現代数学を研究している石川剛郎さん(理学研究院教授)を、立命館慶祥高校の2年生4名が訪問しました。
どんな研究をしているのですか。
数学の中でも「トポロジー(位相幾何学)」と呼ばれる比較的新しい分野を専門としています。位相とはつながり具合をみて、図形を捉えようとする概念です。幾何学は紀元前のユークリッドの時代から発展している学問ですが、トポロジーは19世紀末から20世紀初めに確立されました。みなさんもよくご存知の「メビウスの輪」も一つの例です。表裏どちらか一方の面をたどっていくと、いつのまにかスタートした地点の裏側に戻り、さらに進むと最初のスタート地点に戻ります。なめらかな局面ですが、裏表のない図形の一つといえますね。つまりトポロジーとは、ものごとのつながり具合を柔軟に変形し、抽象化して表現する概念であり、私は「柔らかい幾何学」と表現しています。
具体的に何を調べているのですか?
一口に図形といっても、球面とかドーナツにように、なめらかな図形もあれば、クロワッサンのように両端がとがった図形もあります。クロワッサンの端のように、とがった部分を「特異点」とよび、私はその特異点のある図形を、トポロジーの立場から研究しています。
宇宙の話によくでてくる特異点、ブラックホールにもあるのですか?
難しい質問ですね。その質問に答える前に、数学という学問についてお話しましょう。数学とは、自然現象や物理(現実)の世界を解明するために使われる学問ですが、実在するものの普遍性を研究しているわけではありません。物理的な現象を“抽象化”させた世界と向き合う学問です。
質問に戻ります。『ホーキング、宇宙を語る』の著作で有名な、スティーヴン・ホーキング先生をご存知でしょう。ホーキング先生は一度、ある仮定に基づいて数学的に証明すると、ブラックホールには特異点があるはずだ、と証明しました。しかし、後になって別の仮説を立て証明した結果、ブラックホールに特異点はないと論文にまとめています。つまり、どのような仮説を立てるかで答えが変わってしまうのです。ブラックホールを実際に観察することは不可能で、その実態を絶対的に明らかにすることは困難です。だから数学とは、論理的ですが、ある仮説のもと手探りで考える世界なのです。
なぜ、数学の道に進んだのですか?
数学の世界では最高の権威とされるフィールズ賞を受賞した広中平祐先生に憧れて、京都大学に進学したことがきっかけかもしれません。数学は高校の時から得意科目でしたが、大学1年の夏休みに取り組んでいた問題集の中に、1問だけ解けない証明問題がありました。その問題を1週間かけて証明したときの感激は今でも忘れることができません。計算に行き詰まってスランプに陥ることもありますが、とにかく数学が好きなんだと思います。
でも、実は小説家にもなりたいと思ったほど、文系科目も好きでした。私は国語が好きだったから、数学が得意だったかもしれないと考えています。文系も理系も表裏一体です。論理的な読解力がなければ証明はできません。自分が解った答えを、人にも理解してもらうためには国語力が必要です。理系を選んだ高校生のみなさんにこそ、文系科目の勉強に励んでほしいと考えています。数学は、物理学はもちろん生物学でも経済学でも使います。論理的に、そして抽象的に物事を捉えるためのトレーニングにもなります。ぜひ、考えるための道具として生涯を通じて数学的思考を大切にしてほしいと思います。
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この記事は、立命館慶祥高校のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業にCoSTEPが協力して実施した授業「現代科学論2」の成果の一部です。
【取材:髙岡沙耶、藤田沙織、吉田叶倫、長田晋一(立命館慶祥高校2年生)+CoSTEP】