バトンは、松本謙一郎さんから、農学研究院の三橋進也さんに渡りました。
真ん中にある“釜”のような機械。これは“ジャーファーメンター”という巨大な培養装置です。通常、研究室で培養するときには、2~3L用のフラスコを使います。少し大きなものでも、5~6L程度。しかし、このジャーファーメンターは、なんと70Lを培養できるそうです。
「環境中にいる微生物の働きは、まだ1%程度しかわかっていないんですよ。なぜならほとんどの微生物を人間が培養できてないからです。実はまだ培養も解明もできてない、のこり99%の中には、ひょっとしたら我々の役に立つ菌がいるかもしれません。そんな培養しにくい菌は単独ではなく、違う種の菌同士が共存してるからこそ増えていける場合もありうる。でもそれには、共存を可能にしている、虫でいう“フェロモン”のような分子があるはずなんです。僕は菌が出すその分子を見つけ出して、どんな形をしているのか調べています。そのためにはこの大きな培養装置は欠かせないのです」
実験に欠かせないものが2つあります。
まず1つが、この「SHIGEMI」。「そのスジの人は見ただけで何の道具か分かる」ニヤリとする三橋さん。
中は、恐ろしげなものではなく、微小なガラス管。太さは、通常の半分の2.5mm。
このガラス管を使って、培養された目的の分子を分析します。そしてこのガラス管に充填できる量はわずか40μl(マイクロリットル)。陽気でユーモアのある三橋さんも、その瞬間は神経を研ぎ澄まします。今は、第1回目の培養が終わり、その結果を分析中とのこと。その成果を聞くと「うーん。だいたい60%くらいかな。ぎりぎりパスだね」
実験に欠かせないものの2つめは、「彼らですよ!」
「この二人なくして、実験はできませんよ」と断言。
このジャーファーメンターは、主に工業用施設で使われる装置ですが、北大では10年以上休眠状態。これはもったいない、と半年をかけて整備したのが、修士1年の髙井さん(右)。今では「彼なしには、この装置は動かせない」と三橋さんに言わしめるほど。そして、培養後の処理を一手に引き受けているのが、Nazrul Islam Bhuiyanさん(中央)。2010年に来日し、博士号を取得する来年には、母国、バングラディシュの研究機関(BCSIR)に戻るそうです。
三橋さんの印象を聞くと、“Kind & Helpful”。
三橋さんが学生に願うことは「卒業する時に、“なーんだ、三橋先生って大したことないじゃん”と言えるほど立派になってほしい」。でも、明るくて、楽しくて、親切な三橋さんを乗り越えるのは簡単ではなさそうですね。
次のバトンは、北川航さん(農学研究院 寄付分野教員)に渡ります。