2017年2月、アメリカ科学振興協会(AAAS)の年次大会がボストン市内で開催されました。AAASは、科学と社会、科学者間の協力、科学教育のサポート等を目的として創設された世界最大の学術団体です。科学雑誌「サイエンス」の出版元、と言ったほうが馴染みがあるでしょうか。
いいね!Hokudaiでは、科学に関わる人々がこの先の科学のあり方を語り合うAAAS年次大会を取材してきました。第1回目となる今回は、AAAS全体の様子をお届けします。次回は北海道大学が出展したブースもご紹介しますので、どうぞお楽しみに。
(レンガ造りのアパートが立ち並ぶボストンの街並。左奥に見える近代的なビルがAAAS会場)
AAAS(The American Association for the Advancement of Science;アメリカ科学振興協会)は、19世紀中頃にアメリカの科学者らによって創設された学術団体です。「トリプルエーエス」と読みます。単に科学研究を振興するだけでなく、科学教育や科学政策など、議論の対象は多岐に及びます。毎年2月にアメリカ国内で開催される年次大会では、科学に携わる世界中の様々なステークホルダーが一堂に会し、意見交換をします。政府の要職にある人や、誰もがよく知る大企業のCEOといったいわゆる偉い人も多く参加しますが、誰もが自由に対等に発言できるリベラルな空気がありました。身近なところで例えるならば、ちょうど先週に東京で開催された日本生態学会あたりが、雰囲気が近いでしょうか(規模はその10倍以上ですが)。
(無人チェックインシステムで発券された参加証。ニックネームの入力を求められたので従ったところ、
本名より優先してニックネームが印字されて驚く。徹底してニックネーム文化らしい)
冷静に、誠実に、根気強く
AAASでは毎年テーマを一つ掲げており、今年は「科学政策による社会貢献(Serving society through science policy)」でした。テーマは1年前に決定するものですから、このテーマ設定はトランプ新政権を意識してのことではありません。ですが、実に絶妙なタイミングでした。多くのセッションで、トランプ氏の客観的とはいえない科学政策を批判したり揶揄する発言がみられました。印象的だったのは、その批判がとても冷静だったことです。色々な意味で科学者らしい、と言えるかもしれません。「科学を信じない人にいかに科学を伝えるか」という主旨のセッションがいくつかありましたが、どの会場でも「冷静に、誠実に研究を続ける一方で、根気強く対話を諦めないことが最善で唯一の道」という結論で合意をみました。
(介助犬が街を歩いていても好奇の目で見る者はいない。飲食店ももちろんOK)
相互理解にはやはり「対話」「継続」
この「市民に科学を伝える方法の模索」は、日本においても永遠のテーマですが、アメリカという国ではもう一段階複雑な事情をはらんでいます。宗教問題です。学校で進化論を教えない州が存在することは周知の事実ですが、現実にそれが科学振興や相互理解の障壁となっているという事実に、共有し得ない文化の壁を改めて感じました。三つ子の魂百まで、と言うように、初等教育がその後の世界観形成に強く影響するものです。「相互理解までの道のりはかなり根気が必要だが、対話を続けることが大事」として、セッションは締めくくられました。当然ですが、科学技術コミュニケーション先進国のアメリカであっても、一発逆転の秘策があるわけではないのです。
(銃規制を訴える看板。治安の良い街だけに、改めて“アメリカ“を意識させられる)
「対話」のかたちも色々あるのかもしれない
「根気強い対話」の一環なのでしょうか、会場の外で、科学的根拠に基づく政策決定を求める抗議デモが行なわれていたようです。デモを行なっていたのはAAASに参加中の普通の科学者達でした。「対話」ときくと、同じテーブルについて冷静に話し合うこと、をイメージしますが、その同じテーブルに相手を引きずり出すための(デモのような)一見過激な行為も、実は「あなたと対話したいです」という意思表示であり対話の第一歩なのかもしれない、と、普段は冷静な彼らを見て思いました。(もちろん、一定のルールを守る必要はあるでしょう。)
(AAAS会長 バーバラ・シャール氏による基調講演。500人以上の聴衆が集まった)
自らの科学研究を魅力的に語れ
AAAS現会長のバーバラ・シャール氏は基調講演で、今年のテーマである科学技術政策の在り方についてこう述べました。
「政策に科学的根拠を必要とする場面はたくさんある。たとえば福島の原発事故のような緊急時には科学者の専門性が必須。科学がもたらす客観的事実がどれほど政策決定に貢献してきたか、社会に理解してもらう必要がある。」
日本と同じくアメリカにおいても、科学に対する社会の理解が十分に得られていない状況は変わらないようですが、その状況から脱する方策として「自分の研究を魅力的に、そして根気強く周囲に語れ。」と、セルフプロモーションの重要性を主張する登壇者が、会全体を通して多かったのが印象的でした。
(セッションの一幕。プレゼンスライドの構成やデザインが工夫されている)
次回は、北海道大学の展示ブースを中心に紹介します。どうぞお楽しみに。