「北海道大学」には、札幌と函館(水産学部)のキャンパス以外にも、各地に教育や研究のための施設があります。
今回は、道南にある「臼尻水産実験所」を訪問。所長の宗原弘幸さん(北方生物圏フィールド科学センター 准教授)に案内していただきました。
臼尻水産実験所は、JR函館駅から北東の方向に直線距離で25キロメートルほど、噴火湾に面した函館市臼尻町(しばらく前までは南茅部町臼尻)にあ ります。函館駅でレンタカーを借り、道道83号線で約50分。海に突き出た岬の先端に、2階建の建物2つ(研究棟と宿泊棟)からなる「臼尻水産実験所」が あります。
到着したとき、宗原さんはちょうど調査のため、海にでかけるところ。2時間ほどあとに海から戻ったところで話をうかがいました。
ここは、研究がとても活発な水産実験所の一つだそうですが、どうしてですか?
実験所の前に広がる噴火湾には多彩な生きものがいる、という地の利があります。噴火湾は、日本海を北上し津軽海峡を東に進んでくる暖流と、根室のほ うから南西におりてくる寒流とが ぶつかる場所です。おかげで、暖かい海に棲む種も、寒い海に棲む種も、魚に限らずいろいろな生きもので見ることができるのです。
また、小さいながらも岬があって、実験所はその先端部に位置するので、飼育に適した沖合の海水を取り入れやすいというメリットもあります。研究・教育の拠点である函館キャンパスから近いというのも、国内の他の水産実験所にはない特徴ですね。
国内、国外の研究者も訪れてきますし、学生の実習の場としても、盛んに利用されています。
(学生用のウエットスーツ(左)と潜水具)
宗原さんは、どんな研究をしているのですか?
近ごろは、人工物によって環境を変えると、それに対し生きものがどのように反応するか、調べています。
人が家を建てると軒先にスズメが巣を作ります。都会にゴミ置場ができると、そこにカラスが集まってきます。これと同じようなことが海の中でも起きるのです。
たとえば、昆布を養殖するため大きな網に石を入れて海に沈めるのですが、するとアイナメが、その網の口を結わえたところを好んで、そこに産卵するんですね。
しかも臼尻沿岸では、それらアイナメ属で、とても興味深い現象を見ることができます。
たとえば暖流にのってやってきたアイナメと、アラスカのほうから寒流に乗ってやってきたスジアイナメとがこの付近で出会い、アイナメが父親、スジアイナメが母親となって、メスしかいない雑種を作るのです。
「雑種生殖」と呼ばれるもので、魚類では4例目という、とても珍しいものです。この雑種生殖の遺伝的な仕組みがわかると、希少生物の遺伝子の保全などにも応用できると考えています。
海が好きだったのですか。
小樽生まれで、小さい頃から、海も魚も好きでした。昆虫は苦手です! 蜘蛛やゴキブリなんか、触れません。
大学時代は理学部の高分子学科で物理化学を勉強していたんですが、海の魚について研究したくて、紆余曲折の末、この実験所にやってきました。海に潜るようになったのは、ここに来てから。海が好きだったから、すぐ出来るようになりました。
函館の市街地に住んで、車で30分ほどかけて、この実験所に通っています。
学生たちも、函館キャンパスで授業もあるので、普段はルームシェアなどして函館の街中に住んでいて、調査の時などだけ、この水産実験所の宿泊所で生活しています。長い学生ですと、1年のうち300日ぐらいはここにいるでしょうか。
どんなタイプの学生が多いのでしょう。
街のネオンより生きもののほうが好き、という学生が多いですね。
卒業したあと、生物学に関係ない企業や役所に勤める者もいますけど、「自然や生きものと関わる」というここでの体験が社会に出て役立っている、という話をよく聞きます。
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臼尻水産実験所は、1970年に、水産学部の一施設として設けられました。2001年からは、組織改編により、北方生物圏フィールド科学センターの一施設として位置づけられています。設立から40年あまり、数多くの研究者や学生が、実験所の前に広がる豊かな海をフィールドにして新しい発見を積み重ねてきたのですね。