渡辺豊さんからのバトンは、関 興一さん(安全衛生本部特任教授)に渡りました。
北大出身の関さん。薬学博士として、長年北大や私大で有機合成の基礎研究に携わってきました。2003年、57歳で北大内にあるアイソトープ総合センターの教授に着任し、新しい薬剤合成の研究と、センターの管理の仕事に携わりました。
アイソトープ総合センターでは、放射線にかかわる研究を学部の壁を超えて共同で進めたり、放射線の安全管理をしたりしています。放射線を使う研究は、医学、薬学、理学、農学、獣医学、工学、地球環境科学院など幅広い部局で行われ、関わる人は北大内でも2000人近くにのぼります。放射線の管理指導で、全学との繋がりが生まれ、文部科学省へ提出する書類のアドバイスなどを行ってきました。担当者からは、「関先生がいれば、無駄な時間が省ける」と、今でも頼りにされているそうです。
定年(63歳)後は特任教授としてセンターに残りましたが「このままここにいては居心地が良すぎて人間がダメになってしまう」と65歳の任期終了前に退職。1年後、戻ってきてほしいとの声がかかり、2012年4月から現在の安全衛生本部の特任教授に着任しました。
現在は安全衛生本部の所属ですが、月に1度はアイソトープ総合センターへ行き、講演会や研究指導を行っています。今でも北大内の各教員はもちろんのこと、技術職員とも顔見知りで、依頼されれば講義も行います。
取材時も、ちょうど北方圏センターの技術職員向けの講義スライドを作成中でした。そのスライドの背景画が気になったので尋ねると、「あぁ、これは私が描いたものですけどね」。
北大のメインストリートとモデルバーンの風景。絵は60歳を機に習い始めたそうです。「スライドの中身が難しいから、一息入れるのにいいかと思って」。
確かに内容は安全な放射線の取り扱いについてですから、かなり難解な文字が並んでいます。しかしこの絵が眉間に寄ったシワを伸ばしてくれそうです。
関さんのつながりは北大内だけではありません。
かつて共同研究をした、カナダのアルバーター大学のウィーブ先生とは、かれこれ20年以上の付き合いです。今では家族ぐるみで、今年は日本、次はカナダと行き来しています。
カナダのウィーブ先生のご自宅を訪問した際の写真。関さんの満面の笑顔からも楽しさが伝わってくるようです。
結局、すべてをリセットとはいかなかった関さんに、現在の心境を聞いてみました。
「こんなはずじゃなかったんだけど」と笑いながら、「今は、繋がっていて良かったと思うよ。これまでのノウハウや人脈があるからこそ仕事がスムーズにいくのだから。研究プラス管理。管理を通じていろんな人と付き合うことで思想や知識が増えていく。人との出会いが研究にも役立つと思っています。」
机の上には新しい資料。「来年(2014年)に、北大で開催の、日本放射線安全管理学会の学会長なんですよ。」今はそれに向けて準備を進めているそうです。一旦現役を離れたことで、自分の研究を違った目で見ることができた関さん。きっとまだまだ多方面からのラブコールは続くことでしょう。
次は、アイソトープ総合センター教授の久下裕司さんです。