現在、大人の20人に1人いるといわれているうつ病ですが、なんとなく中高年の病気というイメージを持っている人も少なくないと思います。しかし実際は若年層にも多く見られ、子どもであってもうつ病を発症することが最近調査によってわかってきました。そんな見逃されがちな子どものうつ病の研究をしている傳田健三さん(保健科学研究院・教授)に子どものうつ病についてお話を伺いました。
【山本綾乃・総合理系1年】
そもそもなぜ児童精神医学に興味を?
自分が悩み多き思春期を過ごしたので、まず自分のことが知りたいと思い、児童精神科医を目指しました。北大に来れば児童精神医学を学ぶことができると思い、北大の医学部を目指しました。
児童・青年期のうつ病患者の実態
小学生のうつ病患者は少ないですが、中学生になると次第に増えていき、大人とほぼ同じ割合に近づいていきます。
2003年に札幌市、千歳市、岩見沢市の小学1年生から中学3年生の約3300人を対象に抑うつ状態に関する調査を行いました。子どもの「うつ」に関する、このような大規模な調査は日本で初めてです。その結果、小学生7.8%、中学生22.8%が抑うつ傾向をもっていることが明らかになりました。このように、うつになるリスクはとても高く、うつ病はきっかけさえあれば、誰でもなりうる病気といえるでしょう。
子どものうつ病と大人のうつ病の違い
子どもの場合、ストレスと抑うつ傾向は大きな関連があります。これは逆によい対応を行えば改善しうるということでもあります。しかし大変なこともあります。現在日本では25種類以上の抗うつ薬が大人には使えますが、子どもに有効性が証明されている抗うつ薬はたったの2種類です。また、抗うつ薬だけでうつ病がすべて改善するわけではありません。
子どもは一日の半分を家庭で、もう半分を学校で過ごします。このことから、子どものストレスは、学校の問題(いじめなど)、もしくは家庭の問題(養育の方法など)が原因になっている可能性があります。よって環境をいろいろ調整することが、子どものうつ病を治療するうえで重要になってくるのです。
(傳田さんの近著)
治療を行う上で大変なこととよかったことは?
治療をするうえで大切なのは、その子の10年後20年後を予測することです。うつ病と診断された子どもが、発達障害もかかえていることがあります。またどこで介入するべきであるかという難しい問題もあります。昔、幼児期にうつ病や自閉症と診断された人が今や中年期・老年期にさしかかっています。うつ病や自閉症と診断された子どもが生涯にわたってどのように変化・発達していくかが最近になってわかってきました。それによってどのタイミングで介入すべきかが、ようやく見えてきたのです。
子どもを見ることで人間の感情や病態の変遷がわかり、人間が理解できるようになります。もちろん子どもの治療は、大人の治療と比較して、大変な場合が少なくありません。しかしひと山越えると、すごくよくなるのでとても達成感もあります。間違いなく、大人よりもよくなります。それは子どもには自然に発達・成長する力があるからです。長いスパンで人を見ることができる児童精神医学はとても”exciting”で”cool”な分野なのです。
うつ病による自殺を予防する方法は?
現在日本では10~30代の自殺率が増えてきています。この対策としては地方自治体や会社、学校などが協力することが大事です。まず、自分の症状を認識し、誰かに相談することが必要です。東日本大震災後、私たちは2012年に宮城県のいくつかの地域で抑うつ傾向やPTSD(心的外傷後ストレス障害)について調査をしましたが、調査の際に子どもたちの話を聞くことによって、かなりの数の子どもたちが快方へ向かったという事実があります。
最後に、今後の課題と抱負を
課題としては、日本には児童精神科医が少ないことが挙げられます。先進国の中で最も少ない状況です。新患の診察が半年、一年待ちなんていうこともあります。医者の介入時期が重要なうつ病の治療において、専門の医師不足というのは大きな課題です。近年では、そういった問題を解決するために児童精神科医養成のためのセミナーを開いたりもしています。
現在、多分野の協力によってうつ病について新たな解明がなされてきています。今まで症状しかわからなかったうつ病ですが、さまざまな領域において新しい知見が明らかになってきました。科学的な解明がなされることで実際の治療にそれをどのように反映させていくことができるか検討しています。科学的な知見を是非子どものうつ病の治療に活かしていきたいと思います。
傳田さん、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
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この記事は、山本綾乃さん(総合理系1年)が、一般教育演習「北海道大学の「今」を知る」の履修を通して制作した成果です。