北海道大学の静内研究牧場では、牛を使ってどんな研究をしているのでしょうか。牧場長の秦寛(はた ひろし)さんに話をうかがいます。
牛を飼って、どんな研究をしているのですか
ここで飼っている牛は、肉牛だけです、乳牛は札幌キャンパスで飼っているので。肉牛も、黒毛和種でなく、短角和種という種類です。
十分に広い土地に牛を放牧し、その土地で生産される作物飼料(粗飼料)を主に使って飼育するという、環境にもやさしい畜産への関心が高まっています。ただ、課題が少なからずあります。生産性が低いとか、肉の市場評価が高くないなどです。
そこで、粗飼料で牛を飼って、体重の増え方がどうか、肉の品質がどうか、乾草やサイレージなどいろいろな種類の粗飼料をどのように与えればよいかなど、何年もかけてデータを取って、可能性を探っています。肉を分析するにあたっては、と畜する必要がありますが、それは近くの食肉加工場に依頼しています。
分析に必要なサンプルを取った残りの肉は、市場に売りに出します。この牧場で飼育する動物は、研究対象であると同時に、大学に収入をもたらす商品でもあるのです。牧場体験と組み合わせた新しい販売方法も、いま構想中です。
(牛舎から牧草地へと移動する牛たち)
放牧を主体とする畜産に、転換できそうですか
いま日本にいる牛を、全部、放牧で育てることは無理です。それだけの土地がないし、輸入飼料に頼らなくてもよいほど飼料を生産することもできないからです。なので、畜舎の中で飼い、輸入飼料を与えるという、今の普通の形と、広い土地への放牧と粗飼料主体で牛肉を生産するという形が、共存した方式を作りだしていく必要があります。
放牧を取り入れた飼育では、どうしても肉が高くなります。高くても買ってもらえるよう、肉の品質を良くしていくことも大事だけど、それだけでは不十分。環境に対する意味なども含めて値段を理解してもらう必要があると思います。以前は、“美味しさ”を追求するグルメな消費者が多かったけれど、最近は、“環境に優しい”などを重視した「倫理的な消費」という動きが出てきてますよね。そういう動きと結びついていかないと。
農家としても、経営的に成り立つ必要があるので、消費者のそういうニーズを掘り起こすことも、並行してやっていく必要があると思います。
民間企業のノウハウを入れることは?
農学部はもともと、産業に係わる研究をするのが目的だったから、産学連携は昔からやってきました。ただ、企業にとって「すぐに役立つ研究」をするのとは、ちょっと違いますけど。
たしかに民間企業にもいろいろノウハウがあるでしょう。ただ、ノウハウを入れるという以前に、企業の考え方が農業になじむのかどうか、そこはよく考える必要があると思います。たとえば、我々は“サステナブル”(持続可能)ということを大事にするけど、別の観点からするとそれは、“停滞”であったり、“百年一日のごとく”と同じ意味だったりしますから。
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