毎年8月末に開催されているマーケット「北大マルシェ」。2010年から始まり今年で5年目になります。道産の野菜や果物、乳製品、畜産品などが店に並び、多くの市民があつまる場となりました。マルシェをとりまとめている小林国之さん(農学研究院 助教)にお話をうかがいました。
【川本思心・CoSTEP/理学研究院 准教授】
北大マルシェはどのような取組みなのでしょうか
北海道は食料生産にとって重要な地域です。そこで学ぶ学生たちにも大きな役割があります。学生たちは、農家での実習や様々な講義などを通じて知識や体験を得ます。でも、それだけでは十分ではありません。そこから何を多くの人たちに伝えることができるのか、という問題意識が北大マルシェの元になっています。
実は北大マルシェは私が担当する『食の安全・安心基盤学』という大学院授業の一環として開催しています。しかも、この授業は酪農学園大学、帯広畜産大学との連携授業です。北大生だけではなく、様々な人との関わりがマルシェにはあります。
どのような人々が関わっているのでしょうか
大学院の授業ではありますが、マルシェの主役は、道内各地で生産・加工を行っている出店者の方々です。実行委員の学生たちは、そうした人たちの思いを伝えるマルシェという場のプロデュースを行うという立場です。
開催に際しては、大学本部はもとより、農学部の先生方、事務職員の方々の協力が不可欠です。また、当日の会場設営から出店者の方々のサポートなどでは、北大生を中心としたボランティアスタッフの皆さんの協力なしには、実現することはできません。
授業で実施されるため、毎年新しいメンバーで運営されるという点もマルシェの特徴です。毎年新しいアイデアがうまれるという良い点もありますが、運営という意味では、きちんとした引き継ぎをすることが重要になります。
企画で大切にしている点は
毎年一番大事にしているのは、大学が『マルシェ』をやる意義です。農産物の直売イベントや物産展などは、全道各地で開催されています。そうしたなかで、なぜ大学がマルシェをやるのか。毎年4月に実行委員となった院生たちは、そのことについて真剣に議論をしています。
年に一回きりという意味では、単なるお祭りに違いありませんが、そうした中でも、日本の食や農業、暮らし方について、ほんの少し先の未来を考える、その一つのアイデアを提供することが、大学でやるマルシェの意義だと考えています。
北海道と「食」の結び付きは強いですね
北海道の農村はこれまで、日本の食料供給を支えてきました。農業の目的はまず何よりも、遠隔消費地への安定供給にありましたし、そのために農業、農村の形も作られてきたといえます。そうした歴史的な使命を果たしてきた一方で、消費者と生産者との距離の拡大も生じてしまいました。
ある農家の女性に話を聞いたことがあります。その方が富良野にお嫁に来たときに「家族が食べるための野菜をつくるために土地をすこしだけ使いたいと」言いました。すると経営主である義父は「そんな土地があるなら売るための作物をつくれ」と言われたそうです。その女性は軒下の日当たりの悪いわずかな土地で自家用の野菜を作ったそうです。
北海道の農家にとっての農業とは、まさに商品経済のための農業であり、そうした状況が今の北海道農業をつくってきたのです。
マルシェのメッセージを教えてください
今は飽食の時代です。飽食は放食、崩食ともいわれます。食がどこからやってくるのか、そのことについて知識だけではなく、ある種の実感を持つことが、これからますます重要になってくると思います。
北大マルシェの目的は、直売だけが最も良い流通のあり方だ、と言うためでは全くありません。こんなにも離れてしまった、農業生産と消費、農村と都市が、互いに少しだけ関わり合うためのきっかけになればと考えています。北大のキャンパスは、そうした意味でとても恵まれた場所にあるとおもいます。
マルシェという空間で何が生まれるのでしょうか
初めてマルシェを開催した2010年のある出来事が印象的でした。当日、私は裏方のドタバタ騒ぎを離れ、別の仕事に向かっていました。その時、小さなお子さんをつれた女性が、「何か楽しいことやってるのかな?」といいながら、中央ローンのあたりをお子さんと手をつないで歩いている姿を見ました。こう言うと大げさかもしれませんが、大学と地域、学問と暮らしとの新たな関係の可能性を感じた瞬間でした。
今年の実行委員の17名の学生が考えたマルシェのテーマは「ROOTS〜あなたの食は、どこから?〜」です。皆さんも是非、当日会場にお越しいただき、道内の生産者の人たちとふれあい、おいしいものを食べ、すこしだけこれからの北海道や日本の農業や食、そして暮らし方について考えてもらえたなら何よりです。