少年時代を海とともにすごし、「魚の生態を勉強したかった」という今井さん。京都大学を目指し、海と関連のある農学部の水産学科に入学しました。しかし魚の生態研究はできないと知り、考えた末に、大学4年生のときには微生物学が専門の研究室に配属を希望しました。それは「生きているものを扱いたい」との思いが強かったからです。ちょうど配属を決める頃、「顕微鏡下ではじめてわかる生き物がいる」ことに衝撃を受けました。”ミドリムシ”を卒論のテーマに選んだことをきっかけに、プランクトン研究の道を歩み始めたのです。
長年、播磨灘や周防灘、四国沿岸などの瀬戸内海、八代海などの九州沿岸海域で赤潮の研究を行う中で、魚にとって有害なプランクトンの研究を主体としてきました。赤潮の種類によっては、養殖中のブリやタイなどが死んでしまいます。特にシャットネラは活性酸素を生産し、魚のエラを刺激します。エラを刺激された魚は、エラから粘液を大量に出すのです。結果、その粘液がエラを覆い、呼吸ができずに死に至ります。
今井さんは、どのようにしたら生態系を壊すことなく、有害プランクトンの発生を抑えられるのか、”自然にやさしい方法”はないものか、研究を続けています。今井さんが考える“自然にやさしい方法”とは、「微生物を使って、悪さをするプランクトンを抑えられないか」だと言います。例えば、北海道厚岸の“カキ”。4月~7月の調査で、厚岸湾で採れるカキの中に、有毒プランクトンを食べて毒化したものが見つかりました(毒化したものは厳しい規制により市場には出回りません)。一方、厚岸湖から採ったカキに、毒は発見されなかったのです。有毒プランクトンのシスト(タネ)も厚岸湖にはほとんど存在しません。鍵を握るのは、水草の“アマモ”です。有毒プランクトンを殺す微生物が、アマモに生息していたのです。かつて全国の漁場で、アマモ場はいたるところにありました。しかし開発や埋立てにより、たとえば瀬戸内海では1/4まで減ってしまったそうです。今井さんは、このアマモを増やして、海の中の体質改善を有害有毒プランクトンに対して抵抗力を持つ方向へ行おうとしています。
また研究室では、函館に近い七飯町の、大沼国立公園の湖沼で大量発生している“アオコ”(富栄養化が進んだ湖沼などに、発生する藍藻類のことで有害有毒種が存在する)を、同じように水草に付着する有用微生物を使って抑えられないか、という研究も進めています。2013年には、ヒシ植物に着いている微生物に、アオコの原因となるプランクトンを殺す能力があることを発見し、水質改善の実験を進めています。
水産庁研究所から京都大学を経て、5年前に函館に来た今井さん。「西日本と東日本では捕れる魚が違うし、どれもおいしい」。特にサケ類がお気に入りだとか。「北海道の本マスは良いね。これから夏に捕れるトキシラズも脂がのっていてとてもおいしい」とも。海少年だった今井さんは、実はウナギをさばくのも得意なのだとか。研究も、函館ライフも満喫中の今井さんでした。
次のバトンは、海の上の生物、海鳥を研究している綿貫 豊さん(水産科学研究院 教授)に渡ります。