バトンは、函館キャンパスの工藤秀明さん(水産科学研究院 准教授)から、札幌キャンパスに戻り、上野洋路さん(水産科学研究院/環境科学院 准教授)にわたりました。
水産学部(函館)と、環境科学院(札幌)両方に研究室があります。すっきりと片付いている研究室で目を引いたのは鮮やかな “赤”。この赤いジャケットは、上野さん愛用の “船乗り必須アイテム” です。水産学部の授業で、夏に1ヵ月半、秋に10日間ほど船に乗ることが多いです。船上は寒いので、このジャケットで防寒対策です。ライフジャケットの代わりにもなるので、一石二鳥だそうです。一方、学生たちは薄手の雨合羽を着て悪天候の日は寒さに震えていることもあるのだとか。「ちょっと高いですけど、このジャケット、おすすめですよ」。爽やかな笑顔に、つい財布の紐も緩みそうです。
細くて華奢に見える上野さんですが、実はアウトドア派。横浜出身ながら、大学時代は登山サークルに所属し、北海道の大雪山やトムラウシ登山の経験もあります。「北海道には憧れがあった」と7年前に北大に着任してからは、研究の合間をぬって、ニセコや藻岩山など、奥様と日帰り登山を楽しむこともあるそうです。
部屋の中を見回すと、登山グッズはないものの、小物がいろいろあります。まず目に付いたのは、なにやら不思議な色の動物の置物。これはNYのメトロポリタン美術館で出会ったのをきっかけに集めはじめた“カバ”。不思議な色とデザインに惹かれ、ただいまカバコレクション進行中です。
もうひとつは、水産学部ならではのアイテム。実習船、おしょろ丸の100周年を記念したマグカップ。限定品に思わずテンションがあがり、2個買ってしまったのだとか。
もともと気候変動に興味があり、大学院進学の際、どの分野に進もうか迷っていました。先輩の「まだ解明されていないことが多い、“海”から研究を進めたら面白いんじゃないか」というアドバイスをきっかけに、海の研究を始めたそうです。
上野さんの研究は「渦(うず)」。渦というと、鳴門海峡のような渦をイメージしてしまいますが、上野さんの研究範囲は、衛星写真を見ないとわからないような、直径数百キロの幅をもつ、スケールの大きな「渦」です。
海の表面(表層)には、植物プランクトンが生息しています。栄養と太陽の光で増えるのですが、プランクトンのえさは、海の深いところにあります。それを「渦」がかき回すことで、下から上へと昇ってきます。えさが増えると、プランクトンの数も増えていきます。
渦は地球全体どこにでもありますが、日本近海では、黒潮と親潮が流れているところに強い渦があるそうです。このエリアの渦は、昔から有名で、研究も進んでいます。しかし上野さんは「まだわかっていない海域の渦」の形成メカニズムや、気候変動への影響について強い興味を抱いています。
特に「北太平洋の日本とアメリカやカナダの間の渦の研究をしたい。渦が沿岸でできて外洋に広がったものなのか知りたい」と語ります。
今後の夢をたずねると、「地球の海、すべてを調べたい。限られたエリアの研究で、ピンポイントの論文を書くよりも、全体を対象にした論文の方が面白いからね」。
研究対象が全地球という、とてつもなくひろい(洋)みち(路)を歩んでいる上野さんですが、身近な楽しみは、毎週末東京に帰り、息子に会うこと。週ごとに成長する姿に驚いたり、感動したりするそうです。
取材時にいた研究室の学生たち。 左から:大額さん(修士1年)、石山さん(博士課程2年)、武市さん(学部4年)、奈良さん(学部4年) 時々昼食を一緒にとったり、趣味の話で盛り上がることもあるそうです。
次のバトンは、お隣の研究室、岸道郎(水産科学研究院 特任教授)さんに渡ります。