前半では河原さんの行った研究内容についてふれてきました。ここからは河原さん自身について伺っていきます。どのようにして心理学者の道に進んだのか、マスクの研究をはじめた当時の状況、今後の夢など、興味深いお話をしてもらいました。心理学に興味がある方はもちろん、将来についてぼんやりと考えはじめている方や、研究者の日常や背景をのぞいてみたいという方にもぜひ読んでいただきたいと思います。
【遠藤志麻・総合文系1年/平田佳雅・総合理系1年/俣木すず・水産学部1年】
大学に進学されたときにはすでに心理学をやりたいと思っていたのですか?
その時は世の中が非常に明るくて、バブルだったので。「就職もまあなんとかなるやろ」みたいな感じだったんですよね。それなら大学院に行ってもうちょっとやってもいいかなという気がしたわけです。「就職したくなったらすればいいし」というくらいの軽い気持ちで。そのうちどんどん日本の調子が悪くなって、「おおこれはやばいぞ」となりました。卒業論文を書いて、大学院の時にそれが学術誌に載ったんです。そこでこの業界でもやれるかもしれないと思って。それでそのまま30年くらい。
高校の時に心理学に出会われたとのことですが、それ以前の小学校や中学校、もっと小さい頃に経験していたことで、今につながっていることはありますか?
親がバリバリの会社員だったので、うちの親みたいなことはできんな、会社勤めは勤まらんと思っていたんです。祖父は大学で教えていて、のんびりして楽しそうだなと思っていたので、そういう生き方だったらいけるかもと思って。
質問の答えにはなってないけど、ある時私が北大に勤めはじめることを話したら、父が、苫小牧のある工場に商品を売りに行ったときの思い出を話してくれたんです。アポなしでものを売りに行ったらしくて。私はその人の子ですから、そういう素質を受け継いでいるんじゃないかと思いました。というのも、思い返すと、共同研究をするときに飛び込み営業的なことをしていたんです。県警に電話をかけて、こういう研究をやったのでどなたか話しを聞いていただけませんかって交通課に行って、一年一緒に研究をしたことがあって。だから小学校の時に意識的にそれをやったとは思っていないけれども、そのもっと前から、うちの家系かもしれませんが、飛び込み営業の素質があるのかもしれないと思いました。
普段、息抜きはどのようにされていますか?
息抜きか。ずっと研究室にいるから。その点で、ネタを提供できなくて申し訳ないのですが。あえていうならば、授業のコメントの紙を読んだり、コメントへの返事を考えたりすることが楽しいので、それをずっとやっています。中学・高校時代では深夜のラジオを聞くのが好きだったんですよ。なので、ずっとお葉書にお返事をするみたいなことをしたいなぁと思っていました。大学では、授業にコメントがくるじゃないですか。そのコメントをもう一度読み返したりしていますね。
マスクと顔の魅力の関係にかんする研究などについて、コロナの流行による影響や、周りの反応の変化はありましたか?
コロナ前は「国立大学のくせにこんな馬鹿げたことするな」ってある掲示板で書かれたこともありました。僕は「別にいいじゃん」って思ってたんですけど。でも今となっては「とっても貴重なデータですね」とか言われるようになったんですよね。人は状況によってすごい態度が変わるんだなって思いましたね(笑)
コロナが流行する前に研究内容について色々言われたことがあったということですが、その時はいつか役に立つと考えていたのか、それともこれは研究として面白いという好奇心で研究されていたのか、どちらに近い感じでしょうか。
その時は、いつか役に立つとは思ってませんでしたね。でも誰も調べていないことだったので、それは調べる意義があったのではないかと思います。不幸にも今回は役に立ってしまったのですが…。だけどある偉い先生が、困っている人に役立つ研究をすることも大事で、そういう研究のテーマの選び方もあるという風におっしゃっていました。なのでマスクに限らず、誰もやらないんだけど、困っている人がいるような分野に切り込んでいけたらなと思っています。
先生の将来(これから先)の夢、目標、やってみたいことはありますか?
法律と心理学などが合わさった領域に、法と心理があるんですよ。例えば,刑事事件の証言などの正確さや記憶の影響などを調べる研究がなされています。「司法心理」と呼ばれたりします。
そういった刑法に限らず,適正な商品の表示の仕方を定めた法律も心理学に関わりがあり,法と心理学の守備範囲だと思います。広告に、打消し表示(何らかの商品について特長やメリットを説明する際に、その内容に例外がある場合に表示される注釈のこと)というのがあって、「○○なんとかセール! ただしこれこれをご購入の方に限ります」とかありますよね? これ本当は本来のメインメッセージの強調表示と比べると見落とされやすくて、この打ち消し表示に気づかずに思ったのと違う契約してしまうとか、意図しないものを買ってしまう人がたくさんいます。
刑事訴訟法とか刑法とかに比べれば、引っかかる人の人数がすごく多いがダメージは少ない。けれども、小さく見えて、会社は何億円もぼろ儲けといった例もありますから、そっちに注目して勉強してみたいと思ったりもしています。
私生活でやってみたいことはありますか?
本籍地が広島なので、広島風のお好み焼きの店をやってみたいんですよね。札幌には店があまりないので、二週間に一回ぐらいは焼いていて、お店開いたらいいのかなと思うけど、それは極端な話で。お店にある大きい鉄板で、お好み焼きを焼いてみたいと常々思います。
後半では河原さん自身のエピソードについてお聞きしました。心理学方面に進もうと思ったきっかけや私生活などについて、とても気さくにお話していただきました。その中で、研究者として世の中の役に立つことを発見したいという河原さんの信念を垣間見たように思いました。
現在、河原さんの研究室では研究に使用する実験の被験者を募集しています。今回の取材にあたって、私たちも実際に被験者となって実験に参加するという初めての経験をしました。北海道大学の学生なら誰でも参加可能とのことなので、興味を持った方はぜひ参加してみてください。
詳細は河原研究室公式ツイッターから→https://twitter.com/f209hokudai
この記事は、遠藤志麻さん(総合文系1年)、平田佳雅さん(総合理系1年)、俣木すずさん(水産学部1年)が、一般教育演習「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果です。