北大農場と言えば、ポプラ並木や高層ビルをバックに乳牛や羊が草を食み、トウモロコシやジャガイモ畑の広がる畑作をイメージされるのではないだろうか。実はそんな農場の一角には水田があることは余り知られていない。
米という字は分解すると八十八となり、そのくらい手間がかかるからとも言われているが、現代ではそこまでもないにしろ、やはり手間がかかる。今回は種籾(たねもみ)をまいてから田植えまでの紹介だ。一口に種籾をまくと言っても、塩水選・消毒・浸種・催芽の工程がある。塩水選は比重1.13の塩水に種籾を入れ、浮かんだものを除く。実が充実してないので発芽しないからだが、今回は発芽率の検定済みなので省略した。消毒は10分程度薬剤に浸しておこなったが、ものにより24時間かけたり、温湯での消毒方法もある。このあと11~13℃の水温で5~7日水に浸し、発芽の様子を見て水温を徐々に上げ30~32℃で15~20時間かけて催芽(芽出し)をおこなう。
催芽済みの種籾は播種機でまきやすいように芽が痛まぬ程度に乾かす。種籾まきは全自動化されていて、育苗箱へ土を入れ、鎮圧をしてへこみを付け種籾を落とし、殺虫・殺菌剤まいたあと覆土する。この一連の作業は一定リズムの機械音と相まって現代アートのようでもあり見飽きることがない。ここからは積み重なった育苗箱は人力でビニールハウスへ運ばれ、地面に密着するよう育苗箱の上に板を敷き、その上で人が飛び跳ねて押さえつける。最後に育苗箱全体に灌水し、寒冷紗(かんれいしゃ)をかけて苗の育つのを待つ。こうして育った苗が田植機で植えられるが、学生実習または実験水田では、一部手植えがおこなわれている。
これ以外にも、トラクターで田起こしをし、水を引いたら代掻き(しろかき)をして土をさらに細かくする。畦道の雑草刈りもするが、機械の入らない細い畦には防草シートをかけたりもする。特に草刈りが必要なのは、米の品質を落とすカメムシを寄せ付けないためだ。田植えが終わってもうまく育たなかったところは追加で植えるし、これからは水田雑草と病害虫との戦いも始まる。「寒さの夏はオロオロ歩き」ではないが、寒けりゃ冷害、暑ければ高温障害、雨が多けりゃ日照不足、日照りが続けば地下水汲み上げの電気代は高く、台風や突風で稲が倒れないかビクビクしながら今年も豊穣の秋が来ることを祈るばかり。
水田はポプラ並木の東側にある。並木のすぐ横だけあって、日照不足が悩みのタネでもある。また地下水を使うため、水温を上げるため水田の南端には遊水池があり、一旦貯めて温かくなった水を使っている。その遊水池も近年は漏水が酷く機能が損なわれつつあるが、そんな苦労をしながら稲作もおこなっているFSCとはField Science Center for Northern Biosphere, Hokkaido University、北方生物圏フィールド科学センターの略称である。
【林忠⼀・北⽅⽣物圏フィールド科学センター/いいね!Hokudai特派員】