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#223 農業を救うのは、4億年前から植物の相棒!?その名は…菌根菌

「キンコンキン」

思わず口ずさみたくなるような、不思議な響きです。漢字で書くと「菌根菌」。なんだかすごそうな言葉ですが、「菌根菌(きんこんきん)」が実際に何をしている微生物なのか、知っている人はまだまだ少ないかもしれません。

菌根菌は植物と共生しながら生きています。実は、陸上植物の約8割が菌根菌と共生しているともいわれ、私たちが普段食べているトウモロコシや小麦、大豆など、多くの作物にも菌根菌が関わっています。土の中でひっそりと暮らす菌根菌ですが、私たちの食卓にもつながる、意外と身近な存在なのです。

ではその目に見えない小さな微生物と植物とが、土の中でどのような共生関係を築いているのでしょうか。

今回は、北海道大学大学院農学院で菌根菌を研究する江澤辰広さんに、菌根菌がどのような微生物なのか、そしてその魅力や研究の日々についてお話しを伺いました。

4億年前から植物と共に

菌根菌と植物の付き合いは、今から約4億年前までさかのぼります。当時の植物は、まだ海から陸へ進出したばかりで、今のように発達した根を持っておらず、土の中から光合成に必要な栄養分であるリンや窒素、水を集めることが苦手でした。そこで植物が手を組んだ相手が、菌根菌です。菌根菌は植物の根の中に入り込み、根よりもはるかに細く長い菌糸を土の中へ伸ばします。その菌糸が水分やリン、窒素などのミネラルを集めて植物へ届け、その見返りに植物は光合成でつくった脂質や糖を菌根菌へ渡します。つまり菌根菌と植物はお互いに栄養を交換するパートナーなのです。

植物は自分で根を伸ばして土の中から栄養を集めようとすると、根をつくるのに多くのエネルギーが必要です。一方、菌根菌と共生することにより、植物は菌根菌が伸ばす菌糸を利用して、植物自身が根をさらに伸ばすよりも少ないエネルギーで栄養を集めることができます。さらに、菌糸は植物の根よりもはるかに細いため、植物の根だけでは入り込めない土のすき間にも入り込み、効率よく栄養を獲得することができます。

つまり、植物にとっては少ないエネルギーで効率よくリンや窒素を獲得でき、菌根菌にとっては植物からエネルギー源を受け取ることができます。こうした互いの利点があるからこそ、菌根菌と植物との共生関係は約4億年もの間、続いてきたと考えられています。

農業の未来を支える菌根菌

では私たちの身近なところに目を向けてみましょう。菌根菌が活躍する場の一つが、私たちの食を支える農業です。菌根菌が農業で活躍できる理由の一つが、「肥料を効率よく使えるかもしれない」という点にあります。

先ほど述べたように、菌根菌は植物の根だけでは届かない範囲からもリンや窒素を集めることができます。この菌根菌の強みを生かすことで、植物は菌根菌と共生し、リンや窒素の肥料を多く投入しなくても、土の中から効率よく吸収して成長できる可能性があるのです。では、なぜ肥料を効率良く利用することが大切なのでしょうか。

例えば窒素肥料では、原料となるアンモニアが主に天然ガスなどを使って生産されています。その製造には高温・高圧の工程が必要で、多くのエネルギーを消費します。また、そのエネルギーを生み出す過程で温室効果ガスが排出されるため、窒素肥料の過剰な使用は、温室効果ガスの排出量増加につながることが分かっています。

一方、リンには窒素とは異なる問題があります。肥料の原料となるリン鉱石は有限な資源です。そのため限りあるリンをできるだけ無駄なく利用し、資源を長く使っていくことが求められています。

さらに窒素やリンの肥料を必要以上使用にすると、植物が吸収しきれなかった栄養分が土壌や水環境へ流出し、環境への負荷となることがあります。

この肥料の問題は日本も他人事ではありません。日本では多くの肥料原料を輸入に依存しており、世界情勢の影響で原料の価格が変動し、価格高騰につながることもあります。つまり、肥料はたくさん与えればよいというものではなく、必要な栄養をいかに効率よく植物へ届けるかが重要なのです。

そこで注目されているのが、植物がもともと持っている「共生」という仕組みです。菌根菌の力を借りて、植物自身だけでは集めにくいリンや窒素を効率よく利用できれば、限りある資源を有効に使いながら、肥料の投入量を抑えられる可能性があります。植物と菌根菌が長い時間をかけて築いてきた関係が、これからの農業を支えるヒントになるかもしれません。

菌根菌を研究するとは

「少ない肥料でも、収量を落とさずに作物を育てる。その条件を見つけたいんです。」

そう話す江澤先生は、日本だけでなくヨーロッパやアメリカなど世界各地の植物や土壌を調べています。それは同じ菌根菌でも、土壌や肥料の量によってはたらき方が変わるからです。

肥料が豊富な環境では、植物は根の近くにある栄養を簡単に獲得できるため、菌根菌と共生するメリットが小さくなります。一方、肥料が少ない環境では菌根菌が大きな力を発揮します。では、菌根菌の働きをどうやって調べるのでしょうか。

「実際に土の中で菌根菌がどのぐらい働いているのか、直接調べることはとても困難です。」

そこで手がかりとなるのが、植物と菌根菌の遺伝子発現です。根を掘り出し、植物と菌根菌由来の遺伝子情報を区別して、植物がどのぐらい養分を受け取って、どのぐらい菌根菌に栄養を与えているのか、また、どんな種類の菌根菌がどのぐらい働いてどのぐらい栄養を消費しているのかを詳しく解析することができます。目には見えない菌根菌を、遺伝子情報から読み解くことでその働きを間接的に明らかにできるのです。

実は個性派ぞろいな菌根菌

地球上に存在する菌根菌は、およそ230種程度と予測されています。そのうち農地で検出されるのは120〜150種ほどで、それぞれの菌根菌に「個性」があることも知られています。
植物からの少ない栄養であってもよく働き、たくさん植物へ栄養を運ぶ菌根菌もいれば、植物から脂質をもらうばかりであまり働かない菌根菌もいます。さらにたくさんの栄養を使うものの、ダメージを受けてもすぐに再生できる菌根菌もいるそうです。

「色々なタイプがいるから、環境が変わっても常に植物をサポートできるやつが出現するんです。」
江澤先生は笑いながらそう話します。

植物にとって、多様な菌根菌がいることは保険のようなもの。環境が変わっても、その土地に合った菌根菌が植物を支えてくれる可能性があります。

土の中に広がる、もう一つの世界

「植物からの養分輸送を研究している人は多いが、菌から植物への養分輸送をやっている人は少ない。植物ではゲノム情報が充実していて、遺伝子組み換えも簡単なので狙った遺伝子の特定を特定しやすいのに対し、菌根菌の遺伝子操作には特別な工夫が必要だから。」
研究の難しさを語りながらも、江澤先生は何度も「面白い」「楽しい」という言葉を口にします。その姿からは、土の中に広がる見えない世界への好奇心が伝わってきました。

菌根菌について調べていくと、思いがけないところにその可能性が広がっていることに気づかされます。植物の生育を支えるという菌根菌の働きは農業に留まらず、火山や砂丘、防波堤など、植物が育ちにくい環境でも注目されています。菌根菌の力を活かし、自然災害や人の活動によって変化した土地に植物を戻す、環境を再生する研究へもつながっているのです。

植物と菌が長い時間をかけて築いてきた共生関係はこれからの農業だけでなく、環境を再生するためのヒントにもなるのかもしれません。これはまさに植物の根のように、菌根菌の研究は目に見えない土の中から、さまざまな分野へ広がっています。土の中に目を向けることは小さな世界を知ることだけではなく、地球の未来を見ることなのかもしれません。

2026年10月18日(日)開催のサイエンス・カフェ札幌「土でつながる、未来へつなげるー微生物(キンコンキン)との共生から学ぶ、これからの農業ー」では、江澤辰広さんをゲストにお迎えし、菌根菌と植物が4億年にわたって築いてきた共生関係や、それが農業の未来とどのようにつながっているのかを分かりやすくお話しいただきます。

何気なく見ている植物の足元には、4億年前から続く見えない世界が広がっています。その世界を、一緒にのぞいてみませんか。

***

第149回 サイエンス・カフェ札幌

【タイトル】土でつながる、未来へつなげる――微生物(キンコンキン)との共生から学ぶ、これからの農業――
【日  時】2026年10月18日(日)14:00~15:30(開場:14:30)
【場  所】札幌市民交流プラザ2F(SCARTSモールC)
【ゲ  ス  ト】江澤 辰広(えざわ・たつひろ)さん/北海道大学大学院農学研究院 准教授
【聞  き  手】/北海道大学CoSTEP「対話の場の創造実践演習」受講生
【参  加】事前申し込み不要、参加無料
【定  員】40名程度(直接会場までお越しください)
【主  催】北海道大学 CoSTEP
【協  力】札幌文化芸術交流センター SCARTS(公益財団法人札幌市芸術文化財団)

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2026.10.05

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