バトンは小林広和さんから松本謙一郎さんに渡りました。
大腸菌からプラスチック!?
松本さんが手にしているのは、大腸菌から作ったプラスチック。触るとツルツルしていて硬さもあります。でも大腸菌と聞くと、食中毒の原因にもなる菌を触って大丈夫なのかと気になります。
「毒性はないから大丈夫ですよ」と、大腸菌の入った試験管を手にニッコリ。そもそも、実験では食中毒菌になる病原性大腸菌は使いません。
松本さんは、微生物や植物の細胞の中でプラスチックを作る研究をしています。大腸菌などは、もともと体内にプラスチックをつくる“もと”を持っています。その“もと”を使って実際に使えるプラスチックを作ろうとしています。プラスチックは、分子のレベルで細かく見てみると、”もと”が繋がってできた“ひも”なのです。この”ひも”を作る過程で鍵を握るのが、“タンパク質”です。電車のおもちゃに例えると、電車の1つ1つが”もと”です。電車どうしを正しい向きで近づけると、前後についている磁石でどんどん連結し、繋がっていきます。この連結する役割をはたしているのが、タンパク質です。分子同士をつなげるときも、分子の位置と向きを正しく合わせなければ”ひも”になりません。松本さんは、タンパク質が大腸菌の中でうまくひもを作れるように、いろいろな工夫をしながら研究を進めています。
もともとは、植物培養の研究をしていた松本さん。タバコを栽培し、その細胞の中にもプラスチックを作ろうとしています。
学生への指導も熱心です。修士2年の横尾さんは、「いつも丁寧に教えて頂いています」と、松本さんを前に緊張の面持ちです。手にしているのは、反応を見やすように蛍光色素を入れて培養した、タバコの細胞が入ったフラスコです。
6年前に北大に来たきっかけは、教授である田口精一さんの誘いがあったから。北大内で他部署と連携して共同研究できるメリットを実感しています「微生物のエサは培養に欠かせないものです。(前回のバトンリレーで紹介した)小林先生の研究成果のおかげで、利用できるエサの種類が増えました。それに、タバコの培養方法についても、理学院の先生からアドバイスをもらったんですよ」。
取材中、ラボの学生達がジャガイモやソーセージを手に忙しく動いています。聞くと、歓迎会や送別会はもちろん、ちょっとしたお疲れさん会も開催するのだとか。この日は、博士論文を書き上げたメンバーの慰労会。準備風景を見守っていた松本さんが真顔で「料理の腕と実験の腕は比例するかもしれないですよ。やっぱり手先の器用さは大事ですからね」。では、松本さんの料理の腕前はさぞや素晴らしいと思いきや、「あ、私はカレーしか作れません」。どんなスペシャルカレーなのか味わってみたいものです。
松本さんの将来の夢は「実際に”もと”がどうやって繋がって”ひも”になるのかを見る」こと。「実験の結果として、繋がることはわかっているのですが、実際に見えているわけではないので、その瞬間を見てみたい」。北大内でも他部署とつながり、ラボ内でも学生や他の先生たちともうまく繋がっている松本さん、夢が実現するといいですね。
バトンは、微生物つながりで、三橋進也さん(農学研究院 特任講師)に渡ります。