北海道大学総合博物館1Fにて、2月10日から4月14日まで、企画展示「GAME START Ⅱ これからのビデオゲーム展を考える」が開催されています!
むかし懐かしいゲーム機やソフトの数々が展示されているのですが、その展示手法には独特のこだわりがあるようで……。
展示を担当した、北海道大学大学院文学院博士後期課程の寺農織苑さんにお話を聞いてみました!
【宮本道人・北海道大学CoSTEP】
まずは、今回のメインの展示物を紹介して頂けますか?
はい。今回の展示では、ゲーム機とソフトなどの資料が9セット展示されています。この9セットは、全国のミュージアムが所蔵している割合が高い9点のゲーム機と、そのソフトです。これらを所蔵率順に並べました。
所蔵率順、面白いですね! 製作年代順とかの方が直感的には分かりやすそうですが……どういう意図があるんですか?
色々な意図がありますが、例えば、ミュージアムの所蔵資料に偏りがあることが読み取れたりしませんか?
なるほど、言われてみると、任天堂のものが多めかなぁとか思ったり。
それも一つですね。ファミコンが展示されているミュージアムはけっこう多いんです。ゲームの歴史を展示するというだけでなく、昭和の暮らしを紹介する中で展示されたり。ただ、ファミコンはたしかにたくさん遊ばれたんですが、歴史的にはその前に他のゲーム機も存在していたりします。こういった気付きを通して、博物館の所蔵ゲームってなんでこんな偏ってるの?って感じて頂けたら、というのを意図しています。
その意図ありきで、この展示方法にしているのがすごく面白いです。意図を直接的に書いたり、資料の詳しい情報をたくさん掲示したりすることはできそうなものなのに、あえてそうしていないのにも意図があるんですね。
いちおう、ファミコンの前にこういうゲーム機があったよ、というのは解説文に書いていたりするんですが、そこの流れは見せていないですね。何でもかんでも博物館側が情報を提供するのではなく、それを見た人がそれをどう考えるかが重要かなと。特に、あくまで今回は「ミュージアムがどうビデオゲームアーカイブの発展に寄与できるか」を考えさせることに重きを置いていて、単にビデオゲームの紹介をしたいのではないんですね。
コンセプトが尖りきってますね(笑)。解説文もABCの3種類があり、ふつうと全然違う感じですが、これはどのような形式になっているのでしょうか?
ゲーム機とソフトなどの資料1セットに対して、3つの解説文をつけるようにしています。
どういう違いがあるんですか?
解説文を書いているメンバーが異なるんです。ゲーム開発者、研究者、学芸員、コレクターで組んだ4人のチームを別々に3つ、ABCと作って、私を含めた全13人で解説文を作りました。
このチームA、B、Cは、解説文のコンセプトが違います。
Aチームは、パネルが読まれないっていうことを前提に文章を短く書いて、鑑賞者が後で自分で調べるところに繋げることを意識しています。
Bチームは比較的オーソドックスな、背景をきちんと説明する解説です。
Cチームはメンバー自身の思い出なども書いていて、当時どう遊ばれていたかも分かるようになっています。
確かに、同じものを説明しているとは思えないぐらい違いますね……。
ちなみに、在庫は少ないんですが、図録を販売していまして、そこにもこのABCの解説文の工夫を反映しました。というのも、解説文をシールにして、9セットの展示のそれぞれに対し、ABCのどれを取って貼ってもいいように作ったんです。
何でこうしたかっていうと、お客さんがどれを取るかによって、求められる解説文が分かるんですよね。そうしたら、お客さんはどういう情報を求めてゲーム展に来るんだろうとか、そういう分析に繋げられるかなと思っています。
お客さんと言えば、お客さんにゲームの思い出を書いてもらうコーナーもありますね。
あれにも大事な意図があります。大学やNPO法人など、ゲーム保存をしているところに、普通の博物館はまずアーカイブでは勝てないし、管理する意味も特に見出すことはできないかもしれない。となると、何を博物館がアーカイブすればよいのか。
これは私の考えなんですが、その町では、どこにゲームセンターがあったとか、どういうゲームがいつ流行ってたとか、そういう情報を地域の博物館が集められたらいいんじゃないかと思っています。すると、ゲームの遊ばれ方の地域差みたいなのが見えてくるかもしれない。
だから、この展示は、単に「ゲームボーイ懐かしいね」とか感じるだけでなく、お客さんにその一歩先に行ってほしいと思ってて、その「懐かしい」っていうのをどうアーカイブしていくかを考えていただきたいと思っています。
そもそも寺農さんは、どういった経緯でそこに着目されたんですか?
私は北大に来る前、博物館に学芸員として務めていまして、そこでゲーム展示を行ったんです。そのときに、感想を書くコーナーを設けていたら、意外といろんなことがわかりまして……。例えば、私のクラスの友達の家がファミコンの箱を作る会社やってましたとか、任天堂の工場から海外輸送するためのトラックドライバーやってましたって人がいたりとか。ゲーム研究のなかで、メーカーへの研究はあるわけですが、なかなかユーザーに届くまでの間が研究されてないなと思って、こういう情報を集められたらどうだろうと思ったのがきっかけです。
学芸員のキャリアを経由して、大学院に入られたんですね!
そうです。どういう展示が作りたいか考えているうちに、博物館学からアプローチした方がいいかなと思って勉強しだして、もっと本格的に学ぶぞと思って仕事を辞めてきたと。
なんと(笑)。すごい覚悟ですね。でもなぜ北大を選ばれたんですか?
博物館学っていう学問はいろいろあるんですけども、その名前でゼミ持ってるところってすごい少ないんですよ。そのなかで、特にビデオゲーム展示研究にも理解を示してくれそうだったのが、うちの佐々木亨先生の研究室でした。
ホントにゲーム展示がしたくて北大に来た、ってことですね。素晴らしいです。では最後に、今後のゲーム展示でこんなことがしたい、というのを教えて頂けますでしょうか?
70年代のゲーム展をやりたいですね。これはもう懐かしさとか何もないと思います。っていうのも、見たことないやつばっかりと思うんで。そもそも博物館は知らないものを学びに行く場なので、知ってるものがある方が珍しいわけです。たとえば埴輪を見て「懐かしい~」って人はいないんですよ。自分の知らない過去のものを学びに行くのが人文系の博物館だと思うので、知ってるものばかりあるゲーム展示とは違う切り口で展示を作ってみたいです。
70年代ってファミコン以前で、たしかにあまりイメージしにくいので、色々見てみたいです! ぜひ実現させてください! 寺農さん、お忙しいところありがとうございました!
取材後の雑談で、「近所のゲームのうまい兄ちゃんになりたかった」と語っていた寺農さん。
展示にはそんな寺農さんの一風変わったゲーム愛が溢れていました。
世の中のゲーム展示のあり方をメタ的な観点で見られる企画展示「GAME START Ⅱ これからのビデオゲーム展を考える」は4月14日まで!
今回の記事では展示の一部しか紹介できませんでしたが、ぜひ北大総合博物館で、この面白さのすべてを体験してみてください!
開催情報
企画展示「GAME START Ⅱ これからのビデオゲーム展を考える」
会期:2024年2月10日(土)〜2024年4月14日(日)・月曜日は休館日のためお休み
時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
会場:北海道大学総合博物館1階 文学部展示室
入場料:無料