北二十二条と具体的に言われ、なんとなく親しみがわく。「ひょっとしてそこの大学ですか?」
「うん。北大の獣医学部。僕の能力、動物の治療の時にうまく使うやり方があるかもって思って」田辺さんは楽しげに言った。「札幌の高校生は北大のこと『そこの大学』って言うんだね」
「そういえば言いますね。うちの高校だけかもしれないけど」
「地元の人って感じがするなぁ」田辺さんはなぜか感心した様子である。
似鳥鶏「嘘をつく。そして決して離さない」『青藍病治療マニュアル』収録(KADOKAWA2015, p307)
「そこの大学」とは北海道大学、そう呼んでいるのは札幌の高校生、高橋修也です。彼は人の胸のあたりに蛍のような光を見る特殊能力をもっています。この光はどのような人に灯るのか? それはなぜなのか? 幼馴染の雨沢鈴乃への思いも交錯しながら展開する青春小説「嘘をつく。そして決して話さない」を今回の「物語の中の北大」ではご紹介します。
このお話は、青藍病とも呼ばれる特殊能力に翻弄される若者たちを描いた4編からなる『青藍病治療マニュアル』のなかの第4編にあたります。修也と話している「田辺さん」こと田辺拓実は、第1編の主人公でもあり、彼は動物に襲われる能力を持っています。拓実は第1編の時点では本州の田舎に住んでいましたが、本作では来春から北大獣医学部に入るということで札幌にいます。
さて、気になるのは「地元の人」である修也は札幌のどこの高校生なのか、という点です。ヒントは作中で登場する、高校の近くにある地下鉄駅と直結したバスターミナルです。札幌のバスターミナルがある地下鉄駅には、麻布・北24条・さっぽろ・宮の沢・琴似・西28丁目・円山公園・白石・大谷地・環状通東の10ヵ所があげられます。
修也と鈴乃はこのターミナルからバスにのって北にある自宅へ帰ります。また、自宅近くの場所として「拓北第二小学校」が登場します。この名前の小学校は実在しませんが、北区あいの里に拓北小学校は実在します。これらから、件の駅は、札幌の北に位置する麻生駅か北24条駅にしぼることができるでしょう。
そしてやはり、北大を「そこ」と近くを指して呼んでいることと、「北22条」に親近感を持っていることから、駅は北24条駅だと思われます。そうなると、二人が通う高校は北海道札幌北高校ということになります。北高の場所は北25条西11丁目。北大農場のすぐ北側にあるお隣さんで、北大の高校別入学者数一位の座をずっと守っている高校でもあります。
ちなみに作者の似鳥鶏さんは千葉県の出身ですが、北大の法科大学院を修了しています。修也と拓実のやりとりは、地元民と道外からやってきた人のやりとりとして妙なリアリティを感じます。もしかして似鳥さんの実体験でしょうか?