【赤路佐希子・山崎裕子| 2026年度CoSTEP受講生】
北大祭の模擬店が並ぶメインストリートから農学部棟へ少し入ったところに、ライムグリーンと白壁の印象的な建物が見えてきました。
何の施設だろうと思って近づいてみると「北海道大学北海道ワイン教育研究センター」の文字。
脇の花壇にはブドウの苗が植えられています。
北大祭の間は、ワインに関するセミナーや北大交響楽団有志による演奏会が実施されていました。


北海道ワイン教育研究センターにある北大ワインテイスティング・ラボの中に入ってみると、北大祭の来場者に北海道ワインのことを知ってもらうため道産ワインの生産や気候変動対策の研究などの取り組みを紹介するポスターのほか、北海道ワインの紹介と空き瓶がずらり。

落ち着いた音楽が流れる静かな会場の受付にいた北海道ワイン教育研究センター センター長の曾根輝雄さんが「北大祭の間は提供できませんが、ここではワインの試飲もできるんですよ」と和やかに話してくれました。
北海道ワイン教育研究センターは、2022年に学内共同プロジェクトとして北海道大学内のいろいろな学部の先生が集まって発足しました。
2023年に改修された現在の建物の活用方法を考えるタイミングとも重なり、希少な北海道産ワインを気軽に楽しめる場所にしたい、という思いをもとに大学内でワインテイスティングができるラボとなりました。
今年初めて北大祭に参加したテイスティング・ラボには、ワインの試飲ができることを知らない来場者が多いようでした。残念ながら北大祭では酒類が提供できないため、試飲について説明を受けた来場者からは「ぜひ改めて飲みに来たいと思います」という声が聞かれました。

なぜ、大学の中でワインテイスティングができる場所を作ろうとしたのでしょうか。
「北海道ワインを楽しめる場所。それが研究から裏づけできる北海道大学という環境の中にある、という状況を実現したかったのです。」
と曾根さんは話してくれました。
このラボは、研究の結果をワイナリーの人たちへ共有する場としても活用されています。ワイナリーの人たちからのフィードバックは、研究や新技術に向けた新しい視点になっているそうです。
例えば、ブドウ栽培の土壌改良剤としても使われているキトサンは効果が出るまでに半年かかるのですが、研究により改良されたキトサンは安価で、少量にもかかわらず、すぐに効果を発揮できるようになったとか。

ほかにも、ブドウを栽培するワイナリーにとってカメムシは悩みの種で、いつ発生し、どこで増えるのかといった詳しい生態は十分に分かっていませんでした。
そこで、大学内で昆虫を専門とする教員に研究を依頼したところ、カスミカメという小さなカメムシが年2回発生すること、ブドウ以外の植物でも増えること、ブドウの芽の中で冬を越すことが明らかになりました。こうした知見は、薬剤散布の場所や効果的な時期を考えるうえで役立つそうです。さらに、カメムシの腸内から、植物に病気を引き起こすファイトプラズマという微生物が見つかりました。カメムシはブドウ以外の植物でも増えるため、別の植物へも病気を媒介している可能性が見えてきたのです。
ワインを軸に大学の中で広がっていく研究の輪。北海道大学内でも知名度はまだまだ、とのことですが、これからの取り組みを語る声には力がこもり、強い情熱が感じられました。
「ワインを軸に北海道の地域活性化につなげていきたいと思っています」
と、曾根さん。
「北海道には地域課題が多く、人口減少が最も深刻だと考えています。札幌には多くの観光客が来てくれるし人も多いですが、地方では人口が減少傾向です。そこで、ワインを核に食や観光を地域の資源にすることで人が定着し、人口減少を食い止めることができるのではと思っています。」
それをワイン発の活動で実現したい、と力強く一番の目的を話してくれました。
ワインが北海道の地域活性化につながるとは……想像もしていませんでした。
もうひとつ驚いたのは、北海道大学でしか飲めないワインがあることです。
なぜ北大でしか飲めないのでしょうか。
「私や私の研究室の学生が余市の果樹園で育てて北大で作ったワインなのです。」
週に一度のペースで曾根さんみずから果樹園に通ってブドウを育てているそうです。
2026年6月現在、北大ワインの製造本数は約200本と少なく、ワインテイスティング・ラボで提供される分でほぼ消費されるため、一般に流通していません。

お酒はあまり飲めない筆者ですが、曾根さんのお話を聞いているうちに、道外からでも改めてテイスティングに訪れてみたくなりました。
札幌に来られるワイン好きの方々のみならず、北海道ワインを体験してみたい人はぜひ北大ワインテイスティング・ラボに訪れてみてはいかがでしょうか。
北大ワインテイスティング・ラボ
開館日:毎週 金・土・日・月曜日(年末年始などを除き、金・月曜日が祝日でも開館)
開館時間:金曜日 11:00〜19:00、その他の曜日 11:00〜17:00
(最終受付は終了時間の30分前)
参考文献URL
- 北海道ワイン教育研究センター, https://sites.google.com/view/research-for-hokkaido-wine/, 最終閲覧日:2026年6月7日