普段から何気なく利用している北大図書館には、まだ私たちの知らないめくるめくような知の世界が広がっています。
北海道大学附属図書館本館はおよそ189万冊と日本有数の蔵書を誇るだけでなく、国連寄託図書館に指定されているなど、内容的にも特色ある図書館です。書庫に収蔵されている資料、北大図書館の知られざる役割や今後の展望について、附属図書館利用支援課調査支援担当の細井真弓美さんと杉山あかねさん、および本館閲覧担当の茶屋容子さんと奥田由佳さんにお話をうかがいました。
【上川伶・CoSTEP受講生/理学部地球惑星科学科2年】
北大図書館ならではのコレクション
ーー北大図書館に収蔵されている資料の特徴について教えてください。
茶屋:やはりスラブ系の資料は特徴的でしょうね。北海道大学には、(国内のスラブ・ユーラシア地域を中心とした研究の中核的拠点である)スラブ・ユーラシア研究センターが設置されているので、附属図書館本館の書庫には「スラブコレクション」としてロシア語で書かれた資料(帝政ロシア時代の出版物や新聞のマイクロフィルムなど)が収蔵されています。
「北方資料」も特色あるコレクションの一つです。北方資料閲覧室や西書庫2階には、北海道および千島や樺太、満州といった地域に関係する資料やアイヌ関係の資料を集めて所蔵しています。このような特色ある資料は、やはり利用が多いです。夏休みには道外の研究者から来訪の問い合わせがありますね。
ーー資料は新しく追加されたり、ほかの図書館から寄贈されたりすることはあるのですか。
茶屋:随時購入し、寄贈されることもありますので、コレクションは追加されていきますね。
国連寄託図書館としての役割
-ー北大附属図書館は、国連寄託図書館に指定されているとのことです。その役割はどのようなものなのでしょうか。
細井:北大の国連寄託図書館としての歴史は、1962年、まだ電子ジャーナルが存在しなかった時代に経済学部が紙媒体の国連の資料を購入したところから始まりました。その後資料を附属図書館に移管した際に、国連寄託図書館という役割を本館が持つようになったという経緯があるようです。
資料が紙ベースだった頃は、寄託図書館でなければ国連のドキュメントにアクセスできませんでした。道内では北大図書館しかなかったのです。しかし、国連文書は2000年代から電子出版で公開されるようになり、資料を入手する上での条件は寄託図書館以外の図書館と変わらなくなりました。そもそも、図書館に行かなくてもインターネット環境さえあれば、ほとんどの資料にアクセスできます。したがって今は資料を持っているだけでは差異が出ないので、国連の広報の一翼を担うイベントを調査支援担当のほうで企画開催しています。
-ーどういったイベントですか?
細井:例えば、国連がSDGsに力を入れていることから、図書館本館では今年はSDGs関連のイベントを行っています。
杉山:SDGsとは、Sustainable Development Goalsの略で、国連が定める持続可能な開発の17の目標を達成できるように世界中で取り組んでいこうというものです。
ーー所蔵されている国連の資料にはどんなものがありますか?
細井:現在所蔵されている資料には、「ドキュメント」と呼ばれる国連文書や議会資料と「パブリケーション」と呼ばれる出版物があります。一部書庫の本もありますが、主には南棟4階に配架しています。
書庫の本はどう管理されているのか
ーー書庫には貴重な文書や出版年がずいぶん古い書籍や資料があります。中にはかなり古くなって傷んでくるものもあります。このような本や資料の管理はどのように行われているのですか。
茶屋:資料保存や修復は難しいテーマです。まず、書庫の温度や湿度をコントロールして環境を整えたり、日にさらさないようにしたりすることでなるべく本の劣化を防ぎます。例えば、マイクロ資料が保存されている書庫の5階は、空調を入れて設定温度を低くしています。
紙を貼って補強するなど直接修復する考え方もありますが、手を加えることが後々その本にとっていいのかどうか、見極めや判断は難しいです。貴重な資料であればあるほど手をかけないという判断もあります。
ーー北大には本館と北図書館以外にも学部別の図書室がありますが、本のやりとりなどの交流はあるのですか。
茶屋:それほど頻度は高くないですが、あります。例えば資料とスペースの効率的な利活用を図ることを目的として、複数の図書室で重複して所蔵している雑誌を、ある図書室が「責任館」となって集約・保存するしくみを「シェアードプリント」といいます。蔵書が増えて置き場所に困るという大きな問題に対して、1つの図書室が責任を持って保存しておくことで、ほかの図書室の重複分は使わないと判断すれば除去できる、という考え方です。
図書館の利用について学ぶ「書庫ガイダンス」
ーー学部生は書庫ガイダンスを受けなければ書庫に入ることができません。そういった制限をかけている理由は何ですか?
細井:守っていただきたいルールがあるからです。例えば、書庫には返納台がありません。ということは、戻すときに分類を間違われてしまうと、二度とその本にはたどり着けないのです。ルールをきちんとお伝えする場を設けて、それを理解してくださった方には書庫をたくさん使ってほしいと私たちは考えています。
蔵書検索だけでなく、やはり実際に書庫に入って本の並びを見るほうが得られるものはたくさんあると思います。特に文系の学生さんには書庫ガイダンスを受けて書庫に入ってもらい、検索で探し当てた本をピンポイントで出納するだけではわからない資料を見つけてほしいと思っています。ただそのためにはきちんとルールを守っていただく必要があるということですね。
ーー書庫は卒業生や地域の方にも開放されているのですか。
茶屋:西書庫2階を除く書庫については、道内他大学の研究者の方は利用証により入庫できますが、卒業生は入庫できず貸し出しのみになります。一般市民の方は書庫には入庫できず、貸し出しもしていないです。依頼があれば私たち職員が書庫から出して閲覧いただくことはできます。
(一部電動書架となっている書庫には、様々な分野の本がずらりと並んでいます。)
これからの附属図書館を担う図書館員さん
今年4月から着任された奥田さんと杉山さんに、図書館で働き始めたきっかけや今後図書館で取り組んでいきたい活動についてお話をうかがいました。
奥田:私は高校時代は理系の生徒で、すでに図書館員を目指していたので、理系で図書館学を学べる大学を選びました。大学では図書館学と情報学の両方を学ぶうちにデータベースに興味を持つようになりました。
図書館にある大量の本を管理する上でデータベースの技術が求められます。私は研究者さんが好きなので、これからは研究者の支援もできたらと思っています。必要とされる論文や研究資料が入手できるよう、システムを検討するのも図書館員の仕事です。
杉山:図書館はいろいろな学部の方が来られる場所なので、多様な研究分野の学生さんや教員の方が集まって何か新しいことができるような場所になっていくのではないかと思っています。いま図書館がアクティブラーニングの推進を担っています。オープンエリアにいろいろな分野の方が集まる企画をつくっていけたらいいなと考えています。
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国連寄託図書館としての役割が時代とともに変遷していくように、図書館が担う役割は変化し、新たな活動を取り入れ続けています。
今回のインタビューを通して、新たな図書館の利用のしかたを学びました。また、職員さんのサポートのもとで学生がいかに図書館を利用しやすい立場にあるかということがわかりました。図書館の書庫はまさに知の宝庫です。みなさんもぜひ足を踏み入れてみてください。
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この記事は、上川伶さん(2017年度CoSTEP受講生)が、CoSTEPの「図書館取材実習」(2017年度)を通じて制作した作品です。
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おわりに
CoSTEPの受講生が執筆したインタビュー記事はいかがでしたでしょうか。北海道大学附属図書館のさまざまな仕事やサービスを知ることができたのではないでしょうか。最後になりますが、インタビューに応じていただいた図書館員の方々、そしてこのインタビューをコーディネートしていただいた、附属図書館の広報担当の皆様にこの場をかりて深く感謝の意を表します。
参考記事
チェックイン #109 運命の出会いをつくりだす、北図書館:
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チェックイン #103 北大に建つ2つの「館」~図書館と博物館の共通点とは~:
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チェックイン #101 工学部図書室と情報技術・ネットワークの発達~これからの図書館に求められるもの~:
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チェックイン #87 北海道大学理学部図書室を訪ねて:
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チェックイン #86 医学を支える医学部図書館員たちの想い:
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チェックイン #84 北海道大学附属北図書館の西棟オープン:
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