昨年、西アフリカで大流行し、8,000人を超える死者につながったエボラ出血熱。この恐怖の感染症を引き起こすエボラウイルスの感染メカニズムを20年に渡って研究してきたのが髙田礼人さん(人獣共通感染症リサーチセンター 国際疫学部門 教授)です。エボラ出血熱はニュースや新聞でたびたび取り上げられ、社会的関心が非常に高まっていますが、その関心の中身はメカニズムよりも人間社会への影響に偏りがちです。そこで、髙田さんら研究チームは、事実を知って正しく怖がることを伝えたいと、市民向け公開講座を開くことにしました。(※公開講座の概要はページ末尾に掲載しています。)
講座を企画した伊藤公人さん(人獣共通感染症リサーチセンター バイオインフォマティクス部門 教授)も交えて、お二人にお話を聞きしました。
公開講座の企画の意図を教えてください。
伊藤さん:毎年、人獣共通感染症リサーチセンター(以下センター)は、研究教育活動のほかに社会貢献の一環としてアウトリーチ(国民との対話)にも力を入れてきました。毎年定期的に開催してきた講座ではありますが、今年は特に社会的関心が高まっている時期に実施しますので、学外・専門外のみなさんへの情報提供の場として重要な機会と位置づけています。
髙田さん:私たち専門家が、社会に向けて情報発信することは、当然の責務だと考えています。企画に対する特別な思いはありません。そもそも研究を前進させていくためには、税金と国民の理解が不可欠ですから、説明責任を果たす意味でアウトリーチ活動は私たちの仕事の一部と捉えています。
伊藤さん:西アフリカでエボラウイルスによる感染症が発生し、人から人へと感染を繰り返し、重大な事態に発展しています。1976年ザイールでの最初の発生以来、エボラ出血熱はアフリカ中央部の国々で突発的に発生・流行を繰り返してきました。しかし、エボラウイルスが、どの動物から人に感染しているかが分かっていなかったため、有効な対策をとることができず、何度も発生流行を繰り返してきたと考えられています。今回の公開講座では、同僚で、エボラウイルス研究の第一人者である高田さんに、エボラ出血熱という感染症の基本的メカニズムを解説してもらいながら、この病気の発生を未然に防ぐための取り組みについて紹介してもらう予定です。
アウトリーチ活動の一環として、センター独自のユニークな取り組みもあるそうですね。
伊藤さん:ユニークといえば、ウイルスをモチーフにした携帯ストラップを製作しました。インフルエンザウイルスやエボラウイルスのデザインは髙田さんが担当したんですよ。このストラップは大変好評で、追加製造もしたほどです。以前にセンターで実施したアンケートに協力してくださった方へのお礼として用意しました。
髙田さん:仲間たちとコーヒーブレイク中に「ああでもない、こうでもない」と議論しながらプロトタイプづくりからスタートさせました。実は凝り性かもしれません。着色された紙粘土を使って、数種類の見本を完成させました。その見本はコレクションにして大切にしています。確かに、ある意味レアなストラップだと思います。
お互いの印象について教えてもらえますか。
伊藤さん:うーん、そういう質問には困りますね(笑)。髙田さんとはほぼ歳が一緒で、北大の同窓生という共通点もあります。私は工学部出身で,髙田さんは獣医学部出身。学生時代を同じキャンパスで過ごしていたにもかかわらず、出会ったのは職場であるこのセンターでした。以来ミッションを共にしてきた同志のような存在です。髙田さんを一言で表現すると「仕事が早い人!」かな…。
髙田さん:研究の周辺には多種多様な業務があります。伊藤さんには、その一つとしてセンターの対外的広報にも力を入れてもらっています。非常に頼りになる存在です。また、センターの研究者たちは、海外出張も多く、一同で顔を合わせる機会が少ないかもしれません。そういう理由もあって、オープンスペースを取り囲むように研究室を配置しました。
私たちは、グローバルイシューの解決のために、個人ではなくチームで活動しています。だからこそ(個別の居室はちょっと狭いのですが)オープンスペースに空間的ゆとりをもたせ、そこを中心に、いつでもディスカッションや打ち合わせを始められる体勢になっています。
さらに各居室のドアはいつもオープン。だれが何をしているか、その空気感が互いに伝わってくるようにしています。また、オープンスペースは伊藤さんはじめ、ラボのメンバーたちと気軽にコーヒーブレイクを楽しめる場でもあります。そういうささやかな時間も大切にしたいと思いを共有しているのではないかと思います。あと、私の場合は休憩時間に喫煙ルームを訪れることも日課かな…。そろそろ休憩室に移動していいですか?
髙田さん、伊藤さん、ありがとうございました。さて、肝心の髙田さんが登壇する公開講座のご案内です。貴重な機会ですから、みなさまお誘い合わせのうえ、ご参加ください。
「人獣共通感染症の研究 -エボラ出血熱-」
日 時:2015年2月11日(水・祝)13:30〜14:30 (開場13:00)
場 所:北海道大学 学術交流会館 小講堂
講 演:高田礼人さん(人獣共通感染症リサーチセンター国際疫学部門教授)
定 員:200名
参 加:当日会場にお越しください。
連絡先:伊藤公人さん(人獣共通感染症リサーチセンター バイオインフォマティクス部門 教授)
web@czc.hokudai.ac.jp
主 催:北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター
「感染症研究の最前線-エボラ・結核を例に-」
日 時:2015年2月24日(火)17:30~20:00 (開場17:00)
場 所:北海道大学 学術交流会館 講堂
講 演:高田礼人さん(人獣共通感染症リサーチセンター国際疫学部門教授)
鈴木定彦さん(人獣共通感染症リサーチセンターバイオリソース部門教授)
矢久保考介さん(工学研究院応用物理学部門教授)
参 加:申し込みフォームより。2月20日(金)締めきり
主 催:北海道大学創成研究機構
趣 旨:2014年、日本においても、デング熱やエボラ出血熱の感染者や感染疑いのある患者があらわれ、感染症に対する意識が高まりました。目に見えない感染症は、いまや危機管理の中核に位置づけられるべき優先課題となってきています。そんな中、本シンポジウムでは、最前線でエボラウイルスや結核菌の生態の解明に取り組んでいる研究者の研究を紹介し、また、異分野の研究者から物理的な視点で感染経路などについて解説していただきます。それぞれの立場から、さまざまなウイルスや細菌が増殖・感染する仕組み、治療法の開発状況、基礎科学からみた感染経路、世界での様々な対応策などについてお話しいただき、北海道大学における感染症に対する学際研究のあり方を会場全体で考えてみたいと思います。