田中真樹さん(医学研究科 教授/写真中央)を、4人の高校2年生が訪問。
國松淳さん(医学研究科 助教/写真左から三番目)と松嶋藻乃さん(医学研究科 特任助教/写真左から四番目)に、実験室も見せていただきました。
「心」と「脳のはたらき」との関係は、どのようなものなのでしょうか
景色を見る、紙をめくる、鉛筆を持つ。普段の行動や心のうごきは、なぜ、どのようにして起こると思いますか。このような私たちの行動については、「心理学」や「認知科学」というような文系の分野で、昔から研究されてきています。しかし、それらが、どのような脳の働きで行われているのかについては、分かっていないことが多いのです。私たちは心理学で明らかになっていることを参考に、「神経生理学」という生物学から脳のはたらきを明らかにしようとしています。
恋をすると胸が痛くなりますが、「心」は脳とは別に心臓にあるのですか
「心」は脳にあるでしょうね。「胸が痛い」と感じているのは脳なのです。たとえば、心臓移植をしても「私」が別の人格になることはありませんが、脳の一部に障害を受けると別人のようになるケースがあることが知られています。このことからも、「心」と呼ばれるものが脳にあることが分かります。脳は、視覚に関係する場所や記憶に関係する場所など、場所によって役割が異なります。これらの場所は複雑なネットワークで結ばれ、ネットワークでのやり取りを通じて「心」を生み出していると考えています。
「心」を生み出すための、司令塔の役割をもつ場所はあるのでしょうか。
それは、「意思」がどこから生まれるのか、という問題に似ていますね。いまは、脳内に意思を生み出す場所があるのではなく、脳の中にある神経細胞のネットワークの中での「ゆらぎ」が、だんだん増幅され、それが意思を生み出すのではないかと考えられています。私たちのチームでも、脳の一部を刺激することで、実験動物の意思をコントロールすることができるようになってきています。たとえば、おでこのあたりにある「前頭葉」の一部を電気刺激することで、「特定の場所の物を選択しようとする意思」を生み出すことができるようになってきているのです。
意思がコントロールできると、「忘れてしまったこと」を思い出すことができるようになりますか。
今はできませんが、将来的にはできるようになるでしょう。「記憶」というのは、頭の横の方にある「側頭葉」に蓄えられています。でも、「思いだそう」という意思を働かせる場所は、前頭葉であることが分かってきています。そこで、前頭葉を刺激して、思い出すための「意思」をコントロールし、側頭葉から記憶を引き出せるようになるかもしれません。もちろん、思い出すべき「情報」が側頭葉に蓄えられていることが前提ですけれども。
田中さんが、「脳」を研究しようと思ったきっかけは
高校生の時は、小説を読むのが好きな普通の理系男子でした。利根川進さんがノーベル生理学・医学賞を取得したこともあり、分子生物学に興味を持って北大の医学部に入学しました。そのころ、「自分がなぜそのような行動をとったのか」「なぜそう思ったのか」という「自分が何者であるか」ということにも興味を持っていました。心理学などでは、自分の行動などを「心」から解き明かしていきますが、医学部で学んでいくうちに、「心」について「生物学」や「生理学」から説明したいと思うようになったのです。たとえば、あなたが「消しゴムを持とう」と思ったら、なぜそう思ったかも脳のはたらきから説明できるはずなのです。10年ぐらいで分かるものもあるでしょうが、全てを説明できるようになるには、まだ時間がかると思います。でも、将来的にはできるようになるでしょうし、医療にも役立てることができると考えているのです。
どのように実験するのですか
脳に電極を刺し、神経細胞一つ一つの電気活動を測定します。脳は痛みを感じないので、このような実験ができるのです。弱い電圧の変化を「音」に変換して聞くことで、神経細胞の活動を簡単にモニターすることができます。私たちは「脳の音」と表現することもあるんですよ。
実験にはたくさんの機器を組み合わせて行います。メンテナンスをしたり、新しく実験装置を作り出したりすることも必要です。大学でそういった訓練を受けるわけではないので最初は不慣れですが、必要に迫られるので自然とできるようになります。実験室の一角には工作室もあり、工具箱や測定機器なども置かれていて、工学部のような光景と感じるかもしれません。
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この記事は、立命館慶祥高校のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業にCoSTEPが協力して実施した授業「現代科学 II」の成果の一部です。
【取材:西堀 諒、小出 歩、宮本真生、川村健太郎の皆さん(立命館慶祥高校2年生)+CoSTEP】