
始まりは中生代の海のモンスター
展示室に入ると最初に迎えてくれるのは、魚竜ウタツサウルスと首長竜プリオサウルスの化石です。
どちらも恐竜ではなく海にすむ爬虫類ですが、恐竜と同じ中生代を生き、白亜紀末には恐竜とともに絶滅しました。展示されているウタツサウルスは、1982年に北大の大学院生によって宮城県石巻市で発見された標本で、その後の研究により魚竜進化を考える上で重要な資料となりました1)。一方、プリオサウルス類は羽幌町で発見された化石を北大の研究者が詳しく調査したものです2)。
「北大の恐竜たち」というタイトルからは少し意外なスタートですが、北大が各地で発見や研究に携わってきた古生物学の歩みを感じられる展開です。


日本初の命名恐竜・ニッポノサウルス
続いて紹介されるのが、ニッポノサウルスです。
1936年、北海道帝国大学(現在の北海道大学)の長尾巧博士によって、日本人が初めて命名した恐竜として知られています3)。しかし、発見された標本が未成熟個体だった可能性などから、「本当に独立した種なのか」という議論が長く続いていました。
その後、2004年には北大の研究者らが標本を詳細に再検討し、成長段階や解剖学的特徴、系統的位置を明らかにしました4)。さらに、その後の研究では、下顎の骨や尺骨に成長段階だけでは説明できない固有の特徴が確認され、ニッポノサウルスが独立した有効な種であることが改めて示されました5)。命名から約80年を経て、その価値が再評価されてきた研究の歩みも、この展示の見どころの一つです。


時代は新生代へ
展示は中生代から新生代へと移ります。
ここで登場するのは、謎の海獣として知られるデスモスチルスです。北大総合博物館には、長尾巧博士らによって南樺太で発掘されたデスモスチルスの原標本が保管されており、企画展ではそのレプリカと復元画を見ることができます6)。

さらに、約1000万年前に生息していたセイウチ科の新種「トウベツアカマツセイウチ」も展示されています。1300万〜900万年前のセイウチ類の化石は世界的にも数が少なく、この化石はセイウチの進化を考えるうえで重要な発見となりました7)。

世界が注目した「サッポロクジラ」
企画展の中でも特に存在感を放っていたのが、2025年に新種として発表された「サッポロクジラ」の化石です。
発見のきっかけは、2008年に札幌市南区で散歩中の医師が河原に露出した化石を見つけたことでした。その後4年間にわたる発掘と、約10年に及ぶクリーニング作業が、市民ボランティアを含む多くの人たちの手で進められました。
そして2025年、この化石は新属新種「メガベリーナ・サッポロエンシス(Megabalaena sapporoensis)」として発表され、世界でも保存状態が極めて良いセミクジラ科化石として高く評価されています8)。市民と研究者が力を合わせ、17年にわたる調査・研究を経て実を結んだ成果としても印象的な展示でした。


小さな模型にも注目
展示資料とともに並ぶ復元模型も、ぜひ見てほしいポイントです。
どの生き物も立体的で親しみやすく、化石だけでは想像しにくい生きていた頃の姿を分かりやすく伝えてくれます。小さいながらも細部まで丁寧につくられており、見ているうちに自然と愛着が湧いてきます。

北大の古生物学150年をたどる企画展
「北大の恐竜たち」というタイトルですが、展示を見終える頃には、恐竜だけではなく、海の爬虫類や海獣、クジラまで含めた北大の古生物学研究の歩みを紹介する企画展であることが分かります。
なお、北大総合博物館がNHK札幌放送局との共同研究で制作した完全版カムイサウルス全身骨格は、企画展示室とは別の常設展示エリアで公開されています。企画展とあわせて見学すれば、創成期から現在へと受け継がれてきた北海道大学の古生物学研究の魅力を、より深く感じられるでしょう。この夏、ぜひ足を運んでみてください!

開催情報
会期:2026年7月3日(金)~ 11月1日(日)
時間:10:00~17:00 ※月曜休館(祝日の場合は翌日休館)
会場:北海道大学総合博物館1階 企画展示室
入場料:無料
北海道大学総合博物館:【北海道大学創基150周年記念令和8年度夏季企画展示「北大の恐竜たち」】
注・参考文献:
- Motani, R., Minoura, N., & Ando, T. (1998): “Ichthyosaurian relationships illuminated by new primitive skeletons from Japan. ” Nature, 393, 255–257.
- Sato, T., Nagai, K., Echizenya, H., Shimamura, T., Kawada, Y., et al. (2023): “Pliosaurid (Reptilia: Sauropterygia) remains from the Upper Cretaceous of Japan, and their biostratigraphic and paleogeographic significance. ” Cretaceous Research, 152, 105700.
- Nagao, T. (1936): “Nipponosaurus sachalinensis: A new genus and species of trachodont dinosaur from Japanese Saghalien.“ Journal of the Faculty of Science, Hokkaido Imperial University, Series IV, Geology and Mineralogy, 3(2), 185–220.
- Suzuki, D., Weishampel, D. B., & Minoura, N. (2004): “Nipponosaurus sachalinensis (Dinosauria; Ornithopoda): Anatomy and systematic position within ” Journal of Vertebrate Paleontology, 24(1), 145–164.
- Takasaki, R., Chiba, K., Fiorillo, A. R., Brink, K. S., Evans, D. C., & Kobayashi, Y. (2018): “Reanalysis of the phylogenetic status of Nipponosaurus sachalinensis (Ornithopoda: Dinosauria) from the Late Cretaceous of Southern Sakhalin.” Historical Biology, 30(5), 694–711.
- Nagao, T. (1937): “A skeleton of Desmostylus mirabilis Nagao from South Sakhalin. ”Journal of the Faculty of Science, Hokkaido Imperial University, Series IV, 4(2), 123–136.
- Tanaka, Y., Kohno, N., Boessenecker, R. W., & Hasegawa, Y. (2022): “A new walrus (Odobenidae) from the Upper Miocene Atsunai Group of Hokkaido, Japan, and the diversification of basal odobenids. ” Journal of Systematic Palaeontology, 20(1).
- Tanaka, Y., Boessenecker, R. W., Hasegawa, Y., Kohno, N., & Shimizu, D. (2025): “A new genus and species of right whale (Balaenidae) from the Late Miocene of Japan illuminates the early evolution of balaenids. ” Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences.