「塩を加えずに焼き上げたロールパン」が9月より道内のローソンにて販売されています。
このロールパンは北海道大学病院栄養管理部とローソン、日糧製パンが共同開発したものです。
米に次いで日本人の主食摂取量ナンバー2であるパン。北大病院の入院患者さんに提供する病院食でもパンは人気ですが、塩分制限をしている患者さんには提供できないことも。患者さんと日々コミュニケーションを取る中で、パンを食べたい患者さんに提供できるようなものが作れないかという思いから生まれた「塩を加えずに焼き上げたロールパン」。このロールパンを食べることで普段何気なく摂取している塩分をいつの間にか減らす効果が期待できます。
開発の経緯や目指す未来について、商品の開発に携わった北大病院栄養管理部の熊谷聡美さんと池田陽子さんにお話を伺いました。
開発の経緯について教えてください。
熊谷さん:病院食は基本的にはご飯食なのですが、病棟を回る中で「食欲あまりないけれどパンなら食べれそう」という方や、「家ではよくパンを食べていたからパンを食べたいな。」という声を日々いただいていました。
しかし、パンには塩分が含まれており、ご飯だと塩分0gのところをパンに変えると約1g増えてしまいます。塩分制限のある患者さんは1日の食塩摂取量を6g以内に抑えないといけないため、1日3食と考えると1食で2gになる計算です。
1食2gのところ、パンで半分近く取られてしまうとなると他のおかずの味付けが難しくなり、メニューの幅も狭くなってしまいます。
池田さん:塩分を抑えたパンがあれば、パンを食べたい患者さんの願いを叶えつつもメニューの幅も狭めずに提供できるのに、と考えていました。
塩分制限のない健康な人にとっても減塩することは大切です。日本食はおかずに塩分が多く含まれていることが多く、一日の塩分摂取量が多くなりがちですが、パンを減塩パンに変えることで塩分を減らすことができます。
そこで病院食に留まらず一般家庭の食卓にも減塩パンが届くように、ローソンと日糧製パンと一緒に今回の「塩を加えずに焼き上げたロールパン」を開発しました。
このロールパンの特徴について教えてください。
熊谷さん:一般的なロールパンに比べて約80%の食塩相当量をカットしています。食塩を加えないと味や膨らみ方などが変わってくるので、その部分を補完するための工夫を何度も重ねました。また、ローソンで販売するということで賞味期限を長く保つために材料を調整し、試作を行ってきました。
このロールパンは病院食としても提供していて、患者さんから味の感想をダイレクトに聞くことができるので、次の改良に活かしたいです。
また、アレンジレシピを一緒に提案することで、いろんな食べ方ができることを知っていただきたいですし、健康な人がこのロールパンを食べることでいつの間にか減塩できて健康寿命が伸びるといいですよね。
広報にも力を入れているのですね。今日のご飯何作ろう、と考えるときに参考にしたいです。このロールパンを通してどのようなことを期待していますか。
池田さん:この商品を手に取った人が、自分が毎日どれくらい塩分を摂取しているのか考えてもらえると嬉しいですし、いつの間にか減塩に取り組むきっかけになるといいですね。
熊谷さん:北大病院に限らず、他の病院でもこのパンを使ってもらえたらいいなと思っています。
普段の生活の中で食べるご飯の塩分量をトータルで考えることはなかなかなかったので、このロールパンをきっかけに他のおかずの塩分や栄養バランスなども意識できそうです。今後はどのような活動をしていきたいと考えていますか。
池田さん:今回はロールパンとして開発しましたが、患者さんからは食パンを食べたいという声もたくさんいただいているので、次は食パンに挑戦したいです。
熊谷さん:嚥下障害という、食べものを飲み込みにくい障害を持っている患者さんにはパンの提供はできませんが、食事を楽しむ喜びを感じてもらえるよう、そのような方にも食べられるパンについても開発に取り組んでいるところです。
常に数百名いる入院患者さんの病院食を考えている栄養管理部の皆さん。3000人以上が働く北大病院内で「管理栄養士は会えたらラッキーなくらい少ないんです」と熊谷さんは話します。こうした取り組みを通して問題意識やメッセージを伺うことができました。皆さんもローソンでパン売り場をチェックして「いつの間にか減塩」生活を始めてみませんか。
【森沙耶・北海道大学CoSTEP】