは直径8mm、長さ2cm)

 

(小石にくっついているキクラゲのようなものはイタボヤの群体。虫眼鏡で拡大すると小さいポツポツが…これらすべてが個虫。直径は1mmほど)

 

 

――つまり個虫が小さいと群体は大きくなる傾向がある、でもどの群体ホヤの個虫も同じように小さいわけではない、ということですね。そこにはどういう生存戦略があるんでしょうか。

 

まず個虫が小さいとウミウシとかの敵に食べられやすくなります。それから小さいと、水温といった環境の変化に弱くなります。

 

でも小さいと速く増えて群体を大きくできるという利点があります。出芽するためには大きくならないといけませんが、もともとのサイズが大きいと出芽できる大きさになるまでに時間もかかるからです。速く増えるということは、生存に必要な足場を他の生物より先に手に入れることができるという点で生存に有利になります。

 

 

――なるほど。メリットとデメリットのバランスをとったそれぞれ生存戦略があるのですね。そういった群体ホヤの進化でこれまでにわかっていることは?

 

先行研究では単体ホヤが祖先型で、そのあとに群体ホヤが進化してきたと言われています。また、特定の種類からすべての群体ホヤが進化したというわけではなく、様々な種からそれぞれ群体ホヤが何度か進化してきたと考えられています。

 

僕の研究は、サイズと生態的特徴と進化の関係について演繹的に明らかにしようする点が新しいと思います。進化的に新しい種ほど個虫のサイズが小さくなっていったのではないか、という仮説です。でも指導教員の柁原先生には「それあたりまえじゃないの?」「先行研究あるでしょ」とすっごい言われて(笑)。僕もそう思ってサンゴとか他の固着生物の論文も含めて柁原先生とすごい探したんですが、なかったんですよね…

 

 

――研究では数理モデルも使うということですが、分類学研究ではあまり聞かないアプローチです。どのように着想したのでしょうか?

 

きっかけはやっぱり海に何度も潜って群体ホヤを観察していると、形もサイズもいろいろなんです。ちっちゃい個虫が集まって1mくらいの群体になってたりする。「何でこうなったのかな?」「大きくなるのにどれくらい時間がかかったのかな?」と考えが浮かびましたね。それで数理モデルにしてみようとおもいましたが、柁原先生に2時間くらい話をしてもなかなか納得してくれなくて(笑)。もちろん最後は納得してくれました(笑)。

 

あとは、父が高校で数学の教師をやっていて、よく数学の話を家族でしていたというのがもしかしたらあったかもしれません。でも嫌いじゃないんですが、私は家族の中一番数学が苦手です(笑)。


現在考えている数理モデルでは、ある時間内に群体が広がる速度と、個虫のサイズの関係を表しています。このモデルが実際のホヤによく当てはまるかどうかを、先ほどお話した飼育実験で検討し、さらにモデルを詰めていきたいと考えています。

(現在検討している数理モデル。個虫は模式的に立方体で示している。上段:底面積平方1cmの小さい個虫の場合、毎日倍に増えていくと3日目に8平方cmになる。式に当てはめると8=1・2^(3/1)。下段:底面積4平方cmの大きい個虫の場合、同じく8平方cmになるには8日間かかる。式に当てはめると8=4・2^(8/8)<図提供:長谷川尚弘さん>

 

数理モデルの面白さは、単なる観察ではなく客観的に表せることですね。ホヤ以外の固着生物の生態戦略の理解にも使えるか試してみたいです。

 

 

――面白い生物には様々いますが、そのなかでなぜホヤに興味をもったんでしょう?

 

僕は北海道育ちで、ちっちゃいころからスーパーの鮮魚コーナーでホヤをみて「なんだこれ~!?」と思っていました。形がおもしろい! 単純にへんな形っていうのが好きなのかなぁ(笑)。あと色も真っ赤で。何なんですかね。ああいう色が好きなんですかね。タコも好きですし。群体ホヤの規則性、パターンには美しさも感じます。

 

ホヤは通風になるという話も好きなんですよ。結石もできちゃう。「おじさんじゃん?!」と思って親近感がわく(笑)。学部4年生で研究室に入る前からホヤをやると決めていました。

(ホヤについて熱く語る長谷川さん)

 

 

――ホヤ愛がすごい(笑)。ところでホヤってどうやって採取するんですか

 

ホヤは浅瀬にもいるんですが、あまり種類が取れないのでダイビングをして採取します。一番深いと40mくらいもぐります。まずダイビング自体が楽しいですよね(笑)。装備を買ったり、船を出してもらうのにするのでお金がかかりますが…。臨海実験所や地元の方にご厚意で船を出していただくこともあります。本当にありがたいです。

(潜水用具をつけてみせてくれました)

 

ホヤは日陰にいるので、岩がせり出している陰とか、石の裏とかをさがします。ホヤは岩にくっついているのでうまくはがさないとちぎれちゃうんですよ。なのでガムをはがすのに使うようなスクレイパーを使います。トンカチで岩を割って岩ごと持ち帰ることもあります。道具はけっこう多く腰にジャラジャラ下げていきます。

(鳥取県の海でホヤを採集する長谷川さん。2019年撮影)<写真提供:長谷川尚弘さん>

 

はじめのころはよくわかってなかったのでピンセットも持っていきましたが、役に立たないですね。そういう意味で経験はつんできているのかな。研究を始めた頃は水温が12~13度でもウェットスーツで潜って、ガタガタ震えて鼻水たらしてました(笑)。今はもうできません(笑)。その後、体にあったドライスーツも作りました。ドラゴンクエストみたいに段々装備が良くなっています(笑)。

 

 

――採集したホヤのその後は?

 

採集初日は興奮するので、ついついたくさん採集してしまいます(笑)。1週間で100サンプルくらいはふつうに取れちゃいますね。でもとりすぎるとその夜はたいへんです。すぐに保存しないと腐ってしまうので寝られない(笑)。

(ロッカーには日本各地で採集したホヤの標本がつまっていました)

 

研究室にもどったら、実体顕微鏡下で観察します。時には切片標本をつくって内部構造を顕微鏡で観察したり、走査型電子顕微鏡で表面の微細な構造を観察したりします。もちろん遺伝子配列も調べます。これらの形態情報と遺伝情報をつかって分類をします。

(「これ、鼻水たらしながらとったホヤですね~」と思い出深そうな長谷川さん)

 

 

――博士課程では海外でさらに研究を発展させる予定だったんですよね

 

ホヤの研究を続けたくて2019年の3月頃、世界中の研究者10名くらいにメールで突撃しました。そのうちの一人の方が「その研究をしたいなら」と教えてくれたのが、サンパウロ大学でホヤの群体形成の研究もしている進化発生生物学者のフェデリコ・ブラウン先生でした。

 

ブラウン先生とコンタクトして、入学するために試験やポルトガル語の勉強をしたりしていました。でも入試の前に新型コロナの流行がひどくなって…せめて入試を受けられて入学が確定していたら、サンパウロ州政府の奨学金も貰えたんですが、困ったなと…。日本で研究する準備もしていなかったので…

 

 

――そこでクラウドファンディングに着目したのですね

 

ちょうど理学部の同期がクラウドファンディング会社にインターンシップに行っていて、教えてくれたんです。それで二つ返事でやることになりました。ありがたいことにいろんな方に支えて頂いていますね。

 

頂いたお金はまず調査地に行くための交通費に使わせていただきます。仮説を検証するためには様々な種類のホヤを研究する必要があるので、北海道だけではなく、青森の浅虫、神奈川の三崎、静岡の下田、沖縄の瀬底などに行って採集する予定です。あとはダイビングのための船を借りるためにも使わせていただきます。

 

目標は65万円としていましたが、セカンドゴールの100万円も達成することができ、現在、サードゴールとして150万円を設定しています。皆様のご支援は本当にありがたいものです。サードゴールの資金が集まれば、ブラジルで行う予定だったRNAを用いた解析を行うことも視野に入ります。ご支援何卒よろしくおねがいします。

(院生室の机にて)

 

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長谷川さんがチャレンジしているクラウドファンディングに関する情報はこちら。コロナ禍の中でもひたすら研究に打ち込もうとする長谷川さんをぜひ応援してください!

 

動かない動物「ホヤ」、その生存戦略に迫る!

期間: 2020年10月7日10時~12月8日17時

コース: 1000円/5000円/1万円/3万円/5万円/10万円

詳細は【こちら

 

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長谷川さんの所属研究室はこちら

大学院理学院 自然史科学専攻 多様性生物学講座I(柁原宏 准教授)

研究室HP


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