久下裕司さんからのバトンは、京都大学の後輩で薬学博士の南 雅文さんへと渡りました。
南さんの専門は、薬がどのように効いているかを研究する薬理学です。京都大学では、モルヒネやアスピリンといった、「痛み」を軽減する薬の研究をしていましたが、北大に来てからは、「痛み」とともに人が抱く「不安」や「嫌悪感」といった不快な気持ちはどこで生まれるのだろう、と疑問をもち研究をしているそうです。医学部と連携した研究を進め、不快な感情を抱くメカニズムがだんだん分かってきたので、来春完成予定の新しい研究棟では、さらに一歩進んだ、「気分の波はどうして起こるのかを研究したい」と語ってくれました。
「実験室見てみます?」案内された実験室には、顕微鏡に繋がったモニターと何やら計測機器がずらっと並んでいます。手際良く作業をしていたのは、薬学部3年生の兼子朋之(かねこともゆき)さん。「ラットの脳をスライスして電極を差し、神経細胞1つ1つの運動信号を計測しているんです。」
スライス作業に2時間、計測に6時間、データ整理に1時間かかります。おかげで昨年10月に研究室に配属されてからは、毎日が実験漬けだそうです。それでも「記録をとるのは大変ですけど、やりがいのある仕事です。」将来の夢を尋ねると、「製薬会社に就職して研究を生かせたら」と即答してくれました。
廊下に出ると、再び南さん、「動物舎はご存知ですか?」
ちょうどラットを使った実験を始めるから、という言葉に思わず「見たいです!」と答えた取材陣。いざ、薬学部1階奥にある動物舎へ。黄色い「関係者以外立入禁止」というマークが貼られているドアの前で、専用の白衣、スリッパ、マスク、帽子を着用して、ようやく実験室に入りました。厳重に管理されている様子がうかがえます。
ラットが置かれる場所は、幅10センチ、長さ50センチほどの通路で、その両脇には高さ30センチの壁があります。通路の端では、壁がいったん途切れて壁のない十字路の通路があり、またその先は壁つきの通路があります。壁で囲まれた暗闇の中で、どのような動きをするのか10分間カメラで追跡します。ラットの動いた軌跡はモニターに表示されます。ラットは、不安が強いと十字路で鼻先だけ出して警戒する様子を示したり、不安を乗り越えて出てきたラットは体全体が出ていたりします。その様子が赤色や水色の軌跡で表示されます。
(左上)動物舎の入口。(右上)壁で囲われた通路。nn(左下)ラットの動いた軌跡が表示されたモニター。(右下)「ネズミ返し設置」。一見「フライ返し」のような響きですが、ラット飼育の実験室には欠かせないアイテム。ドアを開けたところに床上50センチほどの高さの板が置いてあり、ネズミが逃げないよう配慮しています。
大学院生、学部生合わせて24人を指導している南さん。
新年度からは、大学院薬学研究院長・薬学部長としての役割が加わり、来年(2014年)春には、新しく研究棟ができ、研究室の引っ越しも行うそうです。お忙しいなか、愛妻弁当パワーで、フットワークも軽く研究や指導をする姿が目に浮かびます。
次のバトンは、お隣の研究室、南保 明日香さん(薬学研究院講師)に渡ります。