ドローンが飛び、パワーショベルが唸りをあげる。土を削り、篩にかけ、雨を遮断し、ミミズを捕まえる。葉をむしり、枝や幹をわけ、根を洗いだし細根までよりわける。高所への計測機器を取りつけ、上空から地上からレーザーを使い測量する。
「デジタルバイオスフェア(Digital Biosphere)」は、令和3年度「学術変革領域研究(A)」に新規採択された研究領域である。温暖化などの地球環境の激変を回避する方策として、排出されたCO2の吸収量、バイオマスへの供給量、そして必要とされる土地面積などを定量化し、温暖化対策へ貢献すべく日夜奮闘している。メンバーが一堂に会し日頃の調査研究を直接体験すべくキャンペーン観測が昨年東京湾を会場におこなわれ、今年は広大で地形の起伏が少ない森林をもつ苫小牧研究林を舞台に7月24日(月)~28日(金)の5日間にわたり実施された。
参加機関は北大・東北大・東大・京大・九大・新潟大・岐阜大・岡山大・東邦大などの大学を始め、港湾空港技術研究所・国立環境研究所・原子力機構・国際農林水産業研究センター・JAXA・JAMSTECなどそうそうたる研究機関約20、総勢80名もの一大プロジェクトだ。
森林のCO2吸収の指標として炭素量をはかるのに、ドローンを使って上空から測量するだけではなく、ドローンでは測量できない地上部の幹や枝をレーザー測量し、より制度の高い精度で炭素量を算出する技術の開発をめざしている。中でも大がかりなプログラムは高さ約15mのミズナラを切り、枝・葉・幹の重量をはかるほか、重機で根を掘りおこし地下部の重量まではかり炭素量を実測しモデルをつくるのだ。参加大学の中には、私有地で人力でおこなっていた作業が重機でいともたやすく掘削できることに感動した方もいたようだ。こうしたことは技術系職員が常に研究現場でサポートしている研究林ならではのことで、FSCは単にフィールドがあるだけではなく技術職員によって支えられているのである。
同じドローンでも藻場が吸収するCO2を計測するために開発されたドローンはなんと初フライトが2週間前のできたてホヤホヤだったり、同様の観測機器を研究林のクレーンに設置して比較できるよう高所作業に汗をかいたりとメンバーの奮闘はつづく。
また地下に埋没している有機物が分解してCO2の発生源になることも懸念されることから、そのしくみや原因を探るべく深層の炭素量を計測したり、ミミズの活動までもがその研究対象になっている。
CO2を森林が吸収固定するグリーンカーボン同様、藻場が吸収固定するブルーカーボンにも注目すれば、問題となるCO2の排出量に対し、吸収固定する森林や藻場の面積を算出することで、必要に応じた国土や海域の開発や保全計画に役だつことだろう。彼ら彼女らは、出さない技術ではなく、出ちゃったものを吸い集めるのに必要とされる自然を算出して地球温暖化に対抗する、我らがアベンジャーズなのだ。
学内に限らず、他大学・研究機関とも協働して調査研究に活用されるフィールドを持つFSCとはField Science Center for Northern Biosphere, Hokkaido University、北方生物圏フィールド科学センターの略称である。
【林忠⼀・北⽅⽣物圏フィールド科学センター/いいね!Hokudai特派員】