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#109 ヤドカリのカップルは仲が悪い?~お見合い実験で謎の「ガツン行動」に迫る~

公園や海、映画館にショッピングモール…、このような場所では多くのヒトのカップルを見かけますね。そのうちの何組かはいずれ結ばれ、子を産むことになるかもしれません。子を産むことは自身の遺伝子を後世に残すために不可欠な行為です。雌雄が関わって子を成す生物にとって、恋人探しから、子育てに至るまでの繁殖に関する一連の行動(配偶行動)は重要な行動と言えるでしょう。私はそんな配偶行動について、海にいるヤドカリのカップルに着目して研究を行っています。

【木戸結菜・水産科学院修士1年】

(海とヤドカリのカップルと私)

面白い生き物、ヤドカリ

ヤドカリは、世界中の海に生息しており、エビやカニと同じ甲殻類十脚目に属しています。彼らはヤドカリ(宿借り)という名前の通り、殻になった巻貝を借り、それを背負って生活しています。ヤドカリはエビやカニと違ってお腹がとても柔らかいため、そのお腹を保護するために貝殻を利用しているのです。

潮の引いた磯では、多くのヤドカリを見つけることができます。彼らを観察していると、時々、大きなヤドカリが小さなヤドカリを掴んで、持ち歩いている場面に遭遇します。実はこれがヤドカリのカップルなんです!ヤドカリのオスは繁殖期になると、産卵間近のメスの貝殻を掴んだまま歩き回る「交尾前ガード行動」を行います。また、産卵間近のメスをめぐってオス同士がケンカをすることもあります(オス間闘争)。ヤドカリの繁殖期にはこのような面白い行動を観察することができるのです。

(私の研究対象種、ヨモギホンヤドカリのカップル)

ヤドカリのお見合いをセッティング!?

これまでのヤドカリの配偶行動に関する研究は「配偶者選択(オスはどんなメスを選ぶのか)」や「オス間闘争(どんなオスが強いのか)」などの特徴的な行動に着目したものがほとんどでした。しかし、ガードや交尾に至るまでには、出会った相手がどんな個体なのか調べて、相手とコミュニケーションをとる必要があるため、その過程に見られる行動も重要だと考えられます。そこで私は、卒業研究として、ヨモギホンヤドカリという種を研究対象として、オスとメスを繁殖期に一対一で出会わせる実験を行いました。つまり、ヤドカリのお見合いの観察です。

(ヤドカリをピンセットでつまんでお見合いの場へ… 30分間カメラで録画します)

メスは「ジタバタ」、オスは「ガツン」

私は、数か月かけて150例のお見合いを細かく、じっくりと観察しました。率直な感想は、思ったよりもヨモギホンヤドカリのオスとメスは仲が悪い…ということ。冒頭の写真でも見られるように、オスはピンセットで水面より上に吊り上げられてもメスをしっかりとつかんで離さない、なんてステキな彼氏、羨ましい仲良しカップルだと思っていたのに…。メスは、オスが近づいてくると避けるように逃げ、接触した後もハサミや歩脚を振ってジタバタ。一方、オスは自身の貝殻をメスの貝殻にガツンとぶつけるという謎の行動をなぜか頻繁に行っていたのです!

さらなるお見合いで謎の行動を解明する!

私はこのオスの謎の行動を仮に「ガツン行動」と名付けました。と言うのも、卒業論文執筆のためにヨモギホンヤドカリやその近縁種について過去の文献を丹念に調べてみても、この行動について記載したものは見つからなかったのです。私が生まれる前から続くヤドカリ研究の歴史があっても、まだ知られていない行動があるのか!と心底びっくりしました。まさに謎の行動…。是非ともこの行動について調べたい!と思い、修士研究のテーマに据えることにしたのです。

ガツン行動はメスのジタバタに対抗した行動ではないかと考えていますが、卒業研究では繁殖期の雌雄の出会いしか観察していませんでした。そこで修士研究では、まずこの行動が繁殖期特有の行動なのか、雌雄の出会いにのみ観察されるのか、という疑問を解決するため、繁殖期ではない時期にもお見合い実験を行い、さらにオス対オスの出会い実験も行います。また、この行動がどのような意味を持った行動なのかを解明するために、この行動が起こるタイミングや、この行動を受けたメスの行動の変化などを詳しく調べていきます。

(ヤドカリを求め、我々は今日も海を往く… ちなみに対岸に見えるのは函館山 )

侮るなかれ、行動観察

ここまで私の研究について語ってきましたが、私が大層な実験をしていないことに気付いている方もおられるかもしれません。そうなんです、私の実験は海でとってきたヤドカリをお見合いさせて動画を撮るだけ。実験で使う道具と言えばヤドカリ採集用のピンセットとバケツ、性判別と体長測定に必要な顕微鏡、そして録画用のカメラくらいです。大学の研究と言えば白衣を着て、高価な機材と最先端の技術を使って~、というイメージがあるのではないでしょうか?実はそんなことはなく、小学生の自由研究にありそうな実験でも、論理的な思考と適切な手法をもってすれば立派な研究になるのです!

私が専門としているのは生物と環境の相互作用を研究する「生態学」、中でも環境に対する個体の行動に着目する「行動生態学」です。幼い頃から野山や川、海に出て生き物を見ることが好きだった私は、“生きた生物の行動”に着目するこの学問に惹かれ、現在所属している研究室に入りました。生態学の研究は基礎生物的な研究と応用生物学的な研究に大別できます。私の研究は基礎研究ですから私たちの生活に直結するわけではありません。けれども、生き物の謎の解明は科学の発展につながり、いずれ私たちの生活に、思いもよらない形で還元されるかもしれません。何より、生き物を観察してその謎に迫るというのはとても興味深く、非常に面白いことなのです!無数にある生き物の謎の一つ、ヨモギホンヤドカリのオスの「ガツン行動」を解明する日を楽しみに、私は日々の研究活動に取り組んでいます。

※ ※ ※ ※ ※ 

この記事は、木戸結菜さん(水産科学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

木戸さんの所属研究室はこちら

水産科学研究科 海洋生物資源科学専攻 海洋生物学講座

動物生態学研究室(和田哲教授)

研究室HP

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2018.07.30

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