韓国出身のナ・ハンナさんからのバトンは、フランス出身のピアニ・ローレットさんに渡りました。
「この装置の名前は、ピカチュウです」。えっ、ピ、ピカチュウ?! アニメのキャラクターをイメージしてしまいますが、正式には“Photochemistry in Interstellar Cloud for Astro-Chronicle in Hokkaido University(星の形成史を知るための星間雲光化学実験装置 in 北大)”の頭文字をとり、略してPICACHU(ピカチュウ)と呼んでいるそうです。
これは、宇宙で星をつくりだす元となる分子の雲(星間雲)を再現し、人工的に有機物を作る装置です。
星間雲に存在する水や一酸化炭素、アンモニア、メタノールなどのガスを氷点下260°Cまで冷やします。そこでできる氷に、紫外線や熱を与えると、複雑な有機物に変わっていきます。ピアニさんはこの装置を使って、香内晃さん(低温科学研究所教授)や橘省吾さん(理学研究院准教授)らのプロジェクトにかかわり、有機物のでき方や構造を探っています。
(技術補助員の遠藤由希子さん(左)装置の使い方などをサポートしてくれる心強い存在です)
ピカチュウ以外にもさまざまな機器を用い、太陽系で分子がどのように進化して、惑星や地球ができたのかを研究しているピアニさん。数学や科学といった理系分野は子供のころから得意なほうでしたが、宇宙に興味があったわけでもなく、母親と散歩をしながら、「今日は星がきれいね」と空を見上げて会話する程度だったとか。でも、ピアニさんの転機は、大学に入り、天文学の講義を受けたことでした。今まで知らなかった分野を目の当たりにして、強い興味をもったそうです。
そして2つ目の転機は、現在の研究室の教授、圦本尚義(ゆりもと・ひさよし)さんとの出会いでした。
博士号を取得した2012年、当時所属していたナンシー市(フランス)にある岩石学地球化学研究センター(CRPG)で初めて2次イオン質量分析装置を導入し、その祝賀式典に、すでに4台が稼動している北大から圦本さんが渡仏し、特別講演を行いました。圦本さんに会うのも直接話を聞くのもその時が初めてだったピアニさんですが、研究内容がまさに自分が進みたい分野であることに感動したそうです。早速上司に「ぜひ圦本先生の研究室に行きたい」と相談し、その熱意が圦本先生にも伝わり「ポスドク(博士研究員)としてならいらっしゃい」と快諾してくれたそうです。
フランスで生まれ育ち、大学で博士号を取得するまで、海外生活などまったく経験のなかったピアニさんでしたが、日本に来ることについては「少し不安はあったけれど、それよりも大好きな研究ができると思うとわくわくしました」。
2013年の12月に初来日。初日は「朝起きたら、パリではめったに降らない雪であたり一面真っ白になっていて、すごくびっくりしました」。でも大好きな研究に没頭できる日々に、既に寒さもあまり気にならない様子です。
ふと見ると、壁にはズラッとたくさんの付箋が貼ってありました。
中でも専門の「地球惑星」という漢字が一番堂々としているようにみえます。
「研究室で日本語を使う必要はないのですが、どんな意味なのか知りたくて」。北大の留学生向けに開講されている日本語の授業を受け、日々勉強しているそうです。
4月からは、講師になり、新たな役割も加わります。2年の任期付きですが、「ずっと研究を続けていきたい。太陽系の成り立ちを解明することで、宇宙全体の仕組みも解き明かせたら」と壮大な夢を語ってくれたピアニさん。ぜひこれからも北大で頑張ってほしいですね。
次のバトンは、加藤博文さん(アイヌ・先住民研究センター教授)に渡ります。お楽しみに。