おしょろ丸には、船長をトップに、甲板部、機関部、無線部、海洋調査部、⾷事を担当する司厨部などの、総勢30人ほどの乗組員がいます。そのうち船長や航海士、機関長などのほとんどは、北海道大学の「教員」でもあり、練習船を舞台に教育や研究に携わっています。
どんな思いで、どのような仕事をしているのでしょうか。次席二等航海士の阿部拓三さん(水産学部練習船おしょろ丸 助教)に話をうかがいました。
大学院では、臼尻の水産実験所をフィールドに研究をしていたとか
はい。北大の水産学部を卒業したあと1年間、航海士養成課程で学んで、航海士の免許を取ったのですが、そのあと大学院に進みました。そして、臼尻の海をフィールドにして、カジカの仲間がどんなふうに繁殖するのか生態学的な研究を行ない、博士(水産科学)の学位をとりました。海の中に潜って魚を観察し、データを取る、という毎日でした。
学位を取ったあとは、そのときの研究を活かして、宮城県にある教育研究施設、南三陸町自然環境活用センターで仕事をするようになりました。南三陸の海をフィールドにして研究したり、子供たちに環境教育、科学教育の体験的なプログラムを開発して実践するという仕事です。
おしょろ丸で仕事をするようになったのは、どうしてですか
南三陸でやっていたような「海の自然教育」を、北海道でやりたいと思ったのです。北海道には、山についての自然教育はいっぱいあるんですが、海についてはほとんどないんです。海のことを学び人々に伝えていくうえでも、実際に様々な海に行き、最先端の調査・研究の現場に触れることができる練習船は、とても恵まれた環境です。
それと、自分の研究を深めるには、海の深いところにいる魚についても知らないと、と思ったのです。カジカの仲間は浅いところにいる種が多く研究されていますが、その進化について考えるには、海の深いところの魚についても調べる必要があるのです。その点、このおしょろ丸は深いところでトロール調査を行うので、自分の研究にも具合がいいのです。
(操舵室に並ぶ機器類)
というわけで、航海士としての仕事をさせてもらいながら、教育にも携わり、自分の研究もしています。おしょろ丸で仕事をするようになって、もう4年になります。
いつ研究をするのですか
年間170日ぐらいは、船に乗って航海しています。港に停泊しているときも船の仕事がありますので、そうした仕事がないときに自分の研究をしています。航海中に船上で授業をすることはありますが、陸上の教室で授業をすることはありません。でも研究の時間を確保するのは、なかなかたいへんです。
練習船おしょろ丸による活動には、どんな特徴があるのでしょうか
「航海士を養成するための練習船」というのではなく、もっと間口を開いて、練習船を持っていない大学の学生たちにも利用してもらい、海に関する研究調査に機会を提供しています。このように、海洋に関する活動に携わる人材を養成するのに幅広く利用してもらうという、その間口の「広さ」に特徴があると思います。
若い人たちへのメッセージをいただけますか
海については、海の中もそうですし、陸からずっと離れた海も、見る機会はほとんどないですよね。ですから、まずはフィールドに出て、実際の海を体験してください。
海の生きものについては、学校で教えてもらう機会がほとんどありません。でも日本は、食べる魚もそうだし、物資の輸送という面でも、海との関わりが深いのです。身近な海にもっと関心を持ち、その魅力や不思議をたくさん発見してほしいです。