現場を知ってこそ、より良い研究ができる
大西さんは大学院時代に、胃がんの原因であるピロリ菌の研究をしていましたが、患者と接する機会がなかったため、胃がんがどのように人を蝕んでいくのかわかりませんでした。「当時のことを後悔しています。だから今はできるだけ現場に足を運ぶことを心がけ、今月末からは、アフリカのザンビア共和国へ調査に向かいます。」
大西さんの研究対象は「炭疽菌」です。炭疽菌というと、数年前にアメリカで発生したテロ事件を連想し、恐ろしい菌というイメージがあります。致死率は高いのですが、どんな土にも含まれているので、珍しい菌ではありません。衛生状態のよい日本で炭疽菌によって死亡する人はいませんが、ザンビア共和国では毎年たくさんの象やカバが被害をうけています。死亡したカバの肉を食べた地元住民が命を落とすケースもあり、現地で調査を行うことになりました。期間は約半月。3歳の息子を神奈川の実家に預けてアフリカへ向かいます。
国内外への出張で多忙な大西さんを支えているのは家族だけではありません。北大に設置されている「女性研究者支援室」には、育児中の研究者のサポートする制度があり大西さんも利用しています。サポートスタッフとして登録されている小住英之さん(医学部5年生)が週に5日ほど大西さんのラボを訪れ、実験業務などを支援します。小住さんにとっても、学びの多い現場であることは確かです。
ラボの中で、面白い形のフラスコを見つけました(左)。通常のフラスコは1Lですが、特注で倍の2Lです。「バッフル」という羽根のようなくぼみをつけることで、酸素が回り、細胞の培養力がアップするそうです。呼び名は「かぼちゃ」。形が似ているからだとか。n疲れた時の息抜きはドラクエです。なんと掲示板のマグネットはスライムでした。
小学校の卒業文集に「将来は科学者になりたい」という夢を書き、実現させた大西さん。「感染症研究をライフワークにします」きっぱり言い切ったその口調に、意志の強さを感じました。
大西さんからのバトンは、後輩であり子育てでは先輩という、高瀬舞さん(触媒化学研究センター・助教)に渡ります。