農場でススキを栽培して研究をすすめる山田敏彦さん(フィールド科学センター 教授/農場長)に、ススキの可能性や魅力について話をうかがいます。
こんなに草丈の高いススキがあるんですね
「ジャイアントミスカンサス」といいます。イネ科ススキ属の学名が「ミスカンサス」であることから付けられた通称です。水分や気温などの条件がよいと7メートルにも達します。ここ札幌でも、穂が出て成長が止まる9月の終わりころには、4メートルを超える草丈になりますね。風で倒れても、また戻ります。
この農場では、アジアの各地で採取した、600系統のいろいろなススキを栽培しています。そして同じものを、韓国や中国、アメリカでも栽培し、環境の違いがススキの生育などにどう影響するか、国際共同研究をしています。
ススキはもともと、東アジア、東南アジアが原産地です。ジャイアントミスカンサスも、1935年にデンマークの植物コレクターが、横浜から観賞用植物としてヨーロッパに持ち出したのです。それがやがて、欧米でバイオマス資源として見直されるようになりました。今ではヨーロッパで火力発電用の燃料として使われていますし、アメリカでも、ジャイアントミスカンサスを含むイネ科の草をエネルギー源として使う研究が進められています。
私も、農水省やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のほか、アメリカのエネルギー省や石油大手BP社(ブリティッシュ・ペトロリアム)からの資金援助も受けて、研究を進めています。
ススキが、バイオマス資源として有望なのですか?
「バイオマスを資源として利用する」といったときにイメージするのは、「サトウキビやトウモロコシなどを原料にしたバイオエタノールを利用することで、石油や石炭など化石資源の利用を減らし、二酸化炭素の排出も減らす」というものでしょう。でも、サトウキビやトウモロコシは、人間の食料や家畜のエサでもありますから、競合が起きてしまいます。
ススキでは、そうした問題が起きません。かつては、屋根葺きの材料、水田の堆肥、家畜のエサに使われていましたが、今や、茅葺きの家はなくなり、堆肥は化学肥料に変わり、家畜のエサは輸入トウモロコシに変わってしまいました。
しかもススキ属の植物は、トウモロコシなどと光合成の仕組みが違うため、温度が低くても光合成の能力が落ちません。この性質を使い、人間がちょっと手を加えて「作物として育てる」ことをすれば、札幌のような気温の低いところでも、大きく育てることができるはずです。具体的には、温室で種をまいて苗を大きくし、6月か7月に移植して冬を越させるのです。いったん冬を越せば、低温でも光合成能力が高いので、大きく成長します。
手入れがたいへんなのでは?
そんなことはありません。ススキは、最初こそ、種をまいたり株分けをしたりする必要がありますが、いったん根づけば、秋に刈り取っても来年また地下茎から芽が出てきます。複数年にわたって生存する、多年生の植物なのです。
こうした多年生の植物には、肥料をあまり与える必要がありません。図のように、春から夏にかけ地下の栄養養分を吸収してすくすく成長していきますが、秋になると成長が止まり、吸収した栄養養分を地下部に送り返します。これが、次の春に芽を出すときの栄養養分になるのです。
また、トウモロコシのように実を利用するのでなく、茎や葉を利用しますので、夏の気温が低い地域や、土がやせた場所でも、十分に栽培することができます。
今後の課題は?
ジャイアントミスカンサスは、同じススキ属のなかの、ススキとオギという2つの種が自然界で交配してできた雑種です。それぞれの「いいとこ取り」をして、面積あたりの収量が多いのですが、種子ができません。増やすには株分けをしなければなりません。今後は、組織培養で大量に増やすなど、新たな方法の開発が望まれます。
一方、株分けではコストがかかるので、種子で増やすことのできるススキを改良してバイオマス生産に利用することも考えています。最近、高バイオマスのススキ品種を開発したところです。
それぞれの地域に適したススキを開発していくことも大切です。各地のススキを収集して調べたところ、多様な遺伝資源があることがわかりました。人工交配で新たな雑種を作り出すなど、エネルギー作物として品質の高いススキを開発していきたいと思っています。
九州の阿蘇地域では、平安時代からススキが栽培され、今でも、野焼きしたり1年に1回刈り取ったりして、ススキの群生が維持されています。私たちの研究グループは最近、そこの土壌を過去にさかのぼって調べ、ススキの根に含まれていた炭素が土壌にたくさん吸着されていることを明らかにしました。ススキは大気中の二酸化炭素を土壌中に固定し蓄積する力が大きいのです。ススキはこの点でも、魅力ある植物だと思います。