研究林長の揚妻さんに、研究者としての暮らしぶりについてうかがいます。
(高台から平井集落を望む。青い屋根の建物が研究林本館です。)
揚妻さんは、いつから和歌山研究林に?
2008年の12月に、半分、志願する形で、苫小牧研究林から異動してきました。
苫小牧では、シカや、タヌキ、アライグマ、コウモリなどについて研究していました。和歌山に来てからも、シカについて調べています。森林の中に、ネットを張ってシカが入れないようにした区画を作り、植物の育ち方がネットの内外でどう違うか調べる、というのもその一つです。
一般には、シカが増えてくると、シカに食べられて地面の緑が減ると言われているのですが、そう単純ではないのです。緑が減るのは、実は森林が発達していく過程で起きる、自然のサイクルという面もあるのです。こうした研究は、シカが増えて被害が問題になってからではなく、シカがほとんどいない状態の時から始めるべきです。この研究林では、平方キロメートルあたり3~4頭と、たいへん少ないので、好都合です。
(薄い赤色の防鹿ネットが、岩場と樹林の境目あたりに張ってあります。)
動物や山が好きで、この分野に進んだのですか
動物が好きというより、興味深いと思うので、やっています。山が好きというわけでもないです。研究対象が山にいるから、しょうがなしに山に入りますけど。山登りやハイキングは、ほとんどしません。
大学で生物系に進んだのも、動物に興味があったからです。子どもの頃、家でペットを飼わせてもらえなかった、だから、という面もあるかもしれません。
動物の行動生態についての研究は、体力勝負という面があります。鹿児島県の屋久島もフィールドにしていて、シカやサルなど特定の動物個体のあとを、一日中、十数時間もついてまわってデータをとることがあります。シカなどは夜も行動するので、たいへんです。
(樹の幹には、ヤマネやモモンガの生息状況を調査するための「巣箱」がつけられています。ここを休息場所に使った動物が巣材を残していくので、その巣材の種類から、どんな動物がこのあたりにいるかを知ることができます。鳥のための巣箱とは違い、出入りする穴が横に空けられています。)
山間地での暮らしは、いかがですか
職員宿舎に住んでいて、買い物は、海岸地域にあるスーパーまで、30キロメートル、車を走らせます。日常の食料品は、生協の宅配を利用しています。那智勝浦から、トラックで鮮魚を売りに来ることもあります。
(平井集落の中心部を走る道)
ここ平井集落は、人口が120人ほどの限界集落です。60歳は若者で、私などまだ「ひよっこ」です。小学校もだいぶ前に閉鎖されました。お盆や正月などに子どもが5人くらい集まっているのを見ると、珍しくてびっくりします。
(廃校になった小学校。名産のユズを加工する「古座川ゆず平井の里」事業などに使われています。)
集落で催しものなどがあると、招かれます。お葬式のことが多いですが。去年、精力的に、いろんな集落のお祭りに参加させてもらいました。集落ごとに様々な獅子舞があるなど、面白かったです。
そのときに思ったのですが、ここは「人間」や「社会」について研究するフィールドとしても有望な場所です。和歌山大学の研究者に声をかけて調査を始めてもらっているのですが、北大の人文社会系の研究者にも、古座川流域の歴史・文化・民俗などの研究に参加してほしいと思っています。和歌山研究林の施設や宿舎を利用できますので。
※ ※ 取材後記 ※ ※
平井の集落、研究林、そして研究林の庁舎は、「木」に溢れた「懐かしの日本」でした。研究林では近々、廃材を利用した木工品(ハガキや、ネックレス、置物など)の販売を、札幌キャンパス正門横の「エルムの森」で始めるそうです。
(研究林の庁舎に飾られていた木工品の一部です)
これまでの連載は、以下でご覧になれます。
また、和歌山研究林の庁舎(登録有形文化財)を紹介した映像作品(by 総合博物館 助教 藤田良治さん)が、こちらにあります。