ポプラ並木の東側に佇むアグリフードセンター。花木園の木立に隠され、ここにこんな施設があると知らない人も多いようです。北大農場(正式には、北方生物圏フィールド科学センター生物生産研究農場)の一施設として、「生産から食品加工までの一貫教育」の一翼を担っています。
(アグリフードセンターの外観。後ろに見えるのは工学部の建物です)
玄関を入ると集乳缶を利用した傘立てがあり、「乳」の雰囲気がいっぱいです。
案内してくださるのは、若松純一さん(フィールド科学センター 准教授)です。
この施設を利用して、どんな授業が行なわれているのですか
すべての学部の、1年生を対象にした「身近な食べ物つくり演習」があります。自分たちでと鳥した鶏からスモークドチキンや、ウインナーソーセージを製造し、生きものである家畜と食品とのつながりを理解してもらいます。またリンゴやブルーベリーから、ジュースやジャムを作るというコースもあります。これらを通して、農産物や畜産物の加工には、保存性を高めたり、おいしさを増したりする役割があることを理解してもらいます。
農学部の畜産科学科の学生に対しては「畜産物利用学実習」があります。食肉からハムやソーセージを、生乳からチーズやバターを作り、加工技術や品質評価の仕方について学んでもらいます。ほかに農学部のほうで、皮革製品の製造について学ぶ実習もあります。
ちょうど今、畜産科学科の2年生がチーズ製造の実習をやっていますので、乳製品加工実習室のほうへ行きましょう。
これは何をやっているのですか
実習でゴーダチーズを作っているのですが、熟成させている過程で、表面にカビが生えてきます。それを拭き取っているのです。カビがあると味が苦くなるので、25人の学生たちが2人1組になって、毎日1回、拭き取ります。
きょうはこれから、チーズの表面を、蜜蝋を主体としたワックスでコーティングする作業をします。こうすることで、チーズが外気と直接に触れることがなくなり、カビにくくなります。これ以上、乾燥させないという効果もあります。こうしておいてさらに熟成させ、うま味を出すのです。
チーズ1個の重さは5キロほどでしょうか。110度ほどに温めてある蜜蝋の中に沈めて、コーティングします。誤ってポチャンと落とすと、蝋が飛び散って白衣がワックスだらけになり、火傷もしかねません。
女子学生が多いですね
農学部の畜産科学科は約4割が女子学生で、農学部の中で一番多いです。
畜産科学は、家畜を生産する(飼育する)分野と、家畜を利用する分野とに大きく分かれます。家畜そのものが好きであれば前者、食品などに興味があれば後者に進むのが一般的です。大学院に進学しないで就職するのは3~4割です。食品関係のほか、畜産試験場や飼料会社など家畜生産に関係するところに就職します。ときには金融など、畜産と関係ない道に進む者もいますけど。畜産農家の後継ぎ、というタイプの人はほとんどいませんね。
農学部はもともと道外の学生が多いのですが、近ごろはアニメ「銀の匙」の影響でしょうか、いっそう人気が出てきているようです。
実習で使う牛乳は、どこからくるのですか
農場で乳牛を40頭ほど飼っていて、そのうち搾乳牛16頭前後から牛乳を毎日450リットルほど出荷しています。実習のときだけその出荷を止め、実習用に回します。
この集乳缶で運んできて、缶ごと殺菌し、チーズやバターの原料とします。玄関で傘立てに使っているのは、昔のブリキ製のものです。錆びてくるので、今はステンレス製のものに替えています。
実習では自動化された器械は使わず、昔ながらの手作業でやるようにしています。そのほうが、食品加工のプロセスをよく理解できるからです。
こんどは、ジャム製造室とジュース製造室に行きましょう。技術専門職員の中野英樹さんが案内します。
わあっ、いろんな器械がありますね
全学教育の「身近な食べ物つくり演習」では、余市果樹園のリンゴや札幌圃場のブルーベリーでジャムを作ります。
これ(上の写真)は、リンゴのスライサーです。皮むき機で剥いて、割って、芯抜きしてから、食べるときのような形に切って投入すると、5ミリぐらいの厚さにスライスされて下から出てきます。
こちら(上の写真)は、ジュースを作るときにリンゴを砕く、ハンマークラッシャーです。高速回転する軸に小さな金属製ハンマーがいっぱい付いていて、リンゴを皮が付いたまま入れると、おろしリンゴの程度まで砕いてくれます。
そのあと、油圧式の搾什器(上の写真)で絞ります。おもにリンゴのジュースを作りますが、ブドウやハスカップのジュースを作ったこともあります。