ある日、親しくしている先生を訪ねたら突然スパイとして検挙される。現在、北海道大学総合博物館で展示が開催されている「宮澤・レーン事件」80周年特別展では、戦時下で理不尽に逮捕され、懲役15年という重刑を受けた北大生、宮澤弘幸とその事件をめぐる人々の交流の軌跡が展示されています。
*本文中は展示に合わせ、敬称略で表記しています。
北大におけるあたたかな交流
北大は建学時から外国から来た教員と共に国際的に学ぶことのできる大学でした。外国人教員の中には親日家も多く、事件で宮澤と共に検挙された英語教師のハロルド・レーンとその妻であり日本で生まれ育ったポリーン・レーン夫妻もそのうちの一組。当時、大学で本格的に学ぶ本科の前に、3年の予科が設けられており、宮澤とレーン夫妻は予科時代に出会います。
展示では宮澤が多くの外国人教員と共に語学を学び、家族ぐるみの交流を深め、学問的な刺激を受け先住民の暮らしに興味を抱いた様子を、パネルによる解説と当時の新聞記事や刊行された出版物などから追うことができます。家に招き合い、ともに旅行を楽しむ展示史料からは、想像以上に深い交流があったことが読み取れます。
記録史料から浮かび上がる社会的な空気
本展示は、当時の公文書や新聞、刊行物といった記録史料を中心に構成されています。史料からは文字情報だけでなく、当時の社会的な空気も伝わってきます。
宮澤が突然検挙された後に出された退学届け、ハロルド・レーンを有罪にした判決書が展示されたケースを見ると、当時社会的に大きな力が働いて彼らの罪が作られていったことがうかがえます。
また、後半の展示では戦後、釈放された宮澤の再起に向けて出した復学届、検挙後アメリカに送還されたレーン夫妻の再来日に願った北大の動きを伝える新聞記事が展示され、事件によって失われた学びと交流を取り戻そうとする意志が見られます。
名誉を回復するために
宮澤は刑務所の過酷な環境によって体調を崩し、復学の願いもむなしく、27歳の若さで逝去します。その死後からおよそ40年余りたった頃、人権派の弁護士である上田誠吉の著書をきっかけに「宮澤・レーン事件」の冤罪が知られることとなります。当時上田にあてた宮澤の実妹の秋間三江子の夫の手紙からは、改めてこの事件の不条理さを問う思いが切々とつづられています。
最後に、現在北大ではこの事件を語り継ぐ動きが生まれていること、市民の間で学ぶこと、交流することが二度と侵害されないためにこの事件を問い直す動きが紹介されています。
偏見を持たずに交流し、学びに貪欲だったがゆえに冤罪に巻き込まれた宮澤の悲劇は本当に戦時下の特殊な事件なのでしょうか。事件から80年たった今、社会の空気で学びの権利や交流の自由が脅かされないために大学はどのように堅牢であるべきか、改めて考えるきっかけとなる展示になっています。
本イベントの開催情報です。
「「宮澤・レーン事件」80周年特別展~事件をめぐる‘出会い’と‘絆’をたどる~」
日時:2021年12月4日(土)~ 2022年1月30日(日)10:00~17:00
場所:北大総合博物館 1階企画展示室
参加費:無料
詳細は【こちら】