青木茂さんからのバトンは、同じ研究所の大島慶一郎さんに渡りました。
研究室に入ると、棚の上にカップヌードルの空きカップ2個を発見。でも通常私たちが見るサイズにくらべて、随分と小さくなっています。
これは、2000年にオホーツク海を調査したロシアの船、「クロモフ」に乗船する際、わざわざ日本から持参し海底3000mに沈めたそうです。強い圧力で、通常の10分の1のサイズに縮まってしまいました。ちなみにカップに書いてある「Professor Khromov(クロモフ教授)」は人名ではなく、船名です。日本なら、〜丸や〜号などの名前が普通ですが、国によって船名の付け方も違うのですね。
1990年11月から約1年4カ月を南極で過ごしたのですが、南極には、インフルエンザウィルスなどの病原菌がいないので、ほとんど病気にはならなかったそうです。唯一倒れたのは、「睡眠3時間くらいで働き続けた時かな。明らかに過労だよね」。それほど研究漬けの日々を送りました。その後も日ロ米共同観測の調査船や日本の白鳳丸・海鷹丸などに乗船し、南極観測を続けています。
そこまでのめりこんでいる研究とは、人工衛星からのデータと現地調査の結果から、海のずっと深いところを流れる「海洋深層水」の様子を調べる、というものです。
2008年に、人工衛星からのデータを解析することで、昭和基地の一部に海洋深層水(南極低層水)があるらしいことを示す海氷を発見しました。その後、その南極低層水を捉えて全容を明らかにする研究プロジェクトが進み、3年前からは准教授の深町さんが観測器を海に沈めて、データを取っています。2年前、そのデータを回収するために、学生も含む数人のスタッフが調査船「しらせ」に乗って現地へ向かいました。でも天候が悪く、データ回収は断念せざるをえませんでした。
今年こそは回収を、と意気込む大島さんは「低温研のエースを投入しましたよ。」とニヤリ。准教授の深町さんと助教の松村さんの2人が2月末の回収を目指し、南極へ向かっています。
部屋には、人工衛星から見たオホーツク海の地図が飾ってあります。流氷が発達した2月頃のもので、北海道の北、サハリンを中心に、東側にカムチャッカ半島、西側に極東ロシアが見えます。
大島さんは、新たにこのオホーツク海でも、海洋の水温や塩分を測る調査を進めています。トド2匹に使い捨ての発信機を付けて海に放し、データを取っています。トドが海面に浮上したら衛星にデータを送るという仕組みなので、いちいちトドを捕まえなくて済みます。現在は、トドよりもっと深くまで潜る「クラカケアザラシ」に発信機をつけ、さらに深いところのデータを取ろうと試みています。
大島さんはもともとは物理に興味があり、北大理学部で地球流体力学の研究をしていました。25年前に低温研に来てからは、さらに発展して、海水、極域(南極・北極・オホーツク海)の研究に没頭するようになります。「低温研」を職場に選んだ理由は、「当時はまだ未開拓の分野でこれからの可能性を秘めていたし、チャレンジングなテーマに魅力があったから」。北大の「フロンティアスピリッツ」が伝わってきます。
次にバトンを受け取るのは、渡邉豊さん(環境科学院准教授)です。お楽しみに!