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#241 文学院で動物心理学の研究…!? - 文系から科学する「動物のこころ」(2) ~研究も育児も助け合い~

動物心理学を研究されている瀧本彩加さん(北海道大学 大学院文学研究院 准教授)。前編では、文学院で動物の心理を研究するに至った経緯やサルの不公平感の認識、ウマの社会性についてお話しいただきました。この後編では、瀧本さんご自身に焦点を当てていきます。瀧本さんの明るい人柄がにじみ出るお話から、研究に対する瀧本さんならではの柔軟で誠実な姿勢が浮かび上がってきました。

【上垣朋輝/法学部1年 神谷聡佑/文学部1年 三瓶幌汰/経済学部1年 西戸陽那/総合理系1年 六笠真里奈/総合理系1年】

 

――ウマの共同養育(※詳しくは前編参照)について、ご自身の子育てで得た気づきがきっかけになっていると伺いました。研究にご自身の経験が活かされたことや影響を与えたことなどがあれば教えてください。

共同養育の大切さに気づいたのは、実際に自分自身が子育てをする中で、周囲の人たちによる助けがとても大きかったからです。

コロナ禍での出産だったので、人との接触が断たれる中で初めての子育てをしないといけなくて、不安や戸惑いが大きかったんですね。そのときに児童虐待とか育児放棄のニュースを見ると、他人ごとじゃないっていうか。私の場合は、つい最近まで夫が単身赴任でしたが、平日は不在でも週末には来て、育児に積極的に関わってくれましたし、母も遠方からときどきサポートに来てくれました。娘の保育園入園まで半年間の待機が必要でしたが、その間は夫が育児休暇を取ってくれたおかげで、私は学生の卒論指導のために予定通り仕事復帰できました。娘が幸運にも第一希望の保育園に入ることができた後は、保育園の先生方やお母さんたちが温かく交流してくれたので、不慣れな子育ても何とかやってこられました。これが、頼れる家族がいない、保育園が見つからない、などの状況であったら、もっとずっと大変な思いをすることになるのは容易に想像できます。

個人を責めて終わりにはできない、子育てが孤立化してしまわないよう、うまく助けを求めて受ける「受援力」とともに、親を含む家族やそれを見守る社会の目や意識などをうまく育んでいかないと、子育てをめぐる社会問題を根本的に解決することにはならないのではないか。この問題は、もっと自分ごとだと思って取り組まなきゃいけない――そう思ったんですよね。そうした気づきが、今の研究にもつながっています。

身振り手振りも交えてお話しくださる瀧本さん
――研究に加えて、出張・執筆・子育てなどご多忙だと思いますが、日々の時間管理やスケジュール調整はどのように工夫されていますか?

良くないのはわかっているのですが、私は締切間際にならないとなかなかエンジンがかからないタイプで・・・。それでも、娘が生まれるまでは、自分さえ無理をすれば締切に間に合わせることもできたんですよ。でも、娘が生まれて以降は、娘が急に体調を崩すこともあって、仕事を休まないといけなくなったりして、スケジュール(もともと無理のあるスケジュールなのですが)どおりには行かなくなることが増えるんです。なので、何でも早めに取りかからなきゃいけないと日々思っているのと、優先順位をつけるようにしています。また、次の予定の直前まで集中して作業をしたいので、最近は携帯のタイマーを利用して、タイマーが鳴るまで集中、時計も見ない、もうやれるだけのことはやるみたいな感じで、詰めてやっていますね。

あとは「これは明日までにやらなければ」って仕事を持ち帰ると、娘を寝かしつけるときに「早く寝てくれないかな」って焦るんですね。寝ないとイライラしてしまうこともあって、これは良くないと思ったことがありました。以降は娘が寝た後に何かしなければならないっていうふうにはしないで、翌日までにやらなきゃいけない仕事は職場で終わらせ、極力持ち帰らないようにしています。

――結婚や出産、子育て、さまざまなライフイベントを経験されてきたと思います。研究を続けることに迷いや葛藤を感じたことはありませんでしたか?

研究の継続に迷いはありませんでした。出産がわかってから産休を取るまでに7カ月弱あったので、それだけ時間があれば、私がいない間の研究遂行について、学生や共同研究者の皆さんとの調整も可能です。また、幸いにも優秀な学生に恵まれていたので、産休・育休で半年休んでいる間も、学生が一生懸命にデータを取り続けてくれたり、論文を書き進めてくれたりして、ずっと研究を続けられていたので、それはずいぶん大きな助けになりました。

ただ、泣く娘を保育園の先生や家族に預けて、「ママ―」という声を振り切って、仕事に行かないといけないという場合は、娘にこんなにつらい思いをさせてまで仕事をしないといけないのか、と葛藤したこともありましたが・・・。今では、私が仕事の内容を話すと、娘は理解して、だいたいの場合は納得して私を送り出してくれるようになったので、ありがたく思っています。もちろん、出産前のように身軽にフィールドワーク・学会出張に行けなくなってはいますが、夫や母・娘にさまざまに協力してもらって、なんとかやっています。

瀧本さんと指導学生のゼミの様子(提供:瀧本さん)
――ご家族や学生さんの支えがあったのですね。

はい。子育てだけではなく、研究もひとりでするものではないんです。

文系だけど、実は理系の研究に関心がある人もいると思うんですよね。自分は○○が苦手だから、本当は○○の研究がしたいけど諦めなきゃいけない――なんてことはないんですよ。そういう人に、「研究はひとりでするものではない」っていうことを言いたいです。今は協力する時代なんです。それぞれ得意なことで力を合わせて、1つのプロジェクトを成し遂げていく感じです。どうにかこうにか、人づてにでも協力体制を整えて、果敢にチャレンジしていくことができます。だから諦めないでって言いたい。

もちろん、苦手ながらも基礎を学んだり理解しようとしたりする姿勢は大事ですが、私はたくさんの人の助けを借りながらこれまでやってきたので、助けを得られるように、出会った人を大切にして、人間関係を構築しておくのも大事だと思います。実際、学生時代からの縁で、研究・仕事の輪を広げられているところがあって、皆さんには心から感謝しています。

取材班の質問に笑顔で答える瀧本さん
――良好な人間関係の構築についてもお話がありましたが、事前に好きな本として、『女性の品格――装いから生き方まで』を挙げていただきました。この本から受けた影響も大きいですか?

そうですね。私が品格のある人かというと全然そうではないんです。恥ずかしいんですけど。ただ、身近に素敵だなって思う研究者の先生がいて、どのようにすればその先生のようになれるのか、と考えたときに、品格を備えることが必要なのではないかと思って、この本を手に取りました。私の研究室で行っている研究では、牧場や馬術部・動物園など、研究協力先の皆さんの協力や支援がなければ成り立ちません。貴重な時間を割いて協力してくださる皆さんに対して、まずは「人としてちゃんとすること(礼儀正しく、誠実に)が大事だよ」、と学生たちにも伝えています。

ウマの群れを観察している瀧本さん(提供:瀧本さん)
――では最後に、今後、キャリアを重ねるうえで大事にしたいことを教えてください。

もう少しワークライフバランスをうまくとりながら、仕事にもプライベートにも最善を尽くしていきたいと思っています。忙しいと、休日も娘を寝かしつけた後などに「仕事をやらなきゃ」というモードになってしまい、夜寝るのが遅くなり、朝起きるのも遅くなってしまうことがよくあります。ただ、身近な人に「仕事は何のためにしているの?人生を豊かにするための仕事じゃないの?」と言われて・・・。もう少ししっかりと時間管理をして、仕事もプライベートもより充実させられるように頑張っていきたいです。

瀧本さんと取材班
――取材後記

これから取り組まれる研究テーマについても興味深いお話を伺いました。今後は、同種の動物内の共同養育に限らず、異種間で育まれる「慈しむこころ」についても探求していきたいと語ってくださいました。瀧本さんの今後の研究成果にご期待ください。

今回の取材ではご自身の子育ての経験をきっかけに研究テーマを広げながら、研究と生活を柔軟に両立されている瀧本さんの姿が印象的でした。「研究はひとりでやるものではない」という言葉からは、研究や進路選択において他者とのつながりや対話を大切にする瀧本さんの姿勢が伝わってきました。これらの言葉や姿勢は、進路に悩む学生にとって、自分らしい道を見つけるための大切なヒントになると感じました。不慣れなインタビューにもかかわらず、終始温かく迎えてくださった瀧本さん、本当にありがとうございました。

注・参考文献

1.北海道大学 大学院文学研究院・大学院文学院・文学部 「瀧本彩加 プロフィール」. https://www.let.hokudai.ac.jp/staff/takimoto-ayaka (最終閲覧日:2025年11月7日)

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