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#99 天塩の良心が残した森 安斉(あんざい)(1)

2016年08月05日

 

天塩研究林は、北海道大学が所有する7つの研究林の1つです。北緯45度に位置し、国内最北の大学所有の森林です。

 

約 22,500haに広がる森の多くは、たびたびの森林火災や伐採後に更新された森ですが、中には300年以上にわたり焼失や伐採による破壊を受けていない場所も存在します。世界的にも貴重な、文字通り「手付かず」の北方の森。それが「安斉(あんざい)の森」です。森から学べること、また手付かずの森を残していくことについて、天塩研究林ではアウトリーチ活動をはじめました。

(天塩研究林の小林真さん)

 

 

倒木の上に芽生える

 

6月5日、安斉の森をフィールドに、北方生物圏フィールド科学センター天塩研究林と、高等教育推進機構CoSTEPのコラボレーションによるワークショップ「これが私の森!光と影でつくる写真の世界」が開催されました。参加したのは、幌延町問寒別小中学校の子どもたちと地域のみなさんです。

 

問寒別小中学校からバスに乗ること約30分。一行は森の入り口に到着しました。安斉の森は、過去70~80年の間に伐採や火災による破壊を受けておらず、それ以前については記録がないものの、自然に森が更新され保たれてきた「天然生林」です。

 

予めササを刈って作られた道を進むと、大きな倒木が道をふさいでいました。天塩研究林の小林真さん(北方生物圏フィールド科学センター 助教)が説明します。

「いまみんなが通ってきたところは、今日のためにササを刈ってあるから歩きやすいよね。足元を見てごらん。小さな木の芽が生えているのがわかるかな。じゃあまわりはどうかな。ササがいっぱい茂っているよね。こういうところで、木の芽は育つだろうか。実は、ササのせいで日光がさえぎられるから、子どもの木はあまり育たないんだ。じゃあ、どんなところで新しい木は育つんだろう。この倒木の上を見てごらん。」

苔むした倒木の上を良く見ると、小さな木がつやつやした葉を広げていました。

「古くなったり強風を受けたりして木が倒れると、その体の上に次世代の木が育つ。こうして森はずっと続いていくんだよ」

倒木の上を乗り越えてさらに進んでいくと、今度はタコの足のような根をもつ木に遭遇しました。

「どうしてこんな形になったんだろう。だれかわかるかな」

子どもも大人も考えます。

「ヒントは、さっきの倒木だよ」

「わかった、倒木の上に生えた木が大きくなったあとに、倒れた木が腐ってなくなった」

「正解」

 

 

手付かずの森が教えてくれること

 

天塩研究林では、研究者と技術スタッフによって、森の生態系に関する継続的なモニタリングや、それを可能とするフィールド管理が行われています。これは、全国の大学が利用できる実践的教育共同利用拠点として、多様なニーズや将来の利用に備えてデータを取り続けることや、研究テーマに応じたフィールドをいつでも提案できるよう、将来の研究にも備えたベースとなる活動です。

(いろいろなタイプの森林をみることができる安斉の森)

 

安斉の森は、アクセスが簡単なのにも関わらず、伐採や山火事の影響を免れ、原生に近い「手付かずの状態」で保存されています。原生林の生態系や、どのように森が更新していくかを知ることができる場所として、将来に残していくこともまた、研究林の役割です。

 

しかし現実には、これほど広大な森を、大学の人的・経済的リソースによって維持することは、決してやさしいことではありません。「将来のニーズ」は目に見えませんし、本当に必要になるかどうかわかりません。データをとるのをやめてしまったり、伐採して木材利用したりすることもありえます。

(子どもたちに説明をする小林さん)

 

小林さんは言います。「森の特徴は、長寿の生き物がいることです。多くの樹木の一生は、1人の人が、生まれてから死ぬまでの間に追うことができません。おじいちゃんと孫で森に来てもらい、『おじいちゃんが子どもの頃は、この木はこれくらいの大きさだった』とか、そんな話ができたら、世代を超えて続く生態系を対象にするからこそ学べること、人が生きていく上で大事なことを学べるでしょう。森のオリジナリティとして、それをアウトリーチ活動の中で出していくといいかもしれませんね」

 

「目に見えない将来のためにとっておく」「手付かずのまま残していく」という考え方や価値観が腑に落ちる場所、実体験できる場所として、森は貴重です。

 

「今日、僕が最初に話した倒木更新の話は、森がもたらす価値観の変化を期待する事例です。でもサイエンスとしての倒木更新の原理、システムから説明してしまうと、そこまでの理解に至らないかもしれません。初めに、森は長い時間をかけて生きるという概念の話から入っていけば、同じ事例を紹介しても、世代をまたいだ生き物たちが森を成り立たせているという位置づけを理解しやすいのじゃないか。そういうことを意識しながら、より多くの人に安斉の森を紹介したいと思っています」(小林さん)

 

「天塩の良心が残した森 安斉(あんざい)」(2)に続く

 

 

----天塩研究林を紹介しているこちらの記事もご覧ください---

【チェックイン】#91~93 世界で1つだけの花が咲く、天塩研究林へようこそ

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 (2)(2016年03月18日)

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