北海道大学附属図書館が、職員の日々の業務や考えたことなどを紹介する公式noteを開始しました。そこで記事を執筆した、奥田由佳さん、前田隼さん、嶺野智康さん(以上、北海道大学附属図書館 図書館員)にお話をうかがいました。noteに込められた北大の図書館員の想いをご紹介します。
附属図書館が公式noteを始めた理由を教えてください。
奥田:多くの人は図書館を「本を貸すところ」あるいは「本が好きな文系の人が働いているところ」と思っているのではないでしょうか。しかし図書館は実は本を貸す以外の仕事があり、また、私のように理系出身者も多いのです。そんな図書館の仕事や活動について、大学内外のたくさんの人に知ってもらいたいと思い、2021年の2月からこれまで附属図書館が行なってきたSNS広報に新たに公式noteを加えました。まずはシーズン1として5本の記事を公開します。
私も図書館は本を借りる場所だと思っていました。附属図書館の方は日々どんな仕事をしているのですか?
嶺野:例えば「本を貸す」ためには、図書館に本を揃える必要がありますよね。先生方のシラバスを読んだ学生さんから本のリクエストが寄せられます。図書館でも大学に必要そうな本を選んでます。該当する本の在庫を書店に確認して発注を行います。本が届いたら、書誌情報を登録し、バーコードで1冊1冊の貸出・返却を管理できるようにして、分類し配架します。貸出の背後にはそれを可能にするための多岐にわたる仕事があります。
奥田:附属図書館は、北海道大学に所属している研究者の方々がまとめた研究論文や学会発表資料を保存し、インターネットで検索・閲覧できるようにするための機関リポジトリ、HUSCAPを運用しています。そのために、サーバ管理や、データベースを使うためのプログラミングなど、情報処理のスキルが求められることもあります。
プログラミングもしているのですか。私たち利用者がなかなか気づかないけれども、便利に北大の図書館を使うために、図書館員さんが見えないところで多くの仕事をしているのですね。次に、みなさんがnoteでどんな記事を書いたのか教えてください。
前田:私は「ジャーナル問題」を取り上げました。研究者は、Nature などの著名な学術ジャーナルに自身の論文を掲載するために、出版社に掲載料を支払っています。そして、雑誌に掲載された論文を読むために読者は出版社に購読料を払います。つまり出版社は、研究者と読者の両方からお金をとっているのです。これがジャーナル問題です。研究者の業績評価にも関係する重要な問題である一方で、図書館員以外の方にはあまり知られていないかもしれません。この問題を図書館の中だけではなく外の人にも広く伝え関心を高めて、学術情報の流通についての考え方を若い世代から変えていきたいと思っています。
奥田:記事を書くにあたって、今まで図書館に興味が無かった人にも届くように,読者の反応が多いnote記事の書き方などを調べるところから始めました。何か読者の役に立つことを、物語のような軽い文体を使って、合わせ技で書いているnoteの記事の評価が高いことがわかりました。そこで理系の私が図書館で働く経験をエッセイのように書いたところ、SNSで「学ぶことが多かった」との感想をいただきました。自分が書いた文章が読者に届くことの嬉しさを感じました。
嶺野:私は大学で図書館の広報について学んでいたときに、PR(パブリック・リレーションズ)という言葉の本来の意味を知りました。「人びとと良い関係を作る」ことがPRです。読者に図書館への親しみを持ってもらうため、仕事の失敗談をメインに、アイザック・アシモフのSF、数学者の名前や四十肩のぼやきなど、なんだろうと興味を惹かれそうな内容を盛り込んだ記事を書いてみました。記事が直接役に立たなくても、じわじわ読んでもらって、どこか面白いと思ってくれたら嬉しいですし、それが図書館のPRに繋がっていくように感じています。
みなさん、工夫をこらして記事を書いているように思いました。
前田:実はこの公式noteの公開には、昨年6月に立ち上げた「ポストコロナの大学図書館をぐいぐい実現するプロジェクト」、通称「ぐいぐいプロジェクト」が関わっています。北大の図書館員約100名が、コロナの状況下で今直面している北大の図書館の問題だけではなく、コロナ収束後の図書館全体の未来像を考えました。「どこでも返却&ブックポスト」では外出がなかなかできない状態で本の返却をどうするかを、「電子ブックの利用動態調査」では、電子書籍の普及についてみんなで知恵を出し合いました。そこで図書館員の私たちが、考えたり思ったりしたことを中で共有するだけではなく、広く公開していこうと考えたのです。
noteの公開には、コロナ後の大学図書館全体のあるべき姿を構想する北大の図書館員の志があるのですね。
附属図書館の公式noteは、シーズン1への読者の感想を参考にして、シーズン2を進めていく計画だそうです。興味を持った方はこの記事にリンクをつけましたので、是非、記事に目を通して感想を寄せてみてください。